Hotel Dun lu Fiar

ライラック

第1話 21:07のお客様

「お疲れ様です。」

深夜のシフトだというのにフロント係の彼は爽やか笑顔で挨拶をしてくれる。特に何か会話をしたことがあるわけでもないが、一日の最後にこの笑顔を向けられるとスッと疲れが取れていく気がしてた。

「サロンの鍵を戻しておきますね。」

私は彼にそう伝え、フロントの裏の事務室に向かった。今日は平日ということもあって事務室は無人でロビーで流れるBGMだけがゆったりとした時間を教えてくれた。

フロントに戻ると彼は軽く会釈しながら、

「おつかれ様でした。おやすみなさい。」

「お疲れ様です。お先に失礼します。」

私もニッコリ微笑み返し、ロビーを後にした。



ここは世界有数の高級リゾートホテルダンルフィア。ここにはゴルフ、アミューズメントパーク、スパなどあらゆる娯楽と和洋折衷、多国籍グルメまでなんでもが揃い、国内外の著名人やセレブも滞在する一流ホテル。150年以上の歴史があり、ルフィアグループは業界トップを維持し続けている。

そんなダンルフィアのネイルサロンを経営しているのが私、宇佐井 由紀。経営といっても施術も事務も全て1人で行っている。顧客は、ホテルで挙式をする花嫁のウエディングネイルの打ち合わせからセレブの旅行中のネイルケア、パーティーでハメを外して爪が欠けるなどのトラブル対処、近隣市内から通ってくださる奥様のネイルなど様々だが、予約制なので混み合うこともないし、自分の時間にも融通がきいてそういう点では気楽に働いている。

20時に店を閉め、それから今日の売り上げの計算や掃除をする。それから部屋を施錠し、フロント裏の事務室に鍵を返しに行く。

その時にいつも声をかけてくれるのが彼だった。彼がフロント係になって6か月が経ち、彼と話すのが日課になっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Hotel Dun lu Fiar ライラック @reoreo0725

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ