「エピローグ?」
まさかシノがあんな美少女になるとは……いや、元より極上の美少女フィギュアみたいではあったんだけど……。
などと考えつつ、更に言えばシノに揶揄われつつ、俺は家へと帰り着いた。
「んぉ?」
すると、シノが変な声をだした。
なんだ、今度はなんだってんだ?
「どした?」
「んー、いや、なんでもなーい」
「……?」
変な奴だなぁ。
いや、こいつは割といつも変ではあるか。
なんとなく納得して家に入る。
「はぁ~。コーヒーでも淹れてチョココロネ食うかぁ」
今日はなんか美少女(シャーティアさんとシノが少女といっていい年齢なのかは不明だけど)二人と会話したことで妙に疲れてしまったからなぁ。
やっぱ、疲れた時は甘い物だぜ。
などと思いつつ、キッチンに行くと。
「あ、お帰りなさいシンヤ。コーヒーね。それなら私が淹れてあげるわ」
美少女が立っていた。
「……………………?」
「シンヤ? どうしたの、シンヤ?」
あれ? ここ最近は忙しすぎて殆ど姿を見てなかったから、幻覚でも見てしまったんだろうか? どうして俺の推しが俺んちのキッチンに?
「シノ。シンヤはどうしたの?」
「久しぶりに大好きなリリっちに会えて感激でもしてるんじゃない?」
「……そ、そう」
あ、そんな。ちょっと照れた感じなんかになられると、可愛すぎて死にます。
――じゃない、死んでる場合ちゃうわ。
「あのぅ。リリルは、なんでうちのキッチンに……?」
「え? あぁ。シンヤに用事っていうか、頼み事があったのだけれど。留守のようだったから先にお邪魔させてもらったの。それで、さっきコーヒーが飲みたいってシンヤの声が聞こえたから、淹れてみようかと思って」
「な、なるほど」
そうか、家の前でシノが変な声を上げていたのは先にリリルの存在に気が付いていたからか。
あれ? でも玄関に靴とかなかったような?
あ、そうだ。リリルの服って魔術で作られてるから脱いだら消えるんだ。
「え~っと。俺に頼み事っていうのは?」
「うん、シンヤのうちに住まわせてもらえないかと思って」
「…………はぃ?」
なんか今、今、え、何? 何だって?
「これから先、新しい大規模幻術魔術を組み直していかないといけないし。希望した人だけに行き届くようにするためのシステムも考えないとだしね。その……手伝って、くれるんでしょう? シンヤ」
「全力で手伝わせていただく所存ですいかようにもお使い潰しください」
「……そういう言葉使い禁止っていったでしょ」
うぉおお今までクールだったリリルの拗ねた表情とかなんだこれ今日俺死ぬんか。
「て、手伝う手伝う。任せてくれよ」
「それなら、良かったわ。ほら、この辺りに住む同胞たちの助けにもならないといけないでしょう? それも含めて、シンヤと一緒に住んでしまうのが手っ取り早いと思っていたの」
そういうことか。割と合理的な理由での同居願いだったんだな。
そういうことなら……っていやいやいや!? そういうことでもどういうことでも、これからリリルと一つ屋根の下で暮らすってことに!? それは無茶じゃない!? ラッキースケベとかあったら俺マジ死んじゃうよ!?
「それに、これから先はシンヤも大変だろうし。少しでも助けになりたいもの」
「……え? 俺が大変? って、何が?」
リリルと住んでラッキースケベの可能性が発生する以上に大変なこととかある?
「決まっているでしょう。この町での戦いは、規模からいっても世界中の異能者や魔術師、或いは魔法使いに知れ渡っているはずだもの。これから先、シンヤはもっと大規模なイザコザに巻き込まれていく」
マジで!?
そんなことになってんの俺!? 考えたこともなかったっすけど!
「あ~、確かにそうだね。心弥の力を欲しがる奴も恐れる奴もいくらでもいるだろうしねー」
「そういうこと。だから私も助けに――」
ぴんぼ~ん
突如鳴り響くチャイムの音。
誰だろう?
と、俺が反応するより早くシノが反応した。
「はいは~い」
「だから、俺より早く勝手に出るなってのに。もし普通のお客だったらどうするんだよ」
「だいじょーぶだってー、来たのココナっちだからぁー」
あぁ、ココナちゃんか。なら安心。
って、ココナちゃん!!?
「シノさんお久しぶりですこんにちは中にリリさんがいますね?」
「お、おぉ? う、うん。いるねぇ」
大して広くもない家だから、玄関で喋っているココナちゃんの声が微かに聞こえてくる。
どうやら、リリルがここにいることを見越して来たらしい。
「お邪魔します」
シノと一緒に入ってくるココナちゃん。
うわぁ……久しぶりに見るとやっぱり可愛いなぁ……。
「こんにちは、心弥さん」
「あ、あぁ。こんちわ」
「リリさんも、昨日ぶりです」
「そうね。今日も会う予定はなかったけどね」
あ、この二人は昨日も会っていたのか。
町の異世界代表と地球人代表みたいなところあるみたいだしな、その関係かもしれない。
まぁ、勿論表向きの代表は他にいるんだけどな。地球側なら九条って人とか。
「私は会うと思ってましたけどね。リリさんが心弥さんの家に住み込むとか言ってましたから」
「その通りだけど。その口ぶりじゃ、私がシンヤの家に住むのが嫌なのかしら?」
「別に、嫌じゃないです。でも、ちょっと問題は感じます」
嫌じゃないけど問題ってどういうことじゃろうか?
いや、俺も大問題だと思ってはいるけれどもさ。
「異世界では年頃の男女が同じ家に住むのは問題にならなかったんですか?」
「ケースバイケースじゃない? 例えば、恋人同士なら大抵の場合は問題ないでしょうね」
「……へぇ? でもリリさんは恋人じゃ、ないですよね?」
「そうね。まだ恋人じゃないわね」
「……まだ?」
え? 何、この空気。
なんつーかこう、あれだ、これって。
「ねぇ心弥、推しと恋愛関係になるのって心弥的にはアリなの、ナシなの?」
やっぱりそうなのかなぁ!?
恋愛フラグ立ってんのかなぁこれ!?
……って、んなわけあるかぃ。
俺はそこまでアホではないのだ。
今回の諸々で確かに俺はリリルやココナちゃんの手伝いをして、ちょっとばかし頼りにされるようにはなったかもしれない。
が、それで好かれてるなんて勘違いする勘違い野郎になってしまったら、色々な意味で終わりだ。
「えーっと、ココナちゃんは、リリルに会いにうちに?」
リリルと見つめ合っていたココナちゃんだったが、俺の問いかけでこちらにくるりと振り返るあぁ振り返るだけで可愛い。
「違いますよ。あ、いえ、ある意味そうかもです。リリさんの監視も用事に含んではいます。ただ、メインは別です」
「そ、そうなんだ。えっと、じゃあメインっていうのは?」
「心弥さんに会いに、です。相談というか、お願いしたいことがありまして」
「……お願い?」
リリルに続いてお願いときた。まさかココナちゃんまで同居とか言い出すんじゃあるまいな?
いやいやそんなまさか……。
「はい。学校についてなんですけど、再開の目処が立ったんです。それで、しばらくは学校の運営に私も関わらないといけなくなって……まぁ生徒会の延長みたいなものなんですが」
あぁ~、なるほど?
今、この町の学校は色々難しい場所になっているからな。
何しろあそこは異世界人も地球人も混じって在籍している。
所謂学校運営の難しい部分は九条……正義の使徒とかに頼むにしても、生徒側にもある程度は状況が分かってる人物がいないとマズイってことか。
「それで、心弥さんにも是非それを手伝ってほしいんです。私が今一番頼りにしているのは、心弥さんなので」
「――へ?」
俺が、学校の運営を手伝う?
それは何の冗談だ?
普通に通っていても引き籠もり気味だった俺が、学校の生徒会みたいなことをやる?
ココナちゃんに頼りにされているのは滅茶苦茶嬉しいけど、いくら何でもそれは……。
「あ、あまり大したお礼とかはできないんですが。えっと、毎日心弥さんの分もお弁当作ってきたりとか、したいんですけど。どうでしょうか?」
「俺にできることなら何でもするぜ」
「本当ですか!?」
あ。
あぁぁああ……やっちまったぁ……。
「これで、一緒に学校通えますねっ」
「そ、そうだねぇ」
なんだこの笑顔眩しい。これを見る為なら俺はどこにでもいける気がする。
あぁでも学校はやっぱりちょっと行きたくねえぇぇ。
「――それ、私も手伝ってあげましょうか?」
「え?」
「リリ、さんも?」
学校の、生徒会を? リリルも?
「私も年齢的には心弥と変わらないはずだし。こちらの世界の学校っていうの興味あるしね。それに、あなた達的にも異世界側の生徒代表みたいなのがいたほうがやりやすいでしょう?」
「そ、それはまぁ、確かにその通りですけど……うぅ……ズルイ」
「何がズルイのかしら?」
「べ、別にっ。なんでもないですっ」
が、学校にリリルも通う、だと?
「いやー、凄い事になってきたねぇ心弥。これは、ウチも早いところずっと大きくなれるようにしないとだなぁ」
これ以上俺を追い詰めるなよ!?
美少女を推せるのは幸せこの上ないが、同居とか一緒に学校とかになると色々ハードル高けぇぞおぃ!
絶対途中で精神が崩壊しちゃう!
「あ、そうだった。コーヒー淹れるわねシンヤ。先に座っていて」
「へっ? あ、えっと」
「コーヒーって……も、もう同居気分ですか!? そうだ心弥さん、私もう一つ言うことがありました!」
「ふぁぃ!?」
「異世界側のリリさんがここに住む以上、私も定期的に様子を見る必要がありますし。心弥さんに色々お礼をしないとですし。これから心弥さん達のお手伝いをすることになってますし。っていうことで私も毎日ここに通いたいんですけどいいですかっ?」
ちょっちょっちょ!? 早口過ぎてよく分らなかったけど今ここに通うって言った!?
「いいですかっ?」
「は、はいイイデス」
「よかったですっ。じゃあ、通うついでなのでよかったら御飯とかも作ったりとか……いいですか?」
「あ、それ嬉しい~! 心弥の作る御飯マズいんだもん」
うるせぇな!?
っていうか俺が答えてないのに勝手に答えるなよっていうかココナちゃんが御飯作りにくるって!?
なんだ、一体俺の身に何が起きてるんだ……?
人生の確変入っちゃったのか? 近いうちに天変地異でもくるのか?
「あ~、取りあえずココナの好きにさせてやってくれるか? 心弥殿」
「うぉっ!? び、びっくりした。驚かすなよ、ミミ」
いきなり肩をぽんっと叩かれて驚いたら、ミミだった。
どうやら今まではココナちゃんの着ているパーカーのフードに入っていたらしい。
どうでもいいがココナちゃんもリリルもどっちも普段着パーカーなんだな。白と黒で色は対照的だけど。
「ココナは、心弥殿と最近会えなかったのがかなり堪えておるようでのぅ」
「ちょっ!? 何言ってるのミミっ」
「五月蠅いわね。コーヒーあんた達の分も淹れたから大人しく座って飲みなさい」
「リリっち、ウチの分のコーヒーはそっちの小さいカップで淹れてよ~」
「あ……こんなカップあったのね。気が付かなかったわ」
「ウチのお世話も禄にできないようじゃこの家ではやってけないよぉ?」
「あんたこの家の居候でしょうに」
「リリ殿もこれからは居候なのじゃろ? なら、うちのココナは通い妻といったところか」
「つ、妻って!? ほんと、ほんと何言ってるのミミ!!」
「そういう話ならウチが正妻ね! ウチが一番最初にここに来たしっ」
…………あかん。
もうすでに俺のキャパシティを越えている。
女三人寄れば姦しいとはいうが、美少女が三人寄るともう華やかさがエグすぎて俺のような日陰者には刺激が強すぎるって。
推しが日常生活空間に密集しているという状況を脳が処理できねぇ。
取りあえず――。
「ん? なんぞ、心弥殿が瞑想みたいな感じになっとるが?」
「なんで心弥さん、手を合わせてるんでしょう……?」
「こっちの世界の宗教的儀式みたいものかしら?」
推しが楽しそうにしているので、神に感謝しておこう。
……いや、神ってシノか。
「あははっ。心弥、推しを応援するのも大変だね?」
そーですね。
でも、まぁ。
「推しは推せるうちに推しておかないと」
それが俺の生きがいだからな!
主体性0の最強一般人!~悪の組織と正義の味方、どっちにも推しの美少女がいるので助けたら恐るべき第三勢力だと勘違いされました~ 佐城 明 @nobitaniann
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