第4話 荒野、破壊されたクリスタル
「くっそ!何でこんなことに」
グリーンはイエローを抱きとめながら叫んだ。
何者かの攻撃でイエローのクリスタルは破壊され、イエローは完全に行動不能となった。
ブレイブレンジャーにとっては、かなり危機的な状況だ。
グリーンは動揺のあまり、敵である改造車に背を向けてしまった。
通常ならこのまま轢き殺されかねない状況だ。
しかし、今回の攻撃は彼らのクリスタルを狙ったものである。
むしろ、イエローを抱くことで、クリスタルは守られ、グリーンは相手の攻撃を一時的に防ぐことになった。
イエローのクリスタルを破壊したのは、有効射程が圧倒的に長いレーザーだった。
通常のレーザー攻撃、発射装置がブレイブレンジャーから目視できる状態であれば、簡単に避けられたしまう。
そこでダークセイバーは、圧倒的な科学力で、かなり遠方への攻撃を可能にしたレーザーを開発したのである。
もちろん、屈強なブレイブレンジャーの肉体であれば、レーザー光線の一発や二発堪えるのはたやすい。
そこでダークセイバーは、高精度の命中率を誇るレーザーにより、
ピンポイントでブレイブレンジャーのクリスタルを破壊する作戦を実行するに至ったのである
「うぅ…イエロー」
グリーンはイエローをひしと抱きしめ涙した。
このままグリーンがテレポーテーション能力を用いて、ブレイブレンジャーの秘密基地に帰還してしまったら、作戦は失敗に終わってしまう。
ダークセイバーのレーザー発射施設に緊張感が走った。
しかし、それは杞憂だった。
グリーンは、優しくイエローを荒野の地面へと横たえたのである。
クリスタルは露わになった。
「よし!レーザー用意!
グリーンのクリスタルに照準を合わせろ!」
レーザー光線の発射に前、狙いを定めるためのポインターがグリーンのクリスタルに当てられた。
グリーンはそのことに気づく気配もない。
彼もまた、イエローのように無様にクリスタルを割られてしまうのだろうか?
「ま!待つんだ!」
レーザー発射施設の職員の一人がレーザー発射を静止した。
彼は、グリーンの身体に起こるある変化に気づいたようだった。
「グリーンの胸部!クリスタルに謎のエネルギー反応が集まっている!
今、レーザーを直撃したら、何が起こるかわからない」
謎のエネルギー反応。
それは人間の目からでも、はっきりと識別できるものだった。
グリーンのクリスタルが七色に輝く。
まるで、新たな生命を育んでいるように、クリスタルが鼓動しているかのようだった。
グリーンはそのクリスタルを、改造車に向けた。
グリーン自身は遥か遠くにあるレーザー発射装置により、イエローが倒されたとは知るべくもない。
この攻撃の主体が、例の改造車からなされたものであると考えるのは自然なことだろう。
怒りに満ちた眼差しと、怪しい輝きを見せるクリスタルが、改造車に狙いを定めた!
「お前!よくもイエローを!ぶっ殺してやる」
そう言うや否や、グリーンのクリスタルがまばゆい光を放つ!
「ブレイブ!ビーム!」
次の瞬間、圧倒的な光線がグリーンのクリスタルから放たれた。
もろにその攻撃を受けた改造車は、瞬く間に消し飛ぶ。
金属であるにもかかわらず、その車は蒸発してしまった。
「なんてことだ…」
レーザー発射施設の職員たちは唖然とした。
ブレイブレンジャーの想定以上の攻撃力に驚くほかなかった。
「くっ…」
激しい光線を放った後、グリーンはその場に倒れ込む。
あのレベルの光線を出力した後である。
身体にかなりの負担がかかっていることは言うまでもない。
それでもレーザー発射施設の職員たちの動揺は止まなかった。
彼らが開発している以上の威力の攻撃を、ブレイブレンジャーは放つことができる。
これはダークセイバーにとっては予想もしなかった事態だ。
誰もが黙り込み、そして事態の深刻さに息をのんだ。
「あの…」
そんななかで一人の若い研究員が声を上げた。
「作戦はどうしましょう」
彼らのそもそもの作戦。
それは、遠方からレーザーでセイバーレンジャーの胸のクリスタルを破壊することだ。
しかし、グリーンのブレイブビームを目撃した後で、それを破壊しようという勇気のあるものはいなかった。
皆、遥か彼方のグリーンが映ったモニター画面を呆然と見ている。
だが、しばらく眺めるうちに、その場の空気が変わっていった。
先ほど、あれほどのエネルギーを放ったグリーンのクリスタル。
そこにエネルギーがほとんど残されていないのが見て取れたのである。
クリスタルは、点滅を始めていた。
それはエネルギーの枯渇を知らせるサインだ。
先ほどまで畏怖の念を持ってグリーンを眺めていた職員たちの面差しが変わっていく。
グリーンのクリスタルは、既にエネルギーを全て使い切った抜け殻のように見えた。
それはあまりにも弱々しく、脆弱に思えた。
レーザーなど使わずとも、片手でひねり潰せるようにさえ感じられた。
「…やれ」
その場の責任者と思しき、壮年の男性が、若い研究員に声をかけた。
彼らは任務を粛々とこなすことにした。
グリーンの胸は、おあつらえ向きに、施設の方を向いていた。
まるで狙ってくれとも言わんばかりの無防備さだ。
彼らはグリーンのクリスタルに照準を合わせる。
ビーム発射の体力消耗で、呼吸が乱れているグリーン。
呼吸とともに、クリスタルも上下し、狙いを定めるのは難しかったが、何とか照準を合わせることができた。
「準備完了です」
「よし!発射!」
既にダークセイバー側にためらいはなかった。
クリスタルめがけてレーザーが発射された。
パリン
軽薄な音を立てて、グリーンのクリスタルが、割れた。
「な…、なぜ…」
グリーンは信じられないといった表情で胸を抑える。
クリスタルは粉砕され、そこには何もなかった。
先ほど、車をひとつ消滅させるビームが放たれたのが嘘のように、そこには暗い空隙があるばかりである。
「あぁ…、イエロー」
そう呟くと、グリーンは荒野へと倒れ込んだ。
グリーンが倒れる音が辺りに響き、その後は静寂が訪れた。
荒野には競パンのみを身につけた肉体が二つ横たわる。
それ以外には何もなく、風が草を揺らすばかりであった。
もうすぐ陽が暮れようとしていた。
以上
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