第4話 オリンピックは花と散る

 いらっしゃいませ。会員証のご提示ありがとうございます。


 この度は東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長ご就任お祝い申し上げます。のちほど、お席にお祝いをお持ちしますね。いえいえ、心ばかりのものですからお気遣いなく。それにしても五輪相というか女性活躍担当の座を捨ててまで東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長になられるとは相当な決意がおありなんでしょうねえ。感心いたします。ああ、おしゃべりが過ぎました。では。


 あたしさあ、正直に言うと東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長なんかやりたくなかったわけ。だって知ってるでしょう。東京オリンピック・パラリンピックなんか今年やらないって、IOCの理事会では裏で決まってるのよ。あとはまた一年伸ばすのか、中止にして次の次の次にねじ込むかのどちらかの折衝をすることになるの。大変よ。当然、国民は来年を希望するわよね。でも、そうすると冬季の北京オリンピックと重なっちゃって、たぶん大口のスポンサーになるアメリカの四大テレビネットワークのどこか知らないけど独占放送権を持ったところがオリンピック・パラリンピックが重なったら視聴率が取れないって文句を言うのよ。IOCってお金の伏魔殿だから、テレビネットワークに逃げられると、泡銭が獲れないから困るわけ。ホント、あたしたちが現役の頃だったみたいにアマチュアだけの大会にして、純粋に自分の力を誇示して、金メダルを狙うっていう名誉だけのオリンピック・パラリンピックに戻して欲しいわ。もっともあたしは銅メダルだし、本職の自転車選手から夏のオリンピック代表の座を奪っちゃった悪人なんだけどね。

 それに、あたし運動バカだから、政治家になるのもイヤだったのよ。でも、養父が政治家で、自動的に政治家にならなきゃいけない動く歩道ができちゃっていて、それにあたしの知名度だけは高いから簡単に国会議員になれちゃったの。それからが大変よ。なにがって、全てよ。礼儀作法から、着る服の色、それに勉強なんてしたことなかったから、難しい漢字が読めないのよ。麻生先生みたいに恥はかきたくないじゃない? 一生懸命、漢字ドリルをやったわ。そうしてやっとつかんだ大臣なのに、公益法人会長との兼務は禁止だからって辞任でしょ。だから固辞したのに森先生と菅首相に強引に丸め込まれちゃってさ、辛いなあ。


 ご歓談中失礼します。当店からのお祝いでございます。


 ああー、大輔くん来てくれたのね。嬉しいわ。チュー。


 ああ、またやってしまいましたね。今日は当店に『週刊文春』のカメラマン、ええ、もちろん当店の会員ですが、いらしゃっていて、記念のお写真を撮ろうとしたらこの始末。また、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長選びは振り出しに戻ったようですね。まあ、持って生まれた性癖は変えられないのですね。残念です。

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