それでも僕は
青山喜太
それでも僕は
僕は悪魔狩り、影で世界を守っている。愛銃は散弾銃、今日も悪しき悪魔を追い詰めた。悪魔はいつも死に際にいつもこういう。
「俺を助けてくれたら!なんでもいうことを聞いてやる!だから!」
助けて――!その叫び声を僕はいつも聞き流してきた。
だが今日は違った。僕は冗談半分で、願いを言ってみた
「じゃあ僕の母さんを生き返らしてくれ」
悪魔は困った顔をした。僕にはその理由がわかる。そんなことは不可能だからだ。
「無理…だよね?だって死人を生き返らすことは、できないましてや母さんは、仏様がいる天国にいるはずだ。」
君は悪魔、所詮、地獄にしかいれないもの、そんなものが天国に干渉できるわけがない。だが悪魔は食い下がる。
「いや、できる!できるぞ!みろ!」
わかりきった嘘だ、そう思うのに、わかっているくせに今日は、今日だけはその嘘にのってやろうと思った。
悪魔が指差す先には母さんがいた、いないはずの母さんが。
「やぁ母さん」
「久しぶりね、モトハル…」
ほう、なかなか再現度が高いと、僕は感心した。だがこれは幻だ、悪魔がその場しのぎで作った、幻なのだ。
「母さんは僕のこと愛してる?」
僕はわかりきったことを、答えの知っている質問を聞く。
「ええもちろんよ…貴方を愛して━━」
散弾銃をぶっ放す、悪魔の頭が吹っ飛んだ。
「母さんは、そんなことは言わないよ、途中まで期待していたのにがっかりだ」
今日の仕事はこれで終わりだ。悪魔の死体はどうせすぐに消えるだろう。さあ帰ろうあの子が待つ家に。
「ただいま…」
深夜0時、僕は家に帰る。あの子はもう寝ているようだ。起こさないようにそうっと行かなければ、するとパチンと電気が突然ついた。
「モトハル、お帰り……」
「ヨウコちゃん、起きててくれたのかい?」
目の前の少女は首を横に振る。
「モトハルがもうすぐ帰ってくるなって思って、眠ってる途中でおきたの」
「そうなの、ありがとうね…」
「モトハルおはなしきかせて?」
「それはまた明日…今日はもう遅いから…」
駄々をこねるヨウコちゃんを、僕は布団に寝かしつけた後、僕も眠った。
明日は朝食を作ってヨウコちゃんを小学校に送って、それから…なんて考えているうちに眠っていた。
シャワーを浴びて、朝食を作る。今日の朝ごはんはハムエッグだ。
「おいしい!」
ヨウコちゃんは太陽のような笑顔で、今日も僕を照らしてくれる。そんな価値、僕にはないのに。
「そう?よかった!」
僕はネガティブな思考を跳ね除けて、ヨウコちゃんに明るく言葉を返す。ヨウコちゃんはパクパクと朝ごはんを平らげると、そのままバタバタと支度をして玄関に向かった。
「もう!いつも前もって準備しときなさいと言ってるでしょう!」
「ごめんなさい…」
しょげた顔をされると僕はそれ以上、怒れなくなってしまう。
僕はヨウコちゃんを、通学路まで見送る。
「行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい!」
この一連のやりとりが僕の幸せの時だ。でもたまに思うのだ。この幸せを僕は享受するに値する、人間なのかと。
部屋に戻った僕は仏壇の前にいく、写真の中にいる母さんは笑顔だ。この笑顔をもう一度、見られたらな、なんていつも考えてしまう。
でもそんな資格、僕にはない
母さんを殺したのは僕だから
僕は中学の時、いじめを受けた、詳細な内容は今はもう覚えていない、いや記憶の底に封じ込めたのだろう、思い出せないというのが正しいのか。
とにかくその時に、僕は引きこもりとなった。未来ある中学生の子供が引きこもりなどになったら、親の心労は計り知れない。
加えて母さんはシングルマザーだった、一人で僕を支えていたのだ。きっと果てしない絶望感や虚無感を味わったことだろう。
母さんは病気にかかってしまった。
お医者の説明ではストレスからくるものらしい、詳しいことは僕もわからないが、とにかく免疫を抑制する薬を飲まなければ、母さんは苦痛に常に苛まれる。
そういうことらしい、免疫の抑制、それは諸刃の剣でもあった。
母さんはそのあと流行り病で亡くなった、新種のウイルスだったらしい。免疫力を抑制する薬のせいで、容体は悪化し、気づいた時にはもう遅かった。
僕は感染を避けるために母に一度も合わせてもらえず、看取ることができなかった。
全部、僕のせいだ僕が勇気を出していれば、いじめなんかに負けなければ、全部、全部、僕の責任だ。
僕がもっと、立派だったらもっと、強かったらそんな妄想を今もしている。
収入の無くなった僕は中学を途中でやめ、生きていくために仕事を探した、でも僕は母さんを失ったショックから立ち直れていなかった。
そのせいで、いや、このことを母さんの死のせいにしたくはない、ただ、僕がどこまでも弱かっただけなのだ。
とにかくうまくは行かなかった。そんな時、僕に手を差し伸べる組織があった。その名は「黒い羊」
その組織は代々、世界を裏で様々な脅威から守ってきたという。黒い羊のエージェントが言うには僕は魔力が高く、悪魔祓いに適した能力を備えていたので、前からスカウトしたかったそうだ。
僕はすぐにその組織と手を組んだ、報酬をもらう代わりに悪魔を祓う。それで生きていくことにしたのだ。
「さてと、今日は暇だな」
部屋の掃除に、洗濯やることは多い、ヨウコちゃんが帰ってくるまでに全てを終わらせないと。
そう思い家事をすすめていると、スマートフォンに光りがともる。
仕事だ。
僕はスマートフォン耳に当て、仕事の内容を確認する。
「モトハルくんすまない、悪魔検知器に反応が出た。至急向かってくれ」
「はい、ボス」
悪魔が出たのは〇〇区のど真ん中だ、そこは、かつて起こった大災害でゴーストタウンとかした場所だった。そこで悪魔が発生するのは珍しい。悪魔は大概、人に就く、特に魔力の多い人に。
――何か引っかかるな
僕はそう思いながら、家を出た。向かうは悪魔のいる場所、僕の仕事場だ。
「ここか…」
僕はスマートフォンを開き「散弾銃」というアプリを選択する。
するとスマートフォンは一人でに姿を変えポンプアクション式の散弾銃と化した。僕の愛銃だ、こいつで悪魔の頭を吹き飛ばし、すぐに家に帰ろう。
そう思い、目の前の廃棄されたビルに向かった。
中は埃っぽく、最悪だ、帰りたいという気持ちが強くなってくる。
僕は散弾銃片手に、建物の隅から隅まで見渡しながら慎重に歩みを進めていった。悪魔の気配が強くなってくる。
慎重に、慎重に、そう意識しながらいつ出てきてもいいように散弾銃を構えて進む。すると、角に影を捉えた。
僕は走る、おそらく悪魔であろうその影は僕の足音に気づいたのか、同時に走り、ビルの一室に逃げ込んだ。
「ここで、迎え撃つつもりか!」
ドアを勢いよく蹴り上げる。そしてそれと同時に、部屋の中に侵入、あたりを見回した。
「どこにもいない…?」
そんなはずはない、間違えなくここに逃げ込んだ筈だ。
「ここにいるぜ、悪魔狩りさん、まあ話でもしようや」
背後からの提案に、僕は散弾で答えた。
悪魔に散弾が━━
「痛った!!」
いや人間?僕が撃ったのは人間だ!
しかしその人間は散弾銃を撃たれたのにもかかわらず、なんと起き上がった。
「君、ただの人じゃないね、何者?」
「悪魔だよ、お兄さん」
窓から光が差し込む。それを悪魔の顔を照らした、いやどう見ても人間だ。しかし、気配では実感しているこいつは悪魔だと
「しかし、やっぱりお兄さんがきてくれたか」
「どういうことだ?」
「いやなに、取引をしようと思ってな?」
「悪魔の取引?どうせ大したことはない、僕は身をもって実感した。最近ね」
悪魔は白い歯を見せて笑う。
「まあ、聞けよ。この世界を一緒に壊さないか?」
「馬鹿馬鹿しい」
思ったことが口の中から出てしまった。
「まだ話は終わってないぜ、俺は人間が大好きなんだ、だから人の心が読める、俺にはわかるぜアンタ本当は世界のことクソだって思ってる」
「そんなこと…」
「なんで、母さんは死ななきゃいけなかったんだ?」
「…!」
――それは…
「本当は自分が悪いんじゃない、そうだろう?アンタをいじめた奴が悪い」
「違っ…」
違うとは言い切れない、言い切りたくなかった。僕は銃口を思わず少し下げてしまう。
「そうだ、お兄さんの母さんは、お兄さんをいじめた奴に殺されたのさ!そいつは今も生きているぞ、それがどういうことかわかるか?」
――やめてくれ
「お兄さんは今、いじめた奴のために戦ってるんだよ…」
「違う!僕が戦っているのはヨウコちゃんのためだ!」
「ヨウコ?ああ!わかった!読んだぞ!魔力の高い、家族を悪魔に殺された子だな?そうだな?」
そうヨウコちゃんは僕の本当の子ではない、悪魔によって家族を殺された、孤児だ、引き取り手がいなかったため、僕が面倒を見ることになった、ヨウコちゃんとの日常は僕の幸せだ。
「本当かなぁ?その子はいずれお前を見限って出て行くぞ。男でも見つけてなハハッ!」
やめろ……
「その恐怖にいつも、苛まれてるんだろ!そもそもその幸福に自分は見合ってないとさえ、思っている!」
「やめろ!!」
散弾銃が火を吹いた、しかし悪魔はいない、煙となって姿を消した。声だけが頭の中に響く。
「いつでも待ってるぜ、一緒にこのクソみたいな世界を壊そう」
僕は家に帰った、結局、悪魔は見つからなかった。初めて失敗したのだ、仕事に。
ガチャリと扉の開く音がする。
「ただいま!」
ヨウコちゃんだ。
「お帰り…」
僕は暗く返事をしてしまった。いけない、そう思いつつも制御できなかった。
わかっている、いつまでもこんな生活が続かないことは。
それどころか僕自身が壊してしまうかもしれないのだ、母さんの時のように。
「ねえモトハル、どうかしたの?」
心配そうにヨウコちゃんが聞く。
「ねぇヨウコちゃん、ヨウコちゃんは今の生活、幸せ?」
ヨウコちゃんは縦に首を振った。
「そうかならいいんだ」
そうだ、いいんだ僕は気にしないことにして、夕飯を作り眠った。
翌朝ヨウコちゃんを起こしに行く、今でも僕が起こしに行かないとヨウコちゃんは起きれない時がある、そこがまたかわいいのだけど、将来を考えると少し不安だ。
ヨウコちゃんが社会人になった時もお寝坊さんだったら…
――社会人になったら…か
とにかく、僕はいつものようにヨウコちゃんを起こしに行った。寂しさを覚えた、胸の中を意識しないように。
「ヨウコちゃん、朝だよ…?」
部屋にヨウコちゃんはいなかった。
スマートフォンに光がともる。ボスからの連絡だ、悪魔の反応が出たと。嫌な予感がした。
悪魔の反応が出たところに行く、あの時の廃ビルだ、その廃ビルの屋上で眠ったヨウコちゃんと、人間の悪魔が一緒にいた。
「ようお兄さん」
「お前!ヨウコちゃんを離せ!」
散弾銃の銃口を向ける。
「俺の提案は受け入れてくれるかい?」
「なぜそうなる!ヨウコちゃんがいる限り僕は、世界なんか壊さない!」
「そう!それだよ!ヨウコ!お兄さんを縛っているのはそれだ!」
何を━━
「このガキはお前に幸せなんかもたらさない!いつか喪失感を与えるだけだ!」
そんなこと━━
「本当は気づいているはずだ、本当にヨウコといることがお前さんの幸せか?いつか消えて無くなる繋がりがお前の望みか?」
悪魔は話す、話続ける。
「違うはずだ!お前が望むのは永遠だ!永遠の愛だ!母に恨まれてると思ってるんだろう!だから愛を欲してるんだろう!?」
僕は━━
「俺ならお前を愛し続けてやれる。ずっと側にいてやれる、その為の世界を俺と作ろう?」
さあと悪魔は手を伸ばす。誰かに行ってもらいたかったその言葉に僕は…。
引き金を、引いた。
悪魔の体を散弾が貫く。悪魔は血を吐きながら言った
「はは…なら苦しめ、別れの恐怖に苛まれろ、永遠にな!!」
消える悪魔を横目に僕はヨウコちゃんに駆け寄り抱きしめる。するとヨウコちゃんは目を覚ました。
「モトハル?ここどこ?泣いてるのモトハル?」
ヨウコちゃんが僕の頭に手を置いた。
「大丈夫、わたしはどこにも行かないよ大好きだもんモトハルのこと」
その言葉を、僕は昔、誰かから聞いた気がした。
例え、どんなクソみたいな世界でも、理不尽が被るとしても、それでも僕は愛してる、この世界のことを。
母さんが僕のことを大好きと言ってくれたから。
君が大好きと言ってくれたから。
それでも僕は 青山喜太 @kakuuu67191718898
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