21:先輩採掘者

 中層の入り口で文字通り門前払いを食らってしまったカケルとピケルは、しばらくその辺りで他の採掘者達の様子を確認することにした。

 初めは、自分たちだけが差別されたのではないかと疑っていた二人だが、裕福そうな採掘者がスライムを倒せずに追い返される様子や、貧しそうな人でもスライムを倒せば通過を許可される様子を見て、どうやらあの担当者は「見た目」を判断の基準にはしていないのだと気がついた。

 しかし、スライムに攻撃をしている採掘者達の様子を見ていても、倒せる人と倒せない人の区別が二人にはつかなかった。

 初めは「修行だ」と、意気軒昂としていたピケルもこれには困った様子で、思わず小さくため息をついた。

「ピケル君……どうしようか……」

「そうだな。誰かそういうことを知っている人に聞くのが、一番良いんだろうが……こんなところに知り合いがいるとも思えないし……」

「知り合い? それなら、探せば見つかるかも。探してみようか?」

 ピケルにとっては冗談交じりの一言だったようだが、カケルはそれを聞いて、視線を上げて周囲を見渡した。

 キョロキョロと、顔から顔へと視線を移しながらゆっくりと歩いているカケルを見て、ピケルは「そう都合良く、知り合いがいるわけないだろ……」と言いかけたが、その言葉が口から出てくる直前に、カケルが「あっ!」と、何かを見つけたような声を上げた。

「いたよ! ピケル君、姉さん達の友達だ! おーい、ベリル兄さん!」

 カケルが声を掛けたのは、透き通るような深緑色の髪をした、高身長の男だった。


 その男はカケルが呼ぶ声を聞いて振り返り、人混みをかき分けながら二人の方へと近づいてくる。

「よお、カケルじゃないか? 久しぶり、大きくなったな!」

「ベリル兄さん、久しぶり! エミ姉さんとは上手くいってる?」

「ヴッ……ま、まあぼちぼちな! 思いが届く日も近……遠くはない、はずだぜ!」

「ということは、まだ告白もしてないんだ。まったく、いつまで経ってもヘタレだなあ、ベリル兄さんは……」

 ベリルと呼ばれた、深緑色の髪をした青年は、カケルにからかわれながら鼻に手を当てて照れた様子を見せる。

 話の流れについて行けないピケルは、後ろからカケルの肩をつついた。

「カケル……この人は?」

「うん、この人は、ベリルさんっていう、僕の姉さんの……知り合い? だよ」

「初めまして! 俺はベリル。いずれエミさんの恋人に、そしてゆくゆくは家族になる男だ! ……よろしくな」

「あ、ああ。俺はピケル。カケルの、友達だ」

 前髪をいじりながら気恥ずかしそうに友達と名乗ったピケルは、にんまりと笑顔を浮かべるカケルを小突きながら、ごまかすように話題を変えた。

「それで、こいつがさっき言っていた、カケルの知り合いなのか?」

「うーん。まあ、ベリル兄さんでも問題はないかな。ベリル兄さん。僕たち、ベリル兄さんに相談があるんだけど……」

「相談? なんだ? カケルの相談なら、もちろん聞くぞ! どんとこいっ!」

 カケルは、親身になって話を聞いてくれるというベリルに、さっきの出来事を話すことにした。

 浅層を抜けてこの町までたどり着いて、いざ中層に挑もうと思ったら門番に追い返されたという話を聞いて、ベリルはうんうんと頷いている。

 どこか不満げに話すカケルだが、ベリルの方はむしろ「それはまあ、そうなるよな……」と、よくある話の一つぐらいにしか感じていないようだった。

「そうか……それにしてもカケル、おまえいつの間に坑道探索を始めたんだ? この前なんて、怖いとか危ないとか言って坑道に近づこうとすらしなかったのに……」

「ベリル兄さん、そういうことは黙っておいて! それよりも、僕達が中層に行くにはどうしたら良いと思う?」

「そうだな……俺が付き添いすれば通してもらえるだろうが、そういうことじゃないんだろ?」

「うん。僕達だけで、挑戦したいんだ!」

 ベリルはカケルの言葉を聞いて頷いた。


「まずは、カケルの実力を知りたい。目の前にスライムがいると思って、ツルハシを構えてみてくれないか?」

「え? ……こんな感じ?」

 カケルがツルハシをまっすぐに構えると、取り付けられた魔石が白く輝きだした。

 それを見たベリルは「もういいぞ」と手で指示をしながらカケルに攻撃をやめさせた。

「その状態じゃ、スライム系の魔物には傷をつけることもできなかったんじゃないか?」

「そうだけど……じゃあどうすればよかったのさ……」

 カケルに聞かれたベリルは、背負っているメインのツルハシとは別の、手の平サイズの小型ツルハシを取り出した。

「わかりやすく見せてやるから、見ていてくれ。まずはこれが、今のカケルの状態だ」

 ベリルがツルハシに軽く力を込めて握りしめると、ツルハシの先端に取り付けられている緑色の宝石がキラキラと輝きだした。

 その様子を見てカケルは「綺麗だね」と素直な感想を言い、ピケルも同意するように頷いた。


「この状態は、魔石のエネルギーが垂れ流しになっている状態だ。壁の採掘にはこれで十分だが、魔力を持つ敵はこれぐらいの濃度だと通用しない。だから……こうするんだ!」

 ベリルがツルハシに流れている魔力を操ると、宝石は輝きを止め、じわじわとツルハシが緑色に染まっていく。

 ツルハシの周りには風が渦巻いており、ヒュウヒュウという風切り音が鳴り続けている。

 先ほどまでの「ただ綺麗」な状況とはうってかわり、触れるだけで傷ついてしまいそうな「危険な香り」や「敵意」のようなものが感じられるようだった。

「これが、俺のツルハシの『攻撃形態』だ。このままでもスライムぐらいなら倒せる攻撃力があるし、ここから『力の解放』をすることで、更に攻撃性能を引き上げることもできるんだが……」

 カケルは、ベリルのツルハシが変わる様子を見て、今まで自分はツルハシの性能を全く引き出せていないことに気づいて落ち込んだように肩を落とした。

「そうなんだ。僕にできるかな」

「大丈夫。今は二人にわかりやすいように、極端なぐらいにやっているが、本来ここまでやる必要はないからな。カケルもツルハシに魔力を流すことはできているみたいだから、練習すればすぐにできるようになるはずだぜ!」

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