第7話 夢物語の終わり
俺達は無事に魔法学校を終わり。今エリーナに剣術を教えてもらっているところだ。異世界に来て剣をしっかり使って戦うのはこれが初めてだ。あ…今使っているのは木剣なんだけどね。
「違うわよ!! 構え方!! ほら!!」
教えてもらえるのは…嬉しいことなんだが…エリーナさん…めちゃくちゃ厳しいっすよ…
「一旦私に攻撃してみて。あなたがどこまでやれるか見てみるわ」
「それじゃあ…いきまーす!!」
俺はエリーナに剣の構え方、姿勢などを教えてもらい攻撃の準備に入った。エリーナはまだ動いていない。俺は少し助走し…そのまま木剣を左横に振りエリーナの左横腹に当てようとする。
「はあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ツヨシは腕に力を入れて強く横に木剣を振る。学生時代は野球をやっていたこともあり、横に振ることは慣れていた。
ヒヨィッ…
エリーナはツヨシが左横に振ってくるタイミングを目で確かめ…後ろに後退しあっさりと交わす。そしてツヨシが左横に振り切ったあとのスキを見て…右横腹を狙い攻撃する。
「ぐはっ!!」
ツヨシの右横腹には硬い木剣が命中する。金属バットが体に当たるような痛さが全身を走った。ツヨシは思わず声を漏らしてしまう。
「うあっ…」
ツヨシはそのまま体勢を崩して倒れた。
「はぁ…女の子に負けるなんて情けないわね。後のことを何も考えずに突っ込んでいくからそうなるのよ」
ああ…そうだな…エリーナは女だ。でも…見かけによらず…めちゃくちゃ力強いな…野球部だった俺より力強いじゃねぇか…全く…恐ろしい女だ…
「最初だから仕方ないだろ!!最初から誰だって強い訳じゃねぇだろ!!それに初めから思いっきりこんなことやらせやがって!!」
あ…………思わず本音が出てしまった…
「当たり前よ!! あんた強くなるんでしょ!? ゲルクの村を襲った奴を一緒に見つけて倒すんでしょ!? それにあなたクーシ教と戦うかもしれないと言ってたじゃない!?そういう強い敵と戦う時のためにこれくらい訓練は厳しくして当然でしょ!! さぁ!! 立ち上がりなさい!!」
ツヨシはエリーナに強く胸ぐらを掴まれ怒られていた。
彼女の目を見ると本気だった。普段彼女はあまり真面目に講義を聞かないし…屋敷でも勉強をしてる所を見たことがない。勉強嫌いの彼女が俺にこうやって真剣に教えてることは…よほど剣を扱うことが好きなのだろう。
「すまない。そうだよな。お前の言うとおりだ」
ジンジンと右横腹が痛んでいたが…ゆっくりと立ち上がった。砂で汚れたズボンを手で軽く砂を払って左に転がっていた木剣を拾う。
「相手をよく見なさい。先制攻撃するならその後のことも考えてやりなさい。いい?分かったね?」
「わ…分かりました」
「まぁ…かなり、上達したら無意識の領域というのがあるらしいけど」
無意識の領域…それは上級剣士が持っている感覚だ。エーゲルトさんも上級剣士なのでその領域に達している。
「はぁっ!!」
今度は前に振るフェイントをかけて右斜め横を攻撃する。しかしまたもや避けられてしまう。
「うぐっ!!」
エリーナは木剣で攻撃すると思いきや…拳でツヨシの顔面を殴る。強いグーパンがほっぺに直撃する。周りの視界がどんどん消えていく。顔にジンジンと痛みが走り…そのまま…意識が消えていった。
「おやおや…厳しくやっているねぇ〜」
エーゲルトが屋敷から出てくる。片手にはティーカップを持っている。
「あらら…気を失ってるじゃないか…エリーナ彼にはもっと優しくやってあげなさい」
「これくらい厳しくしないと駄目よ」
エリーナは呆れた顔で言った。
「治療魔法でもかけあげよう」
エーゲルトは気を失っているツヨシの前に立ち両手を伸ばした。
「大地より秘めらし力よ。今ここに回復の力を解放し我が命じる。ツヨシを回復させよ。ヒール!!」
エーゲルトは魔法詠唱を唱える。すると…ツヨシの痛みの感覚がだんだんと回復していった。
「う………はぁっ!!」
ツヨシは意識が戻った途端、おもいっきり起き上がる。まだ稽古をしてる最中だろうと思ってるようだった。
「エーゲルトに感謝しなさい。あんた気を失ってたのよ」
いやいや!!気を失わせたのお前じゃねぇかよ⁉︎ 初心者に厳しくすると言っても…これは厳しすぎるだろ!!
「エリーナさん…が…俺を…」
「さぁ!!木剣を拾いなさい!!まだまだいくわよー」
「今日はさすがにここで……お…わりに…」
「え?」
エリーナはニコニコ笑いながらツヨシを見る。その笑顔は怒ってるような笑顔だった。
「いや…今日はこれで終わりに」
「え⁇⁇⁇」
エリーナはニコニコしながら木剣を構えてツヨシに近づいてくる。
お、おい…マジかよ…勘弁してくれ!!エ、エーゲルトさん!!助けてーー!!
「では…私はゆっくり紅茶を飲みながら眺めてますよ」
あ、終わったと同時にエリーナが先制攻撃を掛けてくる。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぉ!!!!」
ツヨシはこの後3回も気絶するのだった。
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「よし!!明日の予習はこれで終わりっと…」
今丁度…学校の勉強を終えた…これからちょっと…ゲルクがいる寮へお邪魔しにいくため俺は部屋から出る。
「ツヨシ様。どこへ行かれるのですか?」
玄関から出ようとすると…メイドが話しかけてきた。
「ああ。ちょっと友人の寮へお邪魔しにいく所なんだ」
「ツヨシ様夜の街はあまり安全ではないので気をつけてくださいね」
「大丈夫よ。大丈夫よ。心配すんなって!!もし危ない目にあったら誰かに助けを呼ぶからさ!!」
この時の俺は油断しすぎてたのかもしれない。のちに起こる恐怖を…
ツヨシは屋敷から出て暗い街道を歩く。すでに夜遅いせいか…辺りに人は誰も歩いていない。
「そうだよな…ここは異世界。街灯なんか無いし暗いのは当たり前だよな」
独り言しているツヨシの前に仮面を被った男が立っていた。
「ん?コスプレか⁇」
この世界にもコスプレイヤーはいるのだな。今日はハロウィンか?違うよな。まぁそんなことはいい…早くゲルクの寮へ…
「オ、マ、エ、コ、ロ、ス」
ツヨシが仮面の男の横を通り過ぎる瞬間ボソッと言う。仮面の男はナイフを素早くツヨシの腕に向かって切った。
「ん?なんだ?」
一緒だったためか…切られた瞬間痛みはなかった…だが少し時間が経つと…腕に火に焼かれたような痛みが走る。ツヨシの腕からは赤い血がドボドボと出てくる。
「いってぇぇぇ!!!! な、なんだよ!!お前は!!」
あまりの痛さにツヨシはもがき苦しんでいた。その時ツヨシは気づいた。当たり前だが…ここが日本ではない無いことを…日本では歩いてて急に攻撃されることはない。ここは異世界…ツヨシの考えている常識は通用しない。
「オ、マ、エ、コ、コ、ノ、二、ン、ゲ、ン、ジ、ャ、ナ、イ、ナ」
「な…何言ってんだよ…お…まえ…」
やばい‼︎ やばい‼︎ 痛ってぇ!!右腕から出血が止まらない!!俺ここで死ぬのか⁉︎
「だ、誰か!!助けて!!助けてくれ!!誰かーーー!!」
魔法詠唱をして抵抗する術もなかった。ツヨシは必死に助けを求める。だが…辺りには人がいない。あの時メイドが言ってたことはこのことだったのだろうか。しかし、この男が話した内容は明らかに俺を狙っているようだった。メイドが話した危険人物はこの仮面の男ではないかもしれない。そして…ツヨシはこの時初めて死を覚悟するのだった。
「オ、マ、エ、ガ、コ、コ、デ、タ、ス、ケ、ヲ、モ、ト、メ、テ、モ、ム、ダ、ダ」
仮面の男はナイフを構えた。ナイフの先端からはツヨシの血がポタポタと落ちている。
「ぐああああっ!!」
ツヨシの腹にナイフが深くささる。腕の痛みと重なりさらに火傷するような痛みが全身を走る。あの時メイドの言う通りにしていれば……あの時ゲルクの誘いに断っていれば…そんなことを望んでいてももう遅かった…今ツヨシは腹を刺されたことにより大量出血で体が青くなり始める。
「オ、マ、エ、ハ、コ、ロ、サ、ネ、バ、ナ、ラ、ナ、イ、ノ、ダ」
「う……テ…メェ……なにを…」
どんどんと視界が狭まり意識が遠くなっていく。
これが…死というものか…ああ…俺の人生は…ここで終わりか……
「まだ間に合う!!私が治療魔法をかける!!エリーナな奴を追え!!」
ツヨシは暗闇の中で一人で倒れ込んでいる。そこに微かに声が聞こえる。エーゲルトとエリーナの声だった。
「何言ってんだ。俺はもう死んでるんだよ。俺に呼びかけても意味ないぞ」
「あなたはまだ死なない。ここで死んではいけない」
暗闇の中から一人の少女が現れる。夢で見た少女と姿が同じであった。少女はニコニコ笑いながらツヨシの前に立つ。
「お前は…夢の…」
「あなたはまだ役目があるのです。だから死んではいけない」
少女はツヨシに向かって言った後…体を反転させ別の場所に歩いてゆく。どんどんどんどん遠く離れていって消えていく。
「ま、待ってくれ!! 俺はまだ!!」
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「待ちなさいよ!!アンタ!!」
素早く走って逃げていく仮面をエリーナは追いかける。しかしあまりにも早すぎるためか…全然追いつかない。
「こうなったら!! 大地より秘めらし力よ。今ここに炎の力を解放し我が命じる。あの者を熱き炎の剣で焼き尽くせ!! グランドファイヤーソード!!」
燃えた剣がエリーナの手から発射される。しかし外してしまう。
「はぁ…はぁ…なんて早いのあいつ…」
謎の仮面の男はそのまま奥の方へと消えていった。
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「う…俺は…」
ツヨシが目覚める。目の前にはエーゲルトが治療魔法をかけているようだった。さっきまでのキズの痛みは薄くなっていた。
「エーゲルトさん?なんでここに?俺は死んだんじゃ……」
俺は一度死ぬ直前まで行った。確か…誰か話しかけてきたような…思い出せない。
「エーゲルトさん…助けてくれて…ありがとうございます」
「私にお礼は言わないでくれ。お礼は彼女に…」
エーゲルトがむけた視線の先は玄関でツヨシに話したメイドだった。
彼女はツヨシが出ていった後…エーゲルトにツヨシが危険な目に遭うかもしれないと伝えてくれていたのだ。
「きみが…ありがとう。マジで助かったよ。」
彼女が言わなかったら俺は死んでいた。あの時ナイフで刺されて自分の血を見た時ここはやっぱり異世界だと痛感した。今までの常識なんて通用しないに決まっているのだ。
「ノアとお呼びください。そう呼んでいただけると私は嬉しいです」
ノアと呼ぶ女性は優しそうな顔でツヨシに向けて話す。
「あ…ああ…命の恩人だしな…ありがとうノア」
彼女は俺がこの世界に来てから一番色々とこの世界の事を教えてくれたメイドだった。部屋を綺麗にしてくれたことや靴を磨いてくれたりしてくれたのも彼女だった。
「はぁ…はぁ…」
エリーナが息を切らして帰ってきた。汗をめちゃくちゃかいている様子だったため、かなり走ったのだろう。
「仮面の男は逃げられた。ごめん私の足が遅くて…」
「そうか…逃げられたか……エリーナよく頑張った」
「仮面の男……あいつは…何者なんだ…」
仮面の男…奴は俺が日本から召喚されていることを知っていたようだった。奴の正体を突き止めることが…俺が召喚された意味が分かるのかもしれない。だが…俺は自分の実力が足りなさすぎるせいか…奴に対抗できなかった。俺は魔法学校で色々と簡単にやり遂げていたせいか自分が特別な人間だと勘違いしていた。だが…今日…俺は特別でもなんでもなく…ただの弱い人間だということに痛感した。
「ツヨシ!!今度からは一人で夜外出しないこと!! いい?分かったわね!!」
「ご、ごめん…今度からは誰かと一緒に行動することにする…」
「ツ、ツヨシ!!お前大丈夫か!!」
ゲルクが焦った顔でこちらに向かって走ってきている。
「ゲルク!!俺がこうなったのなんで知ってるんだ⁇」
「エーゲルトって奴のメイドから聞いたんだよ。俺の部屋まで知らせに来たんだ。ほらそこのメイドだ。」
ゲルクが見る視線を見るとやはり彼女だった。今回は全てノアが俺の知らない間に頑張ってくれていたのだ。本当に感謝の言葉しかない。こんな間抜けな俺を助けてくれて…
「俺が夜に来いと誘ったせいでこんな目に合わせて……ごめん」
ゲルクはすごく申し訳ないと頭を深く俺に下げた。
「いや…ゲルクは悪くないよ。俺の不注意が皆んなに迷惑をかけたんだ…皆んなごめん」
「でも…無事で…良かった…良かった」
エリーナの目から涙がポロポロと溢れてくる。ここに来てからずっとツヨシと共にエーゲルト屋敷で過ごしたのもあり…半分家族のような存在になっていたからだ…彼女が泣く顔を見るのも初めてだった。
「ごめん…本当に心配させて…」
ツヨシはエリーナを無意識に優しく抱きしめる。
「では…それぞれ帰宅することにしましょう。ツヨシが無事だったということで…」
「ああ…ツヨシ。本当に悪かった。明日なんか奢るから許してくれ」
ゲルクは何度も何度も謝っていた。俺は別に怒っていないのだが…ゲルクしたら友人を危険な目に合わせた罪悪感があるのだろう……
「ああ…分かったよ。気をつけて帰ってな…」
「おう!!また明日な!! って…今日か…また後で朝会おうな!!」
ゲルクは手を振って帰っていった。
「さて…このことは魔法学校にも知らせないといけない。ここの街の警備員にも知らせとくことにする」
エーゲルトは身分が高いのですぐに手配することができる特権がある。
「それじゃあ皆さん屋敷に戻りましょう」
ノアが一安心したような顔で話す。
こうして俺たちは無事にエーゲルト屋敷に帰ったのだった。そして今日…俺は死から免れたことの安心感とここは夢の世界じゃないことを思い知らされた絶望感が心に焼き付いたのだった。
漁師をやっていたんだが、突然台風にのみ込まれて気づいたら異世界に召喚されていた。 シリケンタロウ @Yukiyama16821682
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