第3話 荒野、狙われたクリスタル

ここはあるアジアのスラム街。

街路が狭く迷路のような街並みだ。

昼夜の喧騒が絶えないこの街で、その喧騒をかき消すような轟音が響いていた。


改造車が物凄い勢いで街路を走り抜けている。

まるで、走ることに特化したような無骨なデザイン。


街の街路は改造車が走るには狭すぎた。

だが、それをものともせず改造車は走っていく。


両サイドを建物に擦り付け、土煙を出しながら駆け抜けていくのである。


通過した後には、土煙が立ち上る。

それは改造車が通過した道路の表面を破壊しているためだった。


タイヤには無数のトゲがついており、通過した石畳を粉々にしている。

そのタイヤが石畳の破片と砂を巻き上げてながら進む。

その様子は、まるで土を燃料にして走る機関車のようだった。


この改造車が道を破壊しながら進んでいる理由は、「追っ手」から逃れるためである。

道を破壊しながら進むことで、追っ手の足場を悪くし、土煙をあげることで追っ手の視覚を奪う。

逃走に特化したともいえる改造車なのである。


しかし、そんな改造車の機能をものともぜず、追っ手は確実に迫っていた。


車が駆け抜ける横の建物。

そこをピュンピュンと飛ぶ影が見える。


建物と建物の隙間を、いともたやすく飛び越える。

無計画に建てられたスラムの建物は、高さが統一されているわけではないが、その段差さえも物ともせず、改造車とつかず離れずで追い掛ける。

さながら、パルクールのようである。


しかし、それが追っ手の一人に過ぎない。


もう一人は、車が立てる土煙の後をものともせずに追ってくる。


うおぉぉぉぉっ!


雄叫びのような声を上げながら、彼は全力疾走で車を追いかけてくる。


車が巻き上げる土煙はおろか、小石や石畳の破片もものともしない。

分厚い筋肉が彼の体を守っているのだ。


彼らは何者だろうか。

もちろん、ダークセイバーから地球の平和を守るブレイブレンジャーたちである。


建物の上を移動しているのがブレイブイエロー。

小柄だが身体能力が高く、小回りが利く。


車の後ろを力づくで走っているのが、ブレイブグリーンだ。

怪力の持ち主で、筋肉量はブレイブレンジャーのなかでも随一だ。


イエローはその脚を自由に動かすために、V字に切れ込んだ競パンスタイルのコスチュームが必要だし、グリーンはグリーンで発達した大腿部の筋肉を押さえ付けないように生地を最小限にした競パン状のコスチュームが必要だった。

ブレイブレンジャーの競パンは、合理的な理由で選ばれたものなのである。


この改造車がダークセイバーの手のものであることは間違いない。

決して逃すわけにはいかなかった。


町外れに行くに従って、建物は徐々にまばらになっていく。

改造車は狭い街路から、広い道路(と言っても、父が踏み固められわだちができた粗末なものだが)に出た後さらにスピードをあげた。


ただし、スピードを上げたのは、改造車だけではない。

建物がなくなり、イエローは地面に降り立つ。

さらに石畳がなくなくなり、巻き上げられた小石や砂がなくなったグリーンもさらに速度を上げた。


「イエロー!奴の車の前に回り込むぞ」


「オッケー!グリーン!どっちが先に着くか競争だ」


二人はそれぞれに速度を上げ、それぞれ逆サイドから改造車を追い抜いた。

既に二人は、改造車の前を走っている。

恐るべき身体能力である。


車との距離が一定区間空いたところで、二人は足を止め、改造車に向かってファイティングポーズを取る。

それを認識した改造車も急ブレーキをかけて停車した。


二人のブレイブレンジャーと改造車が向き合うことになる。

そこはスラム街を既に抜け、町はずれ荒野だった。


「おい!お前!何の目的で現れた!」


グリーンが改造車のなかにいるであろうダークセイバーの戦闘員に向かって叫ぶ。

この車は、突然スラム街の中心地に現れた。

急行したイエローとグリーンの姿を確認するや、この街外れまで一度も止まることなく駆け抜けてきた。

奇妙な行動に、二人は警戒を強めた。


荒野に風が吹き、太陽が燦々と輝く。

太陽の光を遮るものはなく、二人のクリスタルが光り輝く。


そう。そこは遮蔽物が何もない荒野。


ここにブレイブレンジャーを連れ出すことこそが、この改造車の目的だった。


ダークセイバーはブレイブレンジャーを倒す新たな兵器を開発したのである。


それを使用するためには、建物が乱立する街のなかではダメだった。

何の邪魔もなしに、彼らを視認できる場所でなかればならなかったのだ。


「おい!黙ってないで何か答えろ!

 さもないと、力づくで車から引きずり出すぞ!」


グリーンの脅しに反応を示すことなく、車は沈黙している。

荒野には不気味な静寂が広がっていた。


その間にも、ブレイブレンジャーを倒す計画は着々と進んでいた。

日の光のなか、二人は気づくことがなかったが、イエローの胸元にポツリと小さな光が当てられていた。

レイザーポインターのような光。

何かがイエローを狙っているのである


「何も答えないつもりか、ならこっちから行くぞ」


パリン


グリーンが車に向かって殴りかかろうとしたその時だった。

ガラスが割れるような小さな音がした。


反射的に放りかえるグリーン。

そこには呆然としたイエローが立っていた。


「グリーン…」


イエローは信じられないと言ったような目で、グリーンを見る…


「クリスタルが…割れちゃった」


そういうやいなやイエローは倒れ込む


「イエロー!」


グリーンは倒れ込むイエローを何とか抱きとめた。

イエローは既に意識はなく、グリーンに完全に体重を預けている。


確かにイエローの薄い胸板の間に収まるクリスタルが、完全に粉々になっていた。

イエローの胸の中央部、クリスタルが収まっていた場所には痛々しい空隙ができている。


胸のクリスタルはブレイブレンジャーのエネルギー源である。

それを破壊されるとブレイブレンジャーは普通の人間並の体力に成り下がる。


イエローは急速にエネルギーが減少していく虚脱感とクリスタルを割られたショックで気を失ってしまったようだ。



彼ら完全にダークセイバーの罠にはまってしまったのである。



続く

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