第2話 ブレイブレンジャーの敗北記念日


男は既に出口を抜け、モールの駐車場に出ていた。

ブレイブレンジャーたちも、すぐさま男に追いつき、入り口を通過した。


その時だった。


入り口の万引き防止のゲートがけたたましい音を立てて鳴り出した。

驚くブレイブレンジャーたち。

彼らは商品を持ち出してはいない。


しかし、なぜかゲートは、彼らを通すまいと警告音が鳴らしたのである。


その音を確認して、男は立ち止まり、ブレイブレンジャーへ向き直った。

男の仕草には、どことなく余裕が見て取れる。


一体何が起こったのだろうか。


うっ…。


次の瞬間、ブレイブレンジャーたちが、うめき声をあげる。


ブルーが、ブラックが、そしてレッドまでも、次々とその場に崩れ落ち、がっくりと膝をつく。

まるで、何らかの発作に襲われているかのようだ。

苦痛に歪む三人の顔。


レッドは男を睨みつけた。


「貴様…何をした!」


サングラスの上からでも、男がニヤついていることが見て取れた。

男は黙って、レッドの胸に輝くクリスタルを指さした。


そこには、先ほど男が銃から放った紙吹雪が一枚貼り付いている


クリスタルはセイバーレンジャーの身体と同じ生理機能を有している。

セイバーレンジャーが発汗すれば、もちろんクリスタルも発汗する。

そのため、あの紙吹雪は彼らのクリスタルにぴったりと貼り付いたのだ。


ブルーのそして、ブラックのクリスタルにもその紙は貼り付いていた。

もしかしたら、その紙には自動追尾機能があり、ブレイブレンジャーのクリスタルに接近するようにできているのかもしれない。


「ふっ…

無様だなブレイブレンジャー!

こんな簡単なトラップに引っかかるとは」


不敵な笑みを浮かべる男。

彼はもう勝利を確信しているようだった。


「クリスタルが…、刺激されているる…、一体この攻撃は何なんだ」


「振動している…、まるで電撃を受けているみたいだ」


ブルーもブラックもそれぞれに苦悶の表情を浮かべている。

クリスタルが直接攻撃されているのは明らかだった。


謎の攻撃に、三人はなすすべがない。


「人間の技術を使った単純な攻撃なのだがな。

君たちを倒すには、これくらいの攻撃で十分なのかもしれない」


男は拍子抜けしたかのように言った。

ダークセイバーである彼が用意した罠は、本当にごく簡単なものだった。


クリスタルに張り付いたただの紙のように見えるそれは、ICタグだった。

ICタグはゲート通過時に信号を発して、警告音を鳴らす。

ショッピングモールの万引き防止用の機能を利用した簡単なシステムだった。


しかし、ただの警告音だけで、ブレイブレンジャーにダメージが与えられるわけはない。

そのICタグの内部には、ゲートの警告音と共鳴する、ダークセイバー特製の素材が埋め込まれていた。


警告音を受け取った素材は激しく振動し、クリスタルにその刺激を伝える。

ブレイブレンジャーたちは、ひときわ敏感なクリスタルの刺激を受け取り、たちまち行動不能に陥ってしまったのだ。


「負けて…たまるか…」


その振動は通常の人間にとっては、一定の電流を流されているのと同じだった。

本来なら気絶してしまうはずのダメージだが、彼らはそれに耐える。


レッドが立ち上がったのを皮切りに、ブルーが、そしてブラックが立ち上がる。

しかし、それがやっとだった。

彼らは立ち上がり、ファイティングポーズを取るのが精一杯で、一歩たりとも進むことができない。


男は彼らの根性を称えるかのように皮肉めいたピューッと口笛を吹いた。


「おーすごいすごい!」


一言煽り文句を入れると、男は立ち去る。

そして、近くに止めてあった自身の車に乗り込んだ。


「待て…、待つんだ」


レッドが車に向かって手を伸ばす。

敵を逃すわけにはいかないが、クリスタルへの激しいバイブレーションで体は思うように動かない。


男は車のエンジンをかけ、出口に向かって走り出す。

しかし、思い直したかのように、数メートル進んだ後に車を停めた。

そして、思案するかのようにそこから動かない。


その動きにブレイブレンジャーも戸惑った。

だが、次の瞬間男の目的が何なのか、彼ら悟ることになる。


男の車は突然バックし、ブレイブレンジャーに向かって突撃してきた。


「!」


驚く三人しかし。

彼らに避ける余裕などあるはずもない。


車体は彼らにぶつかる。

車と人の肉体がぶつかる鈍い音。

彼らは車に弾き飛ばされ、道路に倒れ込む。


尻もちをついたレッド、体をかばうように腕から倒れたブラック。

そして、体をかばうタイミングを逸したブルーは頭を地面に強かに打った。


うぅ…


うめき声を上げるブルー。

頭の傷から血が流れていた。


男は倒れた三人を確認するように身を車の窓から乗り出した。


「ふんふん。

クリスタルを刺激している状態だと、ブレイブレンジャーにも傷がつけられるみたいだな」


男は自身が得た有益な情報に笑みを浮かべる。

ダークセイバーはこれまでブレイブレンジャーに傷ひとつつけることができなかったのである。


クリスタルのパワーに守られた彼らの肉体は強靭な防御力を誇っている。

しかし、今日のようにひとたびクリスタルが機能不全に陥ると、彼らの防御力は普通の人間レベルに成り下がる。


尻もちをつく際に地面に手をついたレッドの手のひらも擦り傷が出ているし、ブラックの腕にも打撲痕ができていた。


「今日は良いことを知ることができた。

私たちダークセイバーが君たちに一矢報いることができたわけだからね。

君たちは今日、初めて私たちに負けたわけだね。

今日はある意味記念日だよ。

ブレイブレンジャーの敗北記念日」


そう吐き捨てると、男は車を走らせ、その場を立ち去った。

男が立ち去ると同時に、ブレイブレンジャーのクリスタルの振動も消え去ったようだ。


三人はそれぞれについた傷を押さえつつ、その場に立ち上がった。


「ちくしょう…」


既に遥か遠くに立ち去った男の車を見送るしかない三人。

彼らの目には怒りと悔しさが燃えていた。


認めたくはないが、男の言ったことは間違いなかった。

ブレイブレンジャーは男の策略にはまって、完全に敗北してしまった。


今日はブレイブレンジャーの敗北記念日。

彼らはこの苦い記憶を決して忘れることはないだろう。



以上

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