【第四の殺人殺し節】 ラスト
月の無い晩──どこからか鳴り響くトランペットの音色……ヒデが夜の郊外を失踪していた。
舗装されているはずの道から、ヒデの脚力でなぜか土埃が舞い上がる。
ヒデは、走りながら住宅の庭から季節の花の枝を折って持ち去り、携帯用の電動エンピツ削りに折った枝を差し込むと、瞬時に枝の先端が円錐形に削れた。
別の場所では、口元をマフラーで隠した村中が、日本刀を腰のベルトに差して駆除する害虫の棲みかに向かっていた。
強欲な元ホステスが、酔った足取りで帰路についていた、高速道路の
下の道──人通りはなく、外灯がポツポツあるだけの道。
コンクリートの橋脚に寄りかかった元ホステスの女は、封筒から出した札束の匂いを嗅ぐ。
「う~ん、いい匂い」
強欲で人を陥れても平気な女が札の匂いを嗅いでいると、高速道橋の下にサングラスをかけた中門が現れた。
目を細める元ホステスの女。
「???」
中門は、カチッと構えたショットガンを女に向かってぶっぱなした。
倒れた女の立っていた背後の橋脚に、血の跡が残り。
中門は停めてあった覆面パトカーに乗って、現場から走り去った。
数人の女を引き連れて高級酒場から出てきた、元ホストの男に甘えるような口調で女たちが言った。
「ねぇ、本当に欲しい指環買ってくれるの?」
「あたしも、宝石のネックレス欲しい」
「よしよし、全部まとめて買ってやる。オレの言うことを聞いていたらな」
「聞く聞く、なんでも言うことを聞くぅ」
女に貢がせて、その金で別の女を繋ぎ止めるプレゼントをする、最低の男だった。
(女なんて、チョロいもんだ)
女たちが、ブティックのウィンドウに飾られたイブニングドレスを、夢中で見ている様子を離れて眺めている元ホスト男の背後から、仕●人ヒデが忍び寄る。
ヒデは尖らせた枝で男の脊髄を、容赦なく突き刺す……ブスッ。
男の口から漏れる、短い呻き声。
「ぁぐっ!?」
男の脊髄に、白い花が咲いた枝を刺したまま、ヒデは立ち去った。
脊髄を突かれ、グリッと白眼を剥いた男は絶命して倒れ。
男の死亡に気づいた、女たちの悲鳴が夜の街に響き渡った。
違法デリバリー風俗業の代表の男は、カラオケ店の男子トイレの小用便器で立ちションをしていた。
鼻唄を口ずさんでいる
男の隣便器に並び立った
茂さんが、男の露出しているモノを見て言った。
「立派なモノをお持ちで」
少しアルコールが入っていた男は、自分のモノを誉められて上機嫌で微笑む。
「そうか、そんなにスゴいか」
「ええっ、スゴいです」
茂さんは、手にしたハマグリで男の睾丸を挟む。
「がはぁぁぁ!」
握り潰される男の睾丸……睾丸を潰された男がトイレに仰向けに倒れて絶命すると、茂さんは男のタマを潰したハマグリに鼻を近づけて、漂ってくる尿臭に顔をしかめて。
「臭っ」と、言った。
間接的にSNSでターゲットの誹謗中傷を流して、精神的に追い詰める役目をグループ内で担って報酬を得ている。
引きこもりのクズ男は、今夜もパソコンの前に座り匿名性を悪用して誹謗中傷を繰り返していた。
「さて今夜は、どいつをいたぶってやるかな……いくら泣き喚いて誹謗中傷をやめてくれって頼んでも、
こんな面白いコトやめるわけないだろう……手も足もでねぇだろう、ざまぁ」
カチッカチッと、バソコンを操作している男の部屋の窓がスウッと開き、スキンヘッドのテツが足音を忍ばせて部屋に侵入してきた。
テツの指の関節がボキッボキッと鳴る。
窓から吹き込んできた夜風に気づいた、誹謗中傷男が回転椅子に座ったまま体ごと後ろを向くと。
テツの握力を鍛えた手が、男の体にめり込む。
「げすっ」
レントゲン撮影のように、ボキッボキッと肋骨が砕かれ、男の心臓がグシャと握り潰され……最低の誹謗中傷男は椅子に座ったまま絶命して。
パソコンの画面には【ざまぁ ざまぁ ざまぁ ざまぁ 】の文字が連続して流れていた。
美人若妻の最初の客になって、ホテルにデリバリー風俗で呼び出した同僚の妻を抱こうとして、弾みで壁にぶつけた美人妻の頭に傷をつけて……心が壊れる、後遺症のきっかけを作った男。
虫けら以下の男が自宅のバスタブで、くつろいでいた。
「ちくしょう、もう少しでネトラレで楽しめたのにな。
抵抗するから、壊しちまった」
罪悪感が皆無な男のマンションの扉を合鍵で開けて、部屋に忍び込んできたデニムの目が、バスルームカーテンの隙間から男に注がれる。
絶縁の革手袋をしたデニムの手には、電圧を高めた改造スタンガンがあった。
無表情で男の背中を眺めるデニムが、伸ばしたスタンガンのアンテナを男の体に接触させる……バチッ。
電気の衝撃に男の裸体がバスタブの中で跳ねる。
「うわあぁ!?」
男の装飾品から火花が散り、男の体はお湯の中に沈んだ。
デリバリー風俗に非合法な方法で、女性や男性を斡旋するリーダー格の男は、事務所で次のターゲットにする女性と男性の資料を眺めていた。
「グループの誰とも連絡がつかねぇな? いったいどうなっているんだ」
事務所に、後ろ手に日本刀を隠し持った村中がドアを開けて入ってきた。
昼電球の村中が言った。
「すみません、警察の者ですが……少々、お聞きしたいコトがありまして」
「警察?」
村中が、ゆっくりとした足取りで近づく。
「すぐに終わる、簡単な質問ですから」
村中は、鞘から引き抜いた日本刀を男の腹に突き刺す。
驚きに思考停止する男。村中が凄んだ口調で言った。
「虫ケラの血の色は何色だ……あの世で閻魔と踊ってな」
絶命した男の腹から刀を引き抜いた村中は、何事も無かったように事務所を出ていった。
【必殺仕●人パラレル殺人事件】おわり
必殺仕●人パラレル殺人事件 楠本恵士 @67853-_-
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