桜吹雪になった君を

 その日、僕は自分のすべてと言えるものを失った。

 僕には彼女がいた。彼女は花のようにきれいに笑う人で一緒にいると心に花畑ができたかのように気持ちの安らぐ人だった。


 その彼女が今日亡くなった。 病死だった。


 ある日倒れてから病が発覚し、まるで神様が彼女を摘んでいくようにどんどんと衰弱し、逝ってしまった。当事者の彼女より取り乱す僕を落ち着かせるように彼女は最後まで笑っていた。


 彼女がいないという事実が胸にぽっかりと穴を開けたかのように虚無感に支配される。


 彼女を一緒に看取った彼女のお母さんに少し外に出てきたら良いと言われてしまった。そんなにひどい顔をしているのだろうか。まあ、想像はできてしまうあたり、僕も冷静なのかもしれない。




 街灯も少ない道を歩いていると、ふと彼女と初めて行ったデートを思い出した。二人で桜を見に行った日のことを、それを思い出すとあの日の桜道に足が向いてしまう。


 あぁ、まだ咲いていたようだ。記憶に残り、今も綺麗なピンク色を見せる桜は風が吹くと花びらの一枚一枚が宙を舞わせ、少ない街灯がほのかにこの場所を照らしている。

 今日の桜は、あの日の桜とはまた違う美しさがある。淡く儚くそして今まで見た中で一番美しい。


 僕はこれと似た美しさを知っている。

 彼女が最後に見せた笑顔だ。


 桜のもっとも美しい姿は散る瞬間に見える儚さだと昔聞いたことがあった。では、彼女は最後まで一番美しくいれたということなのか。一番を僕に見せてくれたということか。


 桜舞う夜の道、行き場のない言葉が花びらと共に空に舞うのを見つめ、こう想う。



 早く僕にも舞い散る季節が来ますように

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短め、初心者、各一話で完結 ラビッタ @LABITTA

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