最終話 開店、焼きマンドラゴラ屋。

「焼きマンドラゴラ〜焼きマンドラゴラ〜」


 かくして多くの人が何があったか知らないまま、戦いは終わりを迎えた。気づいたら王城は全壊、騎士団はおろか兵士の一人も見つからない現状になってるっていうんだから驚くしかないよな。


「マンドラゴラ~焼きたて~」


 連日、各国から使者がやってきたり、やじ馬が集まってきて騒がしい。一月経った今でさえ王城付近から賑やかさが消えることはない。俺にとってはそれがありがたくもある。


「おいしい~マンドラゴラ~」


 貧弱な人間の癖に無理し過ぎた俺はおかげさまで死にかけていた。国の名医は、生きている方が不思議だ、女神様の加護か何かを受けているんじゃないか、なんて言っていたらしい。思い当たる節があるような気もしなくはない……が、思い出せない。


「一つ、くれないか。」


 屋台を引き、やじ馬相手を商売相手に決めた市を歩く俺に声がかかる。聞き覚えのある声。その立場と国の窮地を救った功績から、一時的に国を纏める立場になった勇者様。レイ・リュミエールがそこにいた。目立つのを避ける為か、地味な鎧を身にまとっている。


「誰かと思えば、勇者様じゃないですか。」

「はぁ……勇者様はやめてくれ。どこへ行ってもそう呼ばれるんだ。気が休まるところがない。」

「冗談だよ、レイ。作るから、ちょっと待っててくれ。」


 市の広場、その端に屋台を止め、レイが座るための椅子を出す。ゆったりと腰かけたレイは、勇者様呼びに機嫌を悪くしたのか、口をとがらせている。


「というか、勇者ならツカサもだろう。だというのに、名乗り上げなくていい、なんて。」

「祭り上げられるのは性に合わないんだよ。それに、まだやらなきゃいけないことがあるからな。」


 最終決戦の後、いくら探してもクロネは見つからなかった。それに、グシオンも消えてしまっていた。だが、ついこの間、北の国で未確認飛行物体が確認されたという話を聞いた。まずはそこに行ってみるつもりだ。


「……行くのか?」

「一月働いて駄賃くらいはできたからな。探しにいくよ。」

「私も行きたい……けど。」

「大丈夫だよ。そのための役割分担、だろ?」

「あぁ。そうだな。私はこの国を立て直す。そして、ツカサ達が安心して帰ってこられる国にする。」

「だから、その間俺が仲間を見つけてくる。」

「別々ではあるが、また二人から始まるのだな。」

「今度は地上だからな。ちゃんと声も届くさ。」

「マンドラゴラの声が聞こえた時には、駆けつけよう。」

「俺、弱いんだし、案外すぐかもしれないぞ。」


 地下ダンジョン最深部にいた頃を思い出して笑みがこぼれる。


「ふふっ。」

「ははっ。」


 マンドラゴラが焼き上がり、煙が空へと上がっていく。それはまるで新しい旅の始まりを告げているようだった。

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焼きマンドラゴラ屋、俺。 紅りんご @Kagamin0707

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