この作品は一言で言うと、主人公の女子高校生が己の家族や周囲と向きあい、そして再生へ踏み出すという物語です。
母を幼い頃に失った主人公は、その愛を知らぬまま成長していきます。
彼女には姉2人と父がいますが、友人や好意を抱いてくれる人まで嫌悪感を抱き、我が道を進んでいきます。
そんな痛々しい姿が最初の数話で繰り広げられるのですが、とあることがきっかけで彼女は段々と周囲に心を開いていきます。
その展開にもう何度も涙。
彼女の生まれ持ったものや、周囲の暖かさに読者自身もきっと心温まると思います。
素直じゃない自分に心底嫌気が刺したり、相手を気づ付けてしまうようなことを言って後悔したことは誰だってあると思います。
何にでも反発したい、そんな時も。
でも、そこへ敢えて飛び込んでみる、そんな勇ましさが詰まった作品です。
文学や心理学を織り交ぜた展開にも見どころたっぷりです。
そこからどのような結果が生まれるのか、ぜひこの作品を通じて体感していただきたいなと思います。
高木彬光の事を知らずに読みました。読む上で覚悟をしておいた方がいい箇所があるため、その注意を兼ねて少しネタバレ感のあるレビューになっておりますので、以下を読む方はご注意ください。
日本の三大なんたら、の中で一番、知られてない人のような気もするけど、作中でも”知らない”人がたくさん出て来るので、作中で知って行けばいい、という感じでしょうか。
最初に見えるのは「私」の周囲のひび割れた硝子。母がいない事で空いた心の穴。穴が開いたというか、本来は母が埋め尽くすはずだったエリアが、母がいない事で埋まらず、そのまま高校生になってしまったという感じですね。
「私」は「私」をも含めた周囲への「嫌い」という言葉で傷つき、傷つけて行く。五話で、彼女は荒ぶってしまい、周囲の硝子が粉々に砕け、その破片で読者である私も、作中の「私」も、とにかくなんだか傷ついてしまい。五話以降が読めなくなって、随分間を空けてしまいました。受けた傷が癒えたのか続きを読もう!とやっと思えるようになり、続きを拝読したのですが、硝子が砕けた事による風通しの良さが、六話からスタート。
ひび割れた硝子が砕け散った事によって、消え去る壁。
周囲の距離感が一気に縮まっていく。
これは心の物語ですね。一人の女子高生の心のピースが埋まるまで。言葉に表現しにくい、不可思議に動く心。理屈では言い表せない事柄が、心理学の知識で整理されていく。
自分の気持ちが表現できなくて、”嫌い”と叫び続けた「私」。
素敵な良い人がたくさん出てきます。
とにかく、五話までを乗り切って、最後まで読んで欲しい一作です。