紙に書こう、履歴を残そう。

多賀 夢(元・みきてぃ)

紙に書こう、履歴を残そう。

 菊池寛記念館に行ってきた。

 菊池寛は大好きな作家だ。特に戯曲『藤十郎の恋』が好きで、自分の小説でもモチーフにした事がある。彼はまっすぐな性格だったそうで、確かに作品にはどれも一本筋が通っている。


 展示品には原稿だけでなく、半自叙伝を書き記したメモ帳も置いてあった。原稿には推敲の跡があり、メモ帳は丁寧な字でびっしりと自分の思い出が綴られていた。それを眺めていて、私は「あっ」と声を出しそうになった。


 私は、いつもパソコンで小説を書いている。タッチタイピングが得意なので、ペンで書くより数倍速く書けるからだ。それに、書きあがったらすぐwebにUPできるメリットもある。

 だけど、デメリットも感じていた。「書きたいことがずれていく」のである。消しては書いてを繰り返していくうちに、設定からキャラの性格、何を書きたかったのかまで、どんどんぼやけていくのである。


 書きたいことが強く心にあるのなら、パソコンでも一気に書ける。昔はその方法で書いていた。だけど今はそうはいかない。昔と違い、働いているせいで執筆に集中できる時間が少ない。しかも分断されている。結果、思考がつながらないのである。


 小説にとって「筋を通す」とは、キャラやテーマの一貫性だろう。働きながら書くという身では、設定の徹底はもちろんのこと、それまで書いた文章がどういう思考を辿って来たのか、それも受け継がねばならない。残念ながら、パソコンにはそういう機能がないのである。


 菊池寛は、芥川賞や直木賞を制定した人物でもある。記念館には、これらの賞を受賞した錚々たる顔ぶれの写真も掲載されていた。

 別に、こんな凄い賞が欲しいわけではない。だけど私は、今のままでは彼らと向き合う事ができない。


 これからは内容もだが、やり方も工夫してひたすら足掻こう。そう決意した一日だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

紙に書こう、履歴を残そう。 多賀 夢(元・みきてぃ) @Nico_kusunoki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ