定位置管理

三浦航

定位置管理

 なかなか面白いテレビだったな。私はテレビを消し、そのテレビ番組のあらすじを思い出しながらリモコンを置いた。テーブルの右手前が定位置だ。

 私はひどく几帳面な性格をしている。特に定位置管理にはうるさい。自宅の物はもちろん、勤めている会社でも、共用の物はさすがにしないが、自分のものは定位置管理をしている。

 そんなんじゃ彼氏なんかできないよ、そんなことを笑いながら同僚によく言われる。確かに彼氏ができたことはない。なんなら友達も、私の家を見て、いや、私が物の定位置にこだわりすぎていることに嫌気がさしてか、もう長い間誰も私の家に来てくれていない。

 そういうわけで私は独りの生活をすることが多い。だがアラサーに足を踏み入れた今現在、もう慣れてしまった感じがする。


 仕事が終わって7時ごろ帰宅する、私の夜のルーティンが始まる。

 家に帰ってからのルーティンはまずご飯を作ることだ。もちろん調理器具や食器などの定位置管理も、料理をしながらでもしているので手際が悪くなってしまう。わかってはいるのだが、定位置にないと気持ち悪くていけない。チョイ置きなどはもってのほかだ。

 ご飯を食べたらスマホを30分ほどいじり、そしてお風呂のお湯を溜めて入浴の用意をする。そのときはより定位置のことが気になる。なぜなら定位置に加えて、シャンプーの容器などのノズルの向きが決まった方向でないといけないからだ。お風呂に入るとき、シャンプーを使うときに嫌な気持ちになることがないように、前もって向きをそろえておく。

 お風呂からあがったときもその管理は儀式のように行われる。浴室から出る前に浴室内の定位置と向きの管理を完璧にしておく。立つ鳥跡を濁さず、みたいなものだ、と思いながら浴室を出る。

 そのあとはリモコン類を几帳面に定位置へ戻してテレビを見て、眠くなったらベッドに行く。定位置管理のようにしっかりとしたルーティンだ。

 誰かが入り込む隙なんて、あるはずがない。

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定位置管理 三浦航 @loy267

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