家族の思い出

小丘真知

家族の思い出

私には五歳年下の妻がいます。



料理がとても上手です。

私はカレーが好物なんですが、妻がつくるカレーが一番だと思っています。

野菜やトマトの水分でじっくり煮込んだカレー。

スパイスも妻独自の配合で、やみつきになるカレーです。

それに、私が言うのもなんですが、とても美人です。

石田ゆり子さんと綾瀬はるかさんとを足して2で割った感じと同僚には言ってるんですが、まあ、そのくらい美人なんです。

とても気が利いてますし、いつも笑顔。

私の服の好みも、ハンカチをよく忘れることも、何もかも知ってくれてます。

そんな理想的な妻のおかげで、仕事も順調です。

大きなプロジェクトを任されるようになったのも、アイデアに恵まれるのも妻の支えやアドバイスの賜物です。

妻と一緒に、これからもずっと暮らしていきたいと、心から思っています。




ただ私は、妻とどこで出会って、いつ結婚したのか、覚えがありません。




自宅にあるアルバムには、妻とホノルルに行った写真や、趣味のスノボに行った写真などがあります。

ホノルルに旅行に行った覚えもありますし、スノボは学生の頃からの趣味です。



ですが、私はそのどちらも、他の女性と行っています。



私の記憶の中の女性と、妻は、全くの別人です。



私がおかしくなったのかと思って病院にも行きましたが、脳に異常は見当たらず、脳波も問題ありません。

もちろん、違法薬物なんてやってません。

医師も首を傾げていました。


妻に結婚式や馴れ初めなど、思い出を振り返るフリをして聞いてみました。

私の両親の事故死のこともあって、入籍しただけで式は挙げていないこと、馴れ初めは大学のサークルで知り合ってから、と話してくれました。


両親が事故死したのは間違いありません。

両親とも、当時付き合っていた彼女との交際を応援してくれていました。

ですが、車で移動中、父が居眠り運転をして道路を外れ、転落。

同乗していた母とともに、亡くなってしまいました。


サークルのことも覚えています。

同じサークル内にいた女性とシュノーケリングをして、マリンスポーツの面白さを知り、それがきっかけで付き合うようになったのも覚えています。




ただ、そのどれもが、妻との思い出ではないのです。




そして、ついこないだのことですが、私に二歳の娘ができました。




何かに流されるままに、とても仲良く暮らしています。










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家族の思い出 小丘真知 @co_oka_machi_01

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