【警視庁殺人専科】

 とある警察署──『殺人専科』の部屋で、若い刑事がホワイトボードに貼られた、物的証拠写真指差して騒いでいた。

「だからぁ、どうして毎回毎回、捜査が打ち切りになって未解決事件扱いになるんですか! これだけ証拠があるのに!」


 若い新米刑事──愛称『デニム刑事』は、殺人専科の部屋にいる同僚の刑事たちに、一週間に一回の割合いで起こる。

『仕●人』絡みの殺人事件に疑問を投げかけていた。


 デニムは、犯人の遺留品が写された写真を指差す。

「見てください、これなんて竹の手製銃ですよ……発射したら使いきりの。こっちは木製のクシ、三味線の糸も残されています! それなのに犯人の特定ができないなんて、どういうコトですか!」

 窓際に立って、ブラインドカーテンの隙間から夕陽に染まる街を眺めている、愛称『ボス』がデニムに言った。

「そんなにカッカするなデニム……いろいろと大人の事情ってもんがあるんだ」

「どんな事情ですか! わかるように説明してください! 納得できません!」

 部屋にはボスとデニムの他にも、三人の刑事がいた。


 一人目は小肥りで穏和な顔つきの、定年間近の刑事──『茂さん』茂さんは、いつも手の平サイズのハマグリの二枚貝で作った変な健康器具をパカパカさせている。


 もう一人の刑事は『村中さん』──人情派刑事の初老男性で、昼電球と前にいた部署では 揶揄やゆされていたらしい婿養子だ。


 最後の一人は比較的若い刑事『 中門ちゅうもん』──角刈り頭で、サングラスをしていて、いつもショットガンを布で磨いている。

 出動すると毎回、パトカーを壊して始末書を提出している危ない刑事だ。


 デニムが言った。

「もう、オレ一人でも真相を暴きますよ……仕●人の正体をつきとめてみせます」

 そう言ってデニムは、部屋から出て行った。

 デニムの姿が見えなくなると、茂さんがポツリと言った。

「若さだな」


 ブラインドカーテンの隙間を指で広げて、外を眺めているボスが言った。

「今日は寅の日だ……いつものバーに集まってくれ、依頼が一件入っている」


 その日の夜──路地裏にある一軒のバー、入り口には【本日貸しきり】のプレート。

 薄暗い店内にいるのは、カウンターの中に店の女性バーテンダー。

 店内の座席には分散して。

『村中』

『茂さん』

『中門』

 そして、スキンヘッドで職業不明の男『テツ』

 やさ男で二枚目の『ヒデ』がいた。


 カウンターの上に、人物が写った番号が書かれた六枚の写真を並べ置いて、女性バーテンダーが言った。

「ボスからの今回のターゲットです……最低の連中です」


 幸せに暮らしていた新婚家庭に忍び寄った魔手。

 美人妻を風俗で働かせようとしていた悪党グループに若妻は心を壊され、夫も飛び降り自殺をして命を絶った。

「怨み節のターゲットは

①デリバリー風俗に非合法な方法で、女性や男性を斡旋するリーダー格の男……

②非合法だと知りながら、 女性や男性を精神的に追い詰めて性的に働かせていた違法デリバリー風俗業の代表……

③女性を罠に落として、違法な風俗で働くように仕向ける極悪な元ホスト……

④同じく強欲な元ホステス……

そして、⑤間接的にSNSでターゲットの誹謗中傷を流して、精神的に追い詰める役目をグループ内で担っている引きこもりのクズ男……

⑥夫の同僚で美人妻を抱きたいがために、悪党に加担して最初の客になった男の……計六人」

 女のバーテンダーは、カウンターの上に数枚の紙幣と小銭を置いた。

『影 刑事でか』が、写真と仕事料をそれぞれ持って店を出ていく。


 写真と小銭を手にした茂さんが言った。

「それじゃあ、害虫駆除をはじめるとするか」


 村中さんが、呟きながら金銭と写真を手にする。

「心を壊された新妻の腹には心が壊れたショックで、流産した子供が入っていた……被害者は流れた子供を入れて三人だ」


 中門が、仕事料と写真を手にしてバーを去っていく。

 テツが、仕事料と写真を手にする。

 ヒデが、仕事料と写真を手にして店を出るとバーの明かりが消えた。


 翌日、日中──質屋に預けてあった。先祖の日本刀を受け取って質屋から出てきた村中に、店の外の狭い路地で壁に背もたれして立っていたデニムが村中に言った。

「まさか、こんな狭い路地裏に質屋があるなんて知りませんでした……今夜の仕事は、その手にしたモノを使うんですか?」

 村中の表情が普段の人情派刑事とは異なる、鋭い表情でデニムを睨みながら言った。

「どこまで、調べた」

「ある程度まで……仕●人と呼ばれる存在、影刑事の存在。

そして、善良な国民が心の中で求めている、悪を倒す必要悪の存在を、政府も国民不満のガス抜きのために、

国家の果実を蝕む害虫を駆除する者を暗黙しなくてはならない状態にまで国が陥っているコトを」

 

 村中が日本刀を包んである新聞紙に手をかけた時、いきなり土下座したデニムが村中に哀願する。

「村中さん! オレにも悪人退治を手伝わせてください! オレ、手先が器用だから電圧を上げた改造スタンガン作れます! それで一緒に、仕●人を!」


 村中が土下座をしている、デニムを見下ろして言った。

「若造が知ったような口を叩くんじねぇ、オレたちは銭をもらって悪人を殺す。

悪人と同じ穴の底で這いまわっている、銭が欲しいだけの小汚ない人殺しだ」

 言葉を続ける村中。

「私怨だけで、仕●人の世界に足を踏み込む気ならやめておきな……二度と抜け出せねぇ奈落の世界だ、ロクな死に方はしねぇぜ」


 村中はデニムに硬貨を一枚放り投げて言った。

「それで缶コーヒーでも買って飲みな……もし、心を壊された姉の怨みを晴らしたい、仕●人になる覚悟があるなら。

今夜、十一時に風俗店の駐車場に来い。

来る気がなかったら、見聞きしたコトは忘れて仕●人には一切関わるな……いいな」

 それだけ言うと、昼電球の村中は、六番目の写真を残して去って行った。

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