これからデモアンドロイドを向かわせます

ちびまるフォイ

アンドロイドたちの戦争

私は目を疑った。


なんとこの苦しい状況のどさくさにまぎれて、

腐敗した政治家は「戦争奨励法」などというとんでもない悪法を通そうというのだ。


癒着しているテレビはこの大事件をけして報道しない。

私達がいつ戦場に駆り出されてもおかしくない未来がすぐそこまで来ているというのに。


「やるしかない。たとえひとりでも!」


私はプラカードを持って政治家たちの会議場へと向かった。

警備員はプラカードを見るやすぐに止めに来た。


「ちょっとすみません、今は感染拡大防止のため外出制限中でしょう」


「君はわかっているのか! 今、あの中でもっと大きな悪法が通されようとしてるんだぞ!」


「おい応援を! 早く!」


私の懸命なデモ活動はすぐに片付けられてしまった。

SNSを通じて拡散してもすぐに情報統制されてしまう。


「どうすればいいんだ……せめてデモ活動ができれば……!」


今は人の移動制限のため不必要な外出はできない。

デモの人員を募ることはできても、外に出ることはできない。


そうこうしているうちに、戦争奨励法へのお膳立てが進められてしまう。

今すぐに行動が必要なのに。


「こ、これは……!?」


そんなとき、アンドロイドの購入サイトを見つけた。

八方塞がりの状況を打開してくれる可能性を感じた。


アンドロイドを大量に購入すると、会議場へと派遣した。


事前に目的地を指定しておけば勝手に向かってくれるし、

細かな操作はパソコンを通じて家から指示も出せる。


アンドロイドたちが会議場に到着すると、持たせていたプラカードを高々と掲げた。


『センソーショーレーホー、ハンターイ』


機械音声が設定したテキストを読み上げる。


『 ハンターイ! 』


他のアンドロイドたちも声を合わせる。

あとは自動操縦。アンドロイドたちはずっと会議場の前で反対活動を続けてくれる。


アンドロイドの目に内蔵されたカメラでは警備員が近寄ってくるのが見えた。


『なんだこのロボット……』


内蔵マイクを通して、こちらの声を発話させた。


「外出自粛はあくまでも人間にたいしての話だろう。

 アンドロイドは自由に外出できる。だから私はここで反対活動をしているのだ!」


『なに屁理屈言ってんだこいつ!』


警備員は警棒でアンドロイドをぶっ叩いて壊してしまった。

その様子は他のアンドロイドのカメラで録画していた。


「よくもやってくれたな……!!」


録画されていたデータを動画サイトに流すと、

アンドロイドを使ったデモという目新しさも手伝って多くの人が共感してくれた。


「警備員がアンドロイドを壊す権利なんてない!」

「これが人だったらどうするつもりなんだ!」

「このデモ活動にはなんの違法性もないのに!!」


共感してくれた人たちはアンドロイドを会議場へと派遣してくれた。

会議場の入り口には、アイドルのコンサート観客よりも多いアンドロイドたちがひしめき合っていた。


『 ハンターイ! 』

『 ハンターイ! 』

『 ハンターイ! 』


アンドロイドたちは口々に反対を叫んでいる。

1人の人間で複数体のアンドロイドを派遣できるから、デモも簡単に大規模化できる。

パッと見では人間にしか見えないからさらに効果的だ。


「これで政治家どもに民意を示せるぞ!!」


勝ちを確信したのもつかの間で、悪い政治家たちはリモート会議でアンドロイドをデモに派遣するのは違法と決めてしまった。

その理由は"景観を損ねるから"だという。


こんな意味不明な理由で禁止へとゴリ押しされる世界にしてたまるか。

私たちは負けじとさらにアンドロイドたちをデモに派遣した。


『 ハンターイ! 』

『 ハンターイ! 』

『 ハンターイ! 』


いくら悪法や入れ知恵で排除しようとも人の心は動かない。

そのことは大量のアンドロイドたちが証明してくれている。


デモ活動が収集つかないとなると、政治家たちはさらに強引な手を持ち出してきた。

なんとデモ排除ロボを動員してきたのだ。


「うそだろ……!」


デモ排除ロボは備え付けている機関銃をぶっ放して、横一列に並んでいるデモアンドロイドをスクラップにした。

アンドロイドとはいえ見た目は人間のものが地面に積み重なっている惨状には言葉を失った。


「ここまでやるなんて思わなかった……! やっぱり奴らは腐ってる!」


こんな力に負けてはいけない。

私達は力を合わせてデモアンドロイドを強化することにした。


どんな機関銃で撃たれてもびくともしない頑丈なボディ。

排除ロボを粉砕できるように対戦車ライフルを何丁も取り付けた。


「いけ! 強化デモアンドロイド!」


『ハンターーイ!!』


強化されたデモアンドロイドは排除ロボットを返り討ちにした。

ふたたび会議場前にアンドロイドで固めることができた。


政治家たちも負けじと排除ロボットをさらに強化してきた。

そんなことはこちらも予測済みで、放っていたスパイから情報を先取り。

排除ロボットよりもさらに優秀なアンドロイドへと改良して送り込む。


そんないたちごっこが続いたが、政治家たちの閉じたコミュニティよりも

有志が集まる私達のほうが技術力も情報戦術も優れているため排除ロボはデモアンドロイドに敗北した。


排除ロボでも抑えることのできないデモアンドロイドは毎日24時間休むことなく反対を訴えた。

このプレッシャーに負けた政治家たちはついに戦争奨励法を取り下げた。


「やったぞ!! 我々の勝利だーー!!」


もとはたった一人から始まった小さな運動が、悪しき権力を打破した瞬間だった。

部屋からでなくても革命を起こせるのだと証明できたのが誇らしい。


「この勝利をお祝いしなくちゃ」


私は大事な時の日ように取っておいたワインを開けようと冷蔵庫に向かった。

そこで部屋に見慣れない女の人がいたのに驚いた。


「うわっ、びっくりしたっ! あなた誰ですか? いったいどこから……」


女の後ろには蹴破られた玄関のドアが見えた。

ふたたび女の顔を見ると、目にはカメラのような明かりが見えた。


「デモハンターーイ」


操作されたデモアンドロイドは口からビームを発射して私の眉間を撃ち抜いた。

ビーム兵器は私達が近隣住民に配慮して、無音でロボットを倒せるよう改良したものだった。


最後に私の目に映ったのは、人混みにまぎれていくアンドロイドの後ろ姿だけだった。

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