第2話 夢の中の怪物
目を開き気がついたら私は学校のような建物の中にいた。
正確に言えば、階段の途中である。
階段から下りようとする。
しかし、進んだ先は暗がりでよく見えない。
肩を落とし階段を上る。
上った先を左に曲がり一番手前の入り口を開ける。
部屋に入っていく。
中は真っ暗闇で何も見えない。
壁に手を当て少しずつ奥に脚を進めていくと寝息が聞こえてきた。
進むごとに段々と大きくなる。
電気のスイッチのような形の物が手と重なる。
明かりを付けると目の前には、この世の物とは思えないほど大きな生き物が寝そべっていた。
その生き物を前にして思わず膝をつき身体が縮こまる。
怖い、逃げなければ、逃げなければ思い背中を入り口の方に静かに引く。
しかし、生き物は私の気配に築き、大きな目でギロッと睨む。
次の瞬間、大きな生き物はその長い長い腕で私を捕まえようとしたので、身体を無理やり起こし入り口の方に向かった。
捕まりそうになる間一髪のタイミングで入り口のドアを閉めた。
力が抜けたように反対の窓側の壁に座り込む。
先程の巨大な怪物は何物かと考えるが答えは一向に出ない。
目をつむりしかめっ面で考え込んでいると上から風が吹いているのが分かった。
微かだが、上に通路があるに違いない。
私は近くにある階段から足を進めていく。
周囲は暗闇で見えないはずだが、導かれているように進む先のみ道が見える。
気が付けば、何かに取り付かれたように無我夢中で階段を上っていた。
階段が終わると向かいにはエレベーター見えた。
エレベーターは3つあるが、2つは使えず、非常用の1つが使用出来る。
しかし、非常用は下行き。
下へ進めば先程のような生き物に会うかもしれない。
これ以上登る階段はない。
仕方なく非常用のエレベーターを使用するために下行きのボタンを押す。
先程の大きな生き物について考え込んでいるうちにエレベーターのドアが開く。
私はそのまま下に向かう。
頭上の数字の1が点灯し止まるとドア側に移動しようと右足を出す。
突如再びエレベーターが下に動く。
「わっ!どういうこと!?」
咄嗟の出来事に先程の体勢が崩れ座り込んでいる。
1階が一番下であるはずが、エレベーターは止まらずに下に降りる。
後ろを見ると私の知っている学校ではなかった。
私が立つ場所は廃墟の工場のような建物が無数に並び人々が忙しなく働く空間。
周囲の建物の上からモクモクと出る煙。
だが、それ以上に目を見張ったのは彼らの服装だ。
皆同じような白を基調とした作業服。
同じような髪型。
職場というより軍隊を連想した。
私は思わず言葉を無くして立ち尽くしていた。
すると、作業中の数人の視線が私に集まる。
無意識に脚を後ろに下げるが、
後方から男性の声が掛かる。
「やぁ!君、新人さん?」
中年の男性は愛想良く話しかける。
「あの、えっと、ここって…」
私は男性の顔と地面を交互に見ながら相手の様子を伺う。
「ああ!ここね、ここは、楽園さ!」
「楽園?」
男性の言葉の意図が分からず困惑する。
「そうさ!ここはこの世の楽園さ!ここにいれば皆誰かの物を奪うことも傷つけあうこともせず、平等の生活が保証される。素晴らしい世界さ!」
私は先程話した問いを激しく後悔した。
表情が強張り、どうしようもない恐怖が襲う。
「どうしたの?大丈夫?」
男性は震える私の声を聞き顔を覗く。
恐ろしいのは、暗闇でも、怪物でもなく人なのだと悟った時には、
もう遅かったのだ。
そして、私は布団の中で目を覚まし現実に戻る。
私の夢の中へご招待いたしましょう たこざえもん @takomuun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。私の夢の中へご招待いたしましょうの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
雪月花のメモワール最新/蒼衣みこ
★17 エッセイ・ノンフィクション 連載中 747話
飼い猫が扁平上皮癌になりまして最新/なかあたま
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 22話
20代前半はツライよ/野志浪
★6 エッセイ・ノンフィクション 連載中 12話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます