第25話 廃病院のヒミツ

 政府の人間が車を出してリゼが目覚めた廃病院へと向かう。その際ニナが「一人で行かせられない」と無理やり同乗してきた。降りるように言っても聞かないだろうと、そのまま彼女と共に向かうことにした。ただそれ以外の人がいるのは二人にも想定外であった。


「なんで伯父さんまで付いてくるの?」

「これから向かう場所が危険かもしれないからね。私なら君たちの盾にもなれる。サイボーグの面目躍如といったところだよ。じゃじゃ馬な姪っ子も来るとは思わなかったけど」


 ステラリア自身が国と関係があるためとはいえ、まさかリゼと大統領との関係にまで介入しているなどとは想定していなかった。しかしステラリアの言うことももっともで、致命傷を負ったはずのリゼを誰が治療と百年もの間体を保たせたか。目覚めた後もリゼつけるような気配も姿も不気味なほどない。正体不明の人物の腹の中にこれから入り込むというのだ。


 リゼの記憶を頼りに車は旧市街地に入る。徒歩で数時間もかけて図書館にたどり着いた時と異なり、廃病院へはあっという間に到着した。再開発中の古いビル群の中で白に茶色の汚れがひときわ目立つ建物だ。

 廃病院の中は、リゼが目覚めた時より解体がだいぶ進んで建物から太陽の明かりが差し込んでいた。


「作業員に作業の中止を申し入れました。リゼ様どのあたりからお出になられましたか」

「暗い中だったから、ほぼ手探りで。どこに出入り口のドアがあるのかわからないの。でも階段を上がったことは覚えている」

「ということは、地下が怪しいね」


 携帯から発する明かりを頼りに、地下につながる階段を探す。階段はすぐ見つかったが、降りた先は薬品管理室だった後らしく、空っぽの棚が陳列されているだけだった。


「この辺りに見覚えは」

「わからない」

「……そこの棚に明かりを映してくれ」


 ステラリアが指摘した箇所に、機関の職員の人が明かりを向けると埃が棚の奥の隙間の中に流れているのが現れた。棚を押しのけると、連動して後ろの壁がガラガラ音を立てて横に動いた。


「隠し部屋か。さてニナちゃんは一階で待っててくれ」

「え?」

「ここはステラリアさんの言うとおりだ。何があるかわからないから」

「……わかった。でも危険なことがあったら、すぐ引き返してよね」

「わかっている」


 二人と共に扉の奥に入る。中は入る前と同じく暗闇が包まれていたが、足を踏み入れると突然部屋に明かりが灯しだした。


「これは」


 全員その光景に驚き戸惑う。部屋の中央には人一人入れるほどのカプセルが鎮座されその隣に生命維持装置のような機械が置かれている。医療機器がこの部屋にあるだけならこの反応にはならなかった。だが壁やガラス戸にかけられている銃火器や黒く血濡れている迷彩服が生と死の真逆の演出がつくられていた。


「これは一体」

「たぶん私、いえリーザ・ブリュンヒルドの持ち物だと思います。私が記憶している最後に身につけていた迷彩服、そして」


 ガラス戸に飾られている銃火器は、バルドから借りたものとほぼ同じ、いやこの銃は世界で唯一一つしかないあの『L/Z30』が飾られていた。


 本物。ここにあるものはすべてリーザ・ブリュンヒルドが使用した本物が飾られている。けど、ここで目覚めた私は本物のリーザ・ブリュンヒルドではない。なぜ私にこの品々を囲んでいたのか。

 部屋の埃は随分溜まっており、この部屋を管理していた人物が最近ここに訪れた形跡はない。


「電波が届かないな。ここの資料の撮影と持ち出して、大統領と機関にここの報告をしよう」


 職員が先導に立ってそれぞれ部屋に鎮座されている物品や調べ始める。リゼも彼らの手伝いをして、戸棚に入れられていたファイルを開いてみる。が、文字が読めないリゼには何のことかわからずすぐに閉じた。

 すると部屋の灯りが薄暗くなっていた。部屋のスイッチ……って確か入った途端自動的についたんだよね。暗い中では危ないとリゼが少し動くが灯りは変わらない、しかしステラリアが動くと部屋の灯りが戻ってきた。


「ねえステラリアさんちょっと聞いていい」

「どうしたかね」

「なんで電気が自動的についたの」

「人感センサーだ。どこの建物にもある標準装備だ」

「でもリゼさんが目覚めた時は「暗い中」だって」

「きっとその時たまたま故障していたんだ。この機械と資料を持って車に積んでくれ」

「それからもう一つ。人感センサー以外に機械の体で電気がつくってことはあるのか?」


 ガゴンッという重たい音が響くと、白煙が部屋を包み込む。白煙がリゼの視界を奪うがしばらくして意識が朦朧とし始める。

 職員とリゼはもう立つことができなくなり、地面に膝をつけてしまう。だがステラリアはまったく動じていない。職員が助けを求めてステラリアに手を伸ばす。ところが、ステラリアは職員の頭を地面に押し倒した。


「何をする!?」

「お前! ……っニナ!」

「ご安心を、大事な姪にこれ以上大人の事情に入ってほしくありませんからね」

「あんたいったい」


 何が目的か頭が理解できないまま、リゼの体はついに持たず地面に倒れてしまった。

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伝説の女傭兵、百年後の未来で浮気した彼氏をぶちのめすため最強ゲーマーになる チクチクネズミ @tikutikumouse

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