結んで開いて綻んで⑫
大和は教室で静かに読書していた。 昨日あれだけ律に言いたい放題言ってしまったのもあり、何となく居心地が悪かったのだ。 顔を上げず読書をしていれば時間も過ぎるだろう。
そう思っていたのだが、読んでいるのに内容が頭に入ってこない。 そんなところに声をかけられたのだから驚くのも無理はなかった。
「おい」
「え? あ、あ、律くん!?」
顔を上げると律がいて大和のことを見下ろしていた。 慌てて席を立ち、もう一度頭を下げる。
「律くん、本当に昨日はごめん!」
「もうそれはいいよ。 ・・・それより昨日、父さんと話してみたんだ」
「え?」
律は気まずそうに顔をそらしてながら言う。
「あのテニススクールに入る時、親に凄く反対されたんだ。 『無意味な習い事はやらせない。 時間の無駄だ』とか言われて。 何度も何度も頼み込んだけど駄目だった。 金と時間の無駄ってさ」
「そんな・・・」
「でも俺はどうしてもやりたかったから、『絶対にスクールでエースを取るから』っていう約束をしたんだ。 そしたら承諾してくれた。 だけど、一度はエースになったけど春にアイツがやってきた」
「それで言われたの? 『エースになれないなら、テニスを辞めろ』って」
その言葉に律は頷く。
「そんな! 無意味な習い事なんて、一つもないじゃないか!」
「でもそういう決まりだったから」
「でも律くんは辞めたくなかったんでしょ? だからあの時、一人で泣いていたんだよね?」
「・・・」
律は気まずそうな顔をして大和に向き直る。
「だから昨日、父さんと話してみたんだよ。 『エースの座を取られたとしても、まだ続けたい』って。 俺の本当の気持ちをぶつけてみた」
「ッ、それでどうだったの!?」
「最初は予想通り駄目だったよ。 だけど懸命に頼み込んだら『そこまでやりたいと思うなら続けなさい』って言われた」
「本当に!? 律くん、テニスを続けられるの!?」
大和は自分のことのように喜んでいた。
「あぁ。 昨日、意気地のない俺をガツンと叱ってくれた誰かさんのおかげでな。 周りに流されず、自分の意見を貫き通すことができた」
「よかったね! 律くん!」
「・・・あとさ」
「ん?」
ひと呼吸おいて律は言った。
「俺のこと“律”でいいよ。 俺もお前のこと“大和”って呼ぶからさ」
「・・・え、本当にいいの?」
最初は耳を疑った。 だけど律は優しく微笑んで頷く。
「俺たちの輪へ、戻ってきたら?」
律はそう言うと双子を呼び付けた。 貴人と博人は終始大和たちのやり取りを見ていたのか、突然呼ばれたことにあまり驚いていない。
待ってましたとばかりに嬉しそうに寄ってくることを見ると、もしかしたら予め三人の中で何か話があったのかもしれない。
「律! お前、久しぶりに笑ったじゃんかよー!」
「大和もおかえり」
貴人と博人は笑顔で迎えてくれた。 大和も笑顔で返す。
「うん、ありがとう。 そしてただいま!」
‐END-
結んで開いて綻んで ゆーり。 @koigokoro
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