第5話 強制発光!暗闇で奪われるエネルギー

「グリーン先輩とイエロー先輩がやられたらしいな…」


「うん…。あんな強かった先輩がやられるなんて…」


ブレイブレンジャーグレイとオレンジが会話をしている。

彼らはある研究施設の廃墟を訪れていた。

悪の組織のダークセイバーの微弱な出現反応が検知されたため、近くにいた二人が派遣されたのである。


彼らはこの研究施設を所有していた大学に所属する学生で、二人は顔見知りだった。

グレイは水球部、オレンジは水泳部のため直接会話する機会は少ないが、プールの更衣室で顔を合わせ挨拶することはあった。


だが、二人でブレイブレンジャーとして出動するのは初めてである。

ポロパンとも競泳用スパッツとも違う腰まで切れ込むブレイブレンジャーのコスチュームは性的で、オレンジは少し気恥ずかしく感じた。

しかし、グレイはそんなことは微塵も気にしていないようで、ずんずんと廃墟の奥へ進んでいく。


オレンジは恥ずかしさに捕らわれた自分の心を改めた。

今は余計なことを気にしている場合ではないのである。


彼の心にはブレイブレンジャーに起こったある事件が影を落とした。

それが最初に話していたダークセイバーによるグリーンとイエローの抹殺事件である。


ブレイブレンジャーのなかでも5本の指に入る戦闘力を誇る二人がやられたのである。

彼らはブレイブレンジャーのエネルギー源であるクリスタルを割られて息絶えた。

二人を襲ったのは遠距離からのレーザー放射だった。


地球人の科学力では実現できない圧倒的な科学力が、二人の戦士を倒したのである。

ダークセイバーの力が増しているのは明らかだった。


グレイとオレンジはまだブレイブレンジャーに加入してから間もなく、戦闘経験は非常に少ない。


胸のクリスタルにより超人的な力を獲得してはいるものの、力を増した敵に対抗できるだろうか?

オレンジは少しばかり気弱になる。


「何があろうと目の前の敵を着実に倒していく。俺たちにできることはそれだけだ」


グレイが言った。

グレイの強い言葉にオレンジは気を引き締め直す。

確かにグレイの言う通りだ。

オレンジは気持ちを引き締め、廃墟の探索に集中した。


さらに、グレイの鍛え上げられた肉体は、オレンジを安心させた。

広い背中に埋まった大きな肩甲骨。

それを若々しい筋肉が覆っている。

オレンジも鍛えているのでかなり筋肉質ではあったが、グレイの肉体はより洗練されていた。


それにオレンジよりもグレイは背が高い。

180センチを超えるオレンジは、自分より背の高い男性を見る機会が少ない。

グレイの完成させた肉体は、オレンジを十分に安心させる効果があった。


「ん?」


視線を感じたのかグレイが振り返る。

驚いてオレンジは目を逸らした。

グレイは少しばかり訝しく感じたようだが、特に気にも留めずに任務へと戻った。


「それにしても広いな」


彼らはダークエナジーの反応が高い研究施設の奥へ奥へと進んでいく。

研究施設は広大な地下施設を備えていた。

ここで核融合やウィルスなど危険な研究を行っていたのである。

地下深くであれば、事件が起こっても被害を最小限に留めることができる。

何より隠ぺい工作もたやすい。


案の定この研究施設は致命的な事故を起こし、閉鎖されたのだ。


「くっ…。ダークセイバーたちめ。俺たちを光の届かないところに追い込んで、太陽エネルギーを補給できないようにする気だな」


グレイが悔しげにつぶやく。

光の戦士であるブレイブレンジャーは太陽の光をエネルギー源に戦うことができる。

しかし、光から隔離された暗闇では、自身の体内にため込んだエネルギーしか使うことができない。

戦闘に使う時間はかなり短くなる。


オレンジの心が戦士らしからぬ恐怖に支配され始めた。

できることならグレイの腕をつかんで身を寄せたかったが、正義の戦士としてそんな醜態は見せられない。

オレンジは勇気を振り絞って前に進む。


研究所の暗闇を二人のクリスタルが照らしている。

床にはガラスの容器や配線、電子機器が散らばっており、時たま用途不明の巨大な機械が現れ、油断ならない状況だった。


突然、あの機械が反応して攻撃されたりして…。


オレンジの悪い予感。

それは寸分違わずに的中した。


彼ら隣に位置していた機械。

そこには無数のホースの先がびっしりと並んでいた。

その姿はまるで海辺のフジツボのようでもある。


そして、突如としてその機会が作動したのである。

不吉な機械音。

次の瞬間、そのホースの尖端から大量の液体が二人に向かって噴出されたのだ!


「わっ!何だこれねばねばする」


「ぐっ!これは毒だ!ダメージを感じる!」


突然の攻撃に焦る二人。

液体により皮膚からエネルギーが奪われる。

体に力が入らない。


「くっそ…。やられたな…」


悔し気なグレイ。


「うわぁ。どうしよう」


戸惑うオレンジ。


そして、予想もしないことが起こる。

二人の体が突然輝き始める。

研究所の室内が照らされ、古びた薄汚れた壁と散らかった床が良く見える。


その光はまばゆい正義の光。

ブレイブレンジャーのクリスタルと同じ輝きだった。


それは通常ならばブレイブレンジャーの戦闘力が最大に達した時に放たれる輝きだった。

しかし、今はグレイもオレンジも全く力を入れてはいない。

その光の放射は彼らの意図に反するものだった。


「くっ…。この液体は俺たちのエネルギーを光として排出させてしまうのか」


グレイが敵の罠の正体に気づいたが、もう既に遅かった。


光に覆われた彼の姿を認めると、隠れていた戦闘員が牙を剥く。

彼らは闇に潜んで、二人が罠にかかるのを待っていたのだ。

戦闘員の黒い全身タイツは闇に紛れるのに最適だった。


「くそっ!たあっ!」


「やぁっ!えいっ!」


どこにこれだけの人数が隠れていたのだろうか?

それほどに多くの戦闘員たちが彼らに襲いかかった。

激しい脱力感に襲われつつも、彼らは健闘を見せた。

光り輝き戦う姿は、いかにもヒーロー然としている。

しかし、輝けば輝くほど彼らは消耗していく。

ブレイブエネルギーが全く無駄に垂れ流されていく。


「ちくしょう…」


「うわぁ…」


多勢に無勢。

そして、発光によるエネルギーの消耗で、ついにグレイとグレイは敵に拘束された。

敵に後ろか羽交い絞めにされ、身動きが取れない。


「ちくしょう!離せ!」


激しく抵抗するグレイ。

しかし、エネルギーを急速に失った彼は、普通の成人男性と同程度の力しか持ち合わせていなかった。

二人を包む光が急速に薄れていく。

ブレイブエネルギーが尽きつつあった。


「うう…」


激しい消耗によりオレンジの心は完全に折れており、敵に身をまかせてぐったりしている。


「オレンジ!負けるんじゃない!戦え!ぐあっ!」


グレイが励まそうとするが、別の戦闘員に腹を殴られ黙らされた。


「ぐはっ!がはっ!がっ!」


殴打は何度も続いた。

グレイの顔が苦しげに歪み、殴打の度に確実に光も弱まっていく。

オレンジはたまらず叫んだ。


「グレイを!グレイを放せ!」


たまらずオレンジはグレイの元に駆け寄った。

エネルギーを失っていたにもかかわらず、思いのほかその力は強く敵の腕を抜け出すことができたのだ。


オレンジはグレイを拘束していた戦闘員の頬を殴りつけ、グレイを解放した。

グレイはオレンジの胸に倒れ込む。


「グレイ!」


「あぁ…。オレンジ…」


オレンジの思いもしない雄姿にグレイも驚く。


「さあ!逃げよう!」


オレンジとグレイは戦闘員たちの間を縫って、暗闇へと駆け出した。

素早い動きに戦闘員たちは全く対応できなかった。


彼らの姿は闇のなかでしばらくぼんやりと輝いていたが、すぐに光を失った。


「どうします?ボス?追いますか?」


雑魚戦闘員がリーダーとおぼしき戦闘員に聞く。


「ほっとけ。光が消えたってことは、エネルギーが枯渇しきったってことさ」


「干上がって死んじまったってことですね!」


「そう死んだのさ!俺たちの仕事は奴らの命を奪うことだ。拉致はもちろん死体の回収も仕事じゃない。さっさと帰ろう」


「了解しました」


リーダーの一言で戦闘員たちは、ぞろぞろと出口に向かって移動を始めた。

仕事終わりの彼らはいかにもやる気なさげですっかりだらけ切っている。




しかし、彼らの後ろ再びごく小さな光が灯る。

その柔らかな光はブレイブレンジャーグレイとオレンジがまだ生きていることを示していた。


果たして二人の運命はいかに。




以上

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

このヒーローめっちゃTUEEEなのにすぐやられる らぶか @ra_bu_ka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ