附則
昼休みの法之宮第一高等学校、教室。
かねてからの友人である女子たちとしゃべっていた壱子は、ごく自然な流れで「ちょっと白狼のとこ行ってくるわ」と断って輪を離れた。友人たちも気軽に了承してくれる。
もう、校内ではほとんどの生徒が敬雅を恐れなくなっていた。初日にかつあげから助けられた生徒も彼を擁護したりして、人を闇雲に傷つけるような不良ではないと知られてきたのだ。
そして、自分たちの席で話していた敬雅とアラディアの隣で、窓枠に掛けた壱子は新たな話題に傾聴した。
「……以上が、〝見たら死ぬ動画〟都市伝説の真相というわけだ。噂も、教祖が広げたのだろう。直接暴露すれば魔刑法第一三四条の守秘儀務違反で神定法に引っ掛かる。誘き寄せるには流言程度がよいというわけだ」
そんな風に、アラディアは一連の事件を知りたがった壱子に説明し終えた。
「へぇ~、〝見たら死ぬ動画〟は実在したわけね」女子生徒は、得意げに白狼を見下ろしてからかう。「おまけに、あたしのツッコみが効いてやっとあんたは動いたと」
「うるせえな、ちょうど自分から行こうとしてたとこだったよ」
のたまう敬雅の陰から、あの小悪魔が飛び出て同調する。
「そ、そうですぜ。アニキを侮っちゃいけません!」
僅かの間、時間が停止する。
「……いやあんた」引きぎみに、小悪魔を指差す壱子。「話に出てきた、あたしを襲ったのと同じ悪魔よね。まず謝りなさいよ!」
「へ、へえ。その節はどうもすいやせんでした」
もはや低姿勢な小悪魔であった。
あまりにも初対面時と異なるおとなしさに、壱子もそれ以上怒る気にはならなかった。
不意に、マナーモードにした携帯の振動音が聞こえ、アラディアが自分のそれを懐から出した。画面を見つめて渋い顔をする。
「さっそく仕事だ。今日は早退だな、フェンリル」
「なんでおれも行く前提なんだよ」
敬雅の抗議もなんのその、席を立ったアラディアは彼の襟首をつかんで引きずるように教室を出ようとする。嫌がるフェンリルが手を振り払うと、すかさず付言した。
「法の悪用がないか見張らなくてもよいなら、構わんが」
「ちっ、うまいこと誘いやがるな。壱子、話の途中で悪いが出てくる」
さっさと自分だけ行こうとする魔女を、今度は白狼が走って追い越す。もちろん小悪魔も自主的についていった。
もはや慣れたもので呆れたように見守るクラスメイトたち。一人だけ愉快そうに壱子は見送って、手を振るのだった。
校門前にはパトカーが停まっており、降りた香奈々が車体に身を預けて腕組みしていた。
「急ぎなさい」早くも校庭に現れた魔女と不良に、憎まれ口を叩く。「あんまり遅いと、公務執行妨害でしょっぴくわよ」
「やってみろ、神定法ごと覆してやるよ」
「ならわしは改正した神定法で上告しようかのう」
それぞれ返す敬雅とアラディア。三人はすぐさま車内に乗り込むと、スピード違反な速度で曇り空の下を半分晴れた街の奥へと旅立っていく。
始業のチャイムと共に教師が入ってきて魔女と白狼の行方を尋ねた。
窓から出発を見届けた壱子は、暗雲を切り裂く天使の梯子に照らされた黒髪を風に撫でられながら笑顔で言うのだった。
「悪法と戦いに行きましたよ」
魔法少女の法は法律の法 碧美安紗奈 @aoasa
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