第一話【軽務所の一日】
拝啓お姉さま。穏やかな小春日和が続いております。ご家族の皆様は、ますますご清祥の事と存じます。このたび
流石は東京です。田んぼもなく。牛もおらず。半袖半ズボンの子供も見かけません。
その代わり派手な格好をした若者は多く見かけます。
『俺は毒を持ってるぞ』と主張しているのでしょうか?
それはさておき、一つ問題がありまして。
このたび東京にやってきた
入っていたお金は1万円とちょっと。そして大量のコスモデパートの商品券のみ(約百枚)
お姉さま。知っていますか? コスモデパートは私達の住む町にしかないのですよ?
それともお姉さま。知っていて渡したのでしょうか?
だとしたらマジでぶん殴りますわよ。コラ(激怒)
さて、それでは話は変わりまして。
そんな私がこの欲望の町―東京を無事に生きていけるはずがありません。
東京に辿り着いた私はお腹が空いたので、とにもかくにも食べ物を買うことにしました。
近くの露店で売っていたおにぎりを買ったところ、一個の値段が何と破格の1万と800円。
『東京は物価が高いからねぇ』そんな言葉をうっかり信じてしまい、購入したおにぎり。
近くのコンビニに入ると120円で売っていました。
急いで露店に戻ると、おじさんは消えていました。
私は泣きました。お腹が空きました。早くもくじけてしまいそうです。
さて、それでは本題に移ります。そろそろページが勿体ないので、簡潔に言います。
お姉さま。貴方は元気でやっていますか? 私は元気でやっています。
冷たいコンクリートに囲まれた―軽務所の中で。
🐈🐈🐈
軽務所の一日【AM8時30分 起床】
「早く、起きんかッ! 寝坊助共おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおッ‼」
聞き慣れた
腰まである黒い頭髪を毛布から覗かせると、正方形の時計が目に入りました。
「まだ朝の8時30分じゃないですか……ふあーあ。眠いですねえ」
小さな身体を起こし私はグッと背を伸ばします。今度は左右を見渡します。
右。布団は綺麗に畳まれており、皺は一つもありません。
左。毛布からひょっこり覗かせる金髪からは、小さな寝息が聞こ
えてきます。
全く、ほんとに寝ぼすけですねぇ。しわすちゃんは。
「ほら、しわすちゃん。朝ですよ。起きてください」ゆっさゆっさ。
「んんっ……あと二光年寝るのぉ……」
どんだけ寝る気なんですか。
「駄目ですよ。早く起きないと、また看守長に怒られちゃいますよ?」
「んー……別にいいじゃない。眠たいんだから、まだ寝てたって……」
「前もそれで朝ご飯抜かれたじゃないですか。私、今日は朝ご飯食べたいですもん」
「1万円渡されたって、嫌ですから――」
「甘えるなぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
パアン! 突如私の頬に食らわされる、激しいビンタ。
「世の中にはねえ……! 眠りたくても眠れない子もいるのよ! それをなに⁉ あんたは起きろ起きろって……! ちゃんと眠れない子も居るのよ! このボケ―――――――ッ!」
「前歯もげて死ね!」と最後に唾を吐きかけ、布団の中に戻っていくしわすちゃん。
私は唖然となりながら、ポツリと彼女に向けて一言。
「お前が死ねやです……」
私は理不尽を噛みしめながらもゴミ箱を蹴り、しわすちゃんを放って食堂に行こうとします。
と、振り返るとそこに人影。
ん?
「ようっ。おはよう、たま」
「か、かか、看守長っ! おはようございますっ‼」
ビシッ! すぐさま落ちていたゴミを集めて敬礼の体制になる私。
部屋の入り口で両腕を組んで立っていたのは、軍服(ぐんぷく)を着た長身の女性でした。
彼女の名前は
ちなみに好きな食べ物はビールとホルモン。年齢は26歳で彼氏は居ないです。
「改めておはよう。たま。朝から人物紹介が流暢でとても素晴らしいな」
スッ。私の心を見透かしたように、脇に突きつけられる看守長の竹刀。
訂正。彼氏は作らないだけでございます。
「それにしてもおかしいなぁ。さっきからあれだけ叫んでいるのに、お前としわすが集まらない……もしかすると私の声が小さかったのか? え?」
グリグリと脇に突きつけられる竹刀の先っちょ。狙いすましたように、こしょばいところを突くのは止めてほしいです。
「何感じている。お前」
「そっ……そんなことはございません」
スッ。優しく、強く。ツンツンツン。
「んぅ……!」
「何を喘いでいるっ! 貴様っ‼」
ツンツンツンッ!(必殺 ジェット・シェイク・竹刀 威力 70 命中率 100)
「喘いでまぜんっ!」
必死に抵抗する私。ここは私以外の誰かに、早く白羽の矢を立てねば……!
「か、看守長! お言葉ですが兵頭しわすさんも起きていません! むしろ寝てます!」
「どこがだ?」
振り返るとしわすちゃんは部屋から消えていました。布団は皺も無く、綺麗に三つ折りに畳んでいます。
あんの、くそアマ。
「え、えっと……これは、その……」
看守長は私が言い訳を考えていると思ったのか、腰に手を添え大きく溜息を吐くと。
「もういい。今日はお前は朝飯抜きだ。早く刑服に着替えて、ランチルームに来い」
冷めたような目つきでそう言い残し、靴底を鳴らし部屋から廊下へ歩き去っていく看守長。
私はその場に立ち尽くし、頭を抱えてしゃがれた声を盛大に零します。
「そんなぁぁぁぁぁぁあっ……」
こうして軽務所の一日は―始まるのです。
けーむしょーじょっ‼ @masiro02
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