てるてる坊主

@oi-ten

てるてる坊主


てるてる坊主 てる坊主 

あーした天気にしておくれ


いつかの夢の空のよに 

晴れたら×××あげよ





「パパがね、ぼくのこと『はれおとこだ』って言ってたもんっ!」




元気な男の子の声が響く。




K小学校のとある教室では、来週末に迫った「遠足」について説明会が行われていた。遠足と言えばK小学校の人気行事の一つで、総勢21名のクラス全員が先生の話を食い入るように聞いている。


「遠足は家に帰るまでが遠足だ」とはよく言ったものだが、もしかすると「遠足は教室からすでに始まっている」のかもしれない。それほどまでに教室内は生徒たちの期待と喜びで満ち溢れていた。


先生が一通り遠足当日の説明を終え、最後に雨が降った場合について話はじめる。




「もし雨が降ったら、残念だけど今年の遠足は中止になります。」


「「「えぇーっ!!!」」」




先程までの喜楽した雰囲気が一変する。

遠足が中止になると聞いた途端、生徒たちからブーイングや不満、あきらめの声が漏れる。

今年はカリキュラムの都合上順延することができず、学校側としても苦渋の決断であった。


どんよりと沈み切った雰囲気の中、生徒の一人であるN君が勢いよく席から立ち上がりクラスメイトに向け熱弁する。




「みんな!大丈夫だよっ!

パパがね、ぼくのこと『はれおとこだ』って言ってたもんっ!」




N君はクラスのリーダー的な存在でみんなからの信頼も厚い。坊主頭が印象強く、クラスのムードメーカーである。

そんな中心人物の発言とあり、クラスメイト全員が一斉にN君へ視線を注ぐ。



そんな中、1人の生徒が


「せんせー、『はれおとこ』ってなぁに?」


と問いかけてきた。



言葉の意味が分からなかったのだろう。質問した女の子は頭の上にたくさんのクエスチョンマークを浮かべながら頭をかしげている。




「そうねぇ……その人がお出かけするといつも天気が良いってことよ」



「へぇ~ じゃあN君はお出かけするときいつも晴れてるんだぁ…」




そのセリフを聞いて「待ってました」とばかりにN君が自慢を始めた。




「そうだよっ!家族みんなで買い物に行くときも、海に行ったときも、バーベキューしたときだって、いっつも晴れてるんだっ!」




周りで話を聞いていた生徒からは「スゲー」っと言った感嘆の声が巻き上がる。まるで戦隊モノのヒーローが必殺技を繰り出した時のような驚きと羨望が混ざった声だ。


ざわついたクラスを落ち着けるために、先生が少し大きな声を出す。




「はいはーい!静かにー!

じゃあ……遠足が中止にならないように、残った時間でてるてる坊主を作りましょう!」




先生が生徒達にてるてる坊主を作るための材料を配り始める。

遠足が中止になるのがよほど嫌なのか、みんなひたすら作業に没頭しているようだ。その中で、ひときわ集中力を切らすことなく、黙々と一生懸命てるてるぼうずを作り上げる生徒がいた。




S子である。




彼女は小さな顔に不釣り合いの大きなメガネをかけ、髪型は決まってツインテール。大きな「金色の鈴」が付いたお気に入りの髪留めが印象的だ。

そんな主張の強い髪留めとは逆に、普段の彼女はおとなしく引っ込み思案であまり目立たないタイプであった。



S子は完成したてるてる坊主をおでこにそっと付け、誰にも聞き取れないほど小さな声で口ずさむ…




「てるてる坊主 てる坊主 

 あーした天気にしておくれ…」




―――――――――――――――――――――――――――――




数日が経過し、いよいよ遠足を翌日にひかえた金曜日。


その日は朝から雨が降っていた。

どうやらこの雨は週末まで降り続くらしい。

止まない雨のせいなのか自身の非力さをなげいてなのか、てるてる坊主も心なしか残念そうに顔を俯かせている。


晴れることを一心に願っていたS子はというと、教室から校庭の水たまりを見つめ、口を真一文字に結んでいた。




『このままでは計画がダメになってしまう…』




彼女は焦っていた。

新しいクラスで友達を作るはずだったのに…

もう除け者扱いされないようにするはずだったのに…

独りぼっちから抜け出そうと綿密に計画したのに…

この「遠足」というイベントこそが現状を打破する転機なのだ。

このままではまた一年間一人ぼっちの学校生活が幕を開けてしまう。




とは言え、S子ができるのは晴れるように祈る事だけ。自分一人ではどうにもできない焦りから、職員室に向かい先生に相談する。




「先生どうしよう…てるてる坊主作ったのに雨が…止まないの。」




先生は人差し指を顎に当て、考える仕草を見せながら




「うーん…

強い願いをこめられるように、もっと大きなてるてる坊主を作ったら効果があるかもしれないわね。」




大きいてるてる坊主…そうか!

その手があったか!


身近にいい材料があるではないか。

作るのは難しいがうまくやれば作れないこともない。

なによりこれであればティッシュを丸めて作ったてるてる坊主とは比べ物にならないほど晴れること間違いなしだろう。



時間がない。

今日の放課後にでも早速作り始めなければ。


『これで遠足の日は晴れる』



そう思うと、自然とS子から笑みがこぼれる。

職員室の窓にはその薄気味の悪い笑みが反射していた。





―――――――――――――――――――――――――――――



遠足当日。


空には雲一つない快晴が広がっていた。

S子の願いが通じたのか、大きなてるてる坊主が優秀だったのか、当日は文句のつけようがないほどの快晴だった。




「はーい、みんな出発しまーす!

2列になって、しっかり隣の人と手をつないで歩きましょう!」




校庭で点呼を終え、いざ遠足へと出発する。

S子は一人、別の意味で期待と楽しみに胸を躍らせていた。

いままでの虐げられてきた学校生活の「終わり」が始まる。これでクラスメイトとも仲良くでき、友達も作れ、もう独りぼっちでもなくなるんだと。




そのとき、S子と一緒に手をつないでいた隣の女子生徒が声をかけてきた。




「あれ?S子ちゃん。今日はツインテールじゃないの?」




さっそく友達を作る絶好のチャンスがやってきたのだ。

この機会を逃す手は無い。普段よりも明るく受け答えをする。




「うん!

髪留めが1個しかなくて、今日はポニーテールなんだっ!」




おとなしく塞ぎ込んでいたあの頃とはもう違う。

髪留めも新しく変え過去の自分と決別する意味を込め、今日は髪型もポニーテールにしていた。




「え?あのが付いた髪留めなくしちゃったの?」


「違うの。

あれはね、昨日N君にプレゼントしたんだっ!」




その言葉を聞いて女子生徒は不思議に思う。


はて、S子ちゃんとN君はそこまで仲が良かっただろうか?…




「N君に…?どうして…?」


「だって晴れ男のN君がいなかったら、遠足無くなってたかもしれないもん!」


「あぁ!そっかぁ~

そういえばN君、『はれおとこ』って言ってたもんねっ。」




なるほど、そうゆうことか。

どうやらS子はN君のおかげで遠足に行けると思っているようだ。




S子は誰の耳に届くこともないほど小さな声で口ずさむ。




てるてる坊主 てる坊主 

あーした天気にしておくれ


いつかの夢の空のよに 

晴れたら金の鈴あげよ





N君だけが遠足を欠席したそうだ。

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