メンズエステと俺

よう

”メンズエステ”と”俺”

 日々多忙な業務に忙殺される日々に束の間の祝日が訪れた。

まるで、砂漠を彷徨っている最中に幸運にもオアシスに辿り着いたかのようだ。

そんな祝日の昼、俺は目を覚ました。

「あ~、よく寝た。せっかくの祝日なのにやることがないな…ッ」

急に思い立った俺は、家から30分圏内のメンズエステの公式サイトを巡回していた。

以前、高校時代の友人からメンズエステに行った話を聞いて、いつか行ってみたいと思っていたからだ。

友人の話のよると、人によっては如何わしい行為もしてくれるそうだ。

 そんな夢のような話を真に受けた俺は、夢のような話に期待を抱きながらメンズエステのサイトを巡回した。お店の口コミや、出勤しているキャストの女の子を眺めていると時間があっという間に過ぎていった。1時間、そしてまた1時間が過ぎ、時刻は14時になっていた。

外では燦燦と太陽が降り注いでいた。その一方で、部屋に引きこもりメンズエステのサイトの巡回を行っている自分が少し惨めに思えてきてしまっていた。

「やっぱ行くの辞めとこうかな・・・」

そう思い始めたとき、「「もう一人の俺」」が、俺の心に囁いた。

「本当にいいのか?今行かないと、後悔するかもしれないぞ。明日からまた多忙な日々が待ち構えているし、万が一明日命を落とするならば後悔するのではないかい?」

その囁きを聴いた俺は、意を決してメンズエステの店舗に予約の電話を入れることにした。

「ここにするか…」

10個以上のサイトを閲覧した俺は、見れば見るほど、どの店が良いのかが分からなくなってしまっていたが、閲覧したサイトの中で最も興味を引いた巨乳の子がいるお店に勢いで電話することにした。


 強烈な緊張によって、震えた右手を左手で抑え、番号に間違いのないように俺はダイヤルを回した。


Prrr, Prrr, Prrr, Prrr, Prrr, Prrr


コールが5回り終えた時、この店は電話に出ないなと踏み、俺は電話を切った。

電話を切った瞬間、俺はなぜか肩の荷が下りた気がした。

しかし、ここまで勇気を出したのにも関わらず、行くのを辞めるという判断を下すのは、いささかもったいないなと思った俺は、閲覧したサイトの中で顔がタイプだった子がいる店に電話を掛けることにした。

緊張が張り詰める中、コール音が静かに鳴っている電話口に耳を傾けた。

Prrr、ガチャッ

「お電話ありがとうございます。エンペラーです。」

勢いがあるかつ冷淡な男の声が電話口から聞こえた。

「あっ、あのぉ~、本日予約したいんですけれども…」

緊張している俺は、なんとか緊張している心情を悟られないように、冷静を装って応答したつもりだった。

「ご予約のお客様ですね。かしこまりました!どちらの店舗をご希望でしょうか?」

男性は言った。

俺はタイプの子が在籍している店舗を答えた。

「五反田で…」

男は言った。

「五反田ですね、かしこまりました、お客様!ご指名はどなたでしょうか?」

俺はサイトで事前に確認していた女の子の名前を口にした。

「三ツ矢さんで、あ、サイト見たんですけど…」

男は動揺した様子で応答した。

「あ、三ツ矢ですか。えー、少々お待ちください…三ツ矢は本日予約が埋まっております。申し訳ございません。」

俺は何とも言えない心情のまま言った

「あ、そうですか、わかりました。三ツ矢さん以外はどなたがいらっしゃいますか?」

男は言った

「三ツ矢以外ですと、菅原というものが今から入れますが如何いたしましょうか?」

それを聞いた俺は電話を片手にすぐにその店のサイトを立ち上げ、菅原という人物のプロフィール写真を見た。見て俺は内心こう思った。(俺のタイプではないな…)

俺は男に尋ねた

「菅原さん以外にはいらっしゃらないんですか?」

男は申し訳なさげに言った

「えぇすみません...」

俺は言った

「わかりました。それでは菅原さんで90分コースでお願いしたいです。時間は16時からでもよろしいでしょうか?」

男は言った

「16時から菅原で90分コースですね!えぇ大丈夫ですよ!15時58分くらいにサイトに記載している待ち合わせ場所に行っていただいて、そちらからお店に再度お電話していただいてもよろしいでしょうか?施術場所まで案内致しますので。」

俺は「わかりました」と答えると、電話を切り、すぐに支度をした。

万が一のことも想定して、カード類を財布から抜いて自宅のテーブルに置いた。

また、現在財布に入っているお金25000円もテーブルに置いた。

このお金は、正月に実家に帰省した際に親からお年玉として頂いたものだ。

親が汗水垂らして稼いで頂いたお金でメンズエステに行くわけにはいかない。

(待ち合わせ場所近くのコンビニでお金をおろそう...)

そう思った俺は期待に胸を膨らませ、家を後にした。


15時40分待ち合わせ場所の近くまで着いた俺はお金をおろそうと、近くのコンビニに入った。

コンビニに入り、ATMの前に立って大事なことに気が付いた。

「カードが無い・・・」

そう、俺は、カードも現金も自宅に置いてきたのだった。

そのため、電子マネー2千円しか手持ちがない。

16時からは絶対間に合わないと踏んだ俺は、急いで店に電話し、時間を17時からに変更してもらった。

急いでお金を取りに家に帰った俺は、先ほどテーブルに置いたお金を握りしめ、再度五反田に向かった。

16時40分。待ち合わせ場所についた俺は、店に電話をした。

「すみません。17時から予約していたものですけれども、少し早いのですが待ち合わせ場所に到着しました」

電話に出た男は言った

「わかりました。このお電話にて施術を行っているマンションまで案内しますね」

男は丁寧にセラピストが居るであろうマンションまで俺を案内をした。

案内された俺の目の前にあったものは、30階建ての高層マンションだった。


電話にて指示された部屋番号を押すと、応答ボタンにランプが点き、セラピストと思われる方がエントランスの扉を遠隔で開ける。静かに開けられた扉に俺は入り、緊張感と高揚感と不安感がスクランブルされた心を引き下げそのまま部屋まで足を運ぶ。

部屋に着いた俺はチャイムを押す。

ピンポーン

チャイム音が外にも鳴り響く。

ガチャ

「こんにちは~!」

マンションの部屋の扉が開き、中から可憐なお姉さんが俺を出迎えてくれた。


案内されて薄暗い部屋の中に入り、座るように指示された椅子に座った。

お姉さんが、熱いお茶かジュースどっちがいいかを俺に尋ねてくる。

落ち着きたかった俺は咄嗟に熱いお茶を選択した。


 お茶を飲んでいると、お姉さんは俺に言った。

「プラス2000円で衣装チェンジ出来るけどどうする?」

初めてメンズエステに来た俺は言った

「初めてで勝手が分かっていないので、大丈夫です。」

お姉さんは心なしか引きつった顔をしたように見えた。

お茶を飲みながらお姉さんと俺は、外の気温の話をした。

少しするとシャワーを浴びるように指示があったのでシャワーを浴びた。

少し熱いシャワーを浴びながら俺は自問自答した。

「折角ここまで来たのに、衣装チェンジ2000円を渋るのか・・・?」

シャワーを出た俺はお姉さんに言った。

「あ、あの、シャワー浴びながら考えたんですけど、先ほどの衣装チェンジってどんなことするんですか?」

お姉さんは言った

「スケスケの服に着替えて施術をするんだよ」

聞く前から衣装チェンジをしてもらおうと思っていた俺は言った。

「あ、やっぱり衣装チェンジお願いしていいですか?」


お姉さんは2000円を受け取ると、別の部屋に行き着替えた。


着替えを終えたお姉さんを見た。

薄暗い部屋ということもあってか、俺には着替え前後の衣装の違いが良く分からなかった。

スケスケの衣装を着ているらしい姉さんにオイルでの施術を受けた。

施術を受けながらお姉さんと話していたら、あっという間に90分が経った。

お姉さんと最後にハグをして施術が終わった。

シャワーを浴びて帰る帰り道、俺は冷たい夜風に吹かれながら施術のことを思い返した。

振り返ってみて、こう心の中で呟いた。

「友達の話みたいに、過度なサービスはなかったけどいい経験させてもらったな。

思い返すと、セラピストのお姉さん、高校の時の国語の先生に似ていたなぁ…」


俺は、国語総合の教科書に載っていた羽生善治の話を思い出しながら家路についた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

メンズエステと俺 よう @tennis_kick

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ