地獄では5の倍数のときだけ救われる

ちびまるフォイ

鬼の数はだいたいいい加減

地獄は人が多すぎて困っていた。


「罪人ども、ここへ並べ! 1列にだ!!」


鬼は地獄に落ちた罪人たちを数えようとしたものの、

列の終わりが見えないことに気づいて諦めた。


そこで罪人たちに言った。


「ここには人が多すぎる。ということで、人間を間引いて現世に送るとしよう」


地獄に仏とはまさにことのこと。罪人たちは狂喜乱舞した。


「……ただし、5の倍数の番号を言った罪人だけだ」


罪人の顔色が「えっ」と青ざめた。

鬼は列の先頭に並んでいる罪人を指差した。


「よしお前からだ。順番に番号を言っていけ」


「い、1です!」


先頭に並んでいた人間は地獄収容所へと転送された。

次に並んでいる罪人が鬼に睨まれる。


「に、2ですぅ!」


ふたたび地獄収容所に転送されて消えた。


「3です」

「4です……ちくしょう!」


地獄の収容所に送られ、いったん地獄エントランスからは消える。


「5です」


鬼の用意していた自動現世転送装置により、罪人が現世へと送り返された。

目の前で罪人が転送されたのを見て6番目の人間は悔しがった。


「次だ。番号を言え!」


鬼は順番に列を進ませていく。

その様子を見ていた列の後半に並ぶ罪人は焦った。


「5の倍数じゃないとダメなんだよ!」

「おい割り込むんじゃねぇ!」

「うるせぇ! ここが5の倍数の位置なんだよ!!」


罪人たちの醜いゴタつきなど鬼は知るよしもなかった。


「122です」

「次」

「123です」

「次」


「125です」


罪人が転送される。


「次」


「125です」


「つ……んん?」


鬼は違和感に気づいて列を止めた。


「さっき125って言ってたよな?」


「あわわわわ……」


「お前、嘘ついたな」


「ちょっと待ってください! だったら俺の前に並んでいたやつも番号をすっとばしてずるして……ぷぎゃ!!」


鬼のふるった棍棒が罪人を叩き潰した。


「次」


鬼がじろりと罪人の列を睨みつけた。


罪人たちは列の後半でさらにしれつな5の倍数場所を取り合う。

すさまじい割り込み合戦により罪人が地獄で命を落とすと、また番号が入れ替わるのでわけがわからない状態に。


罪人たちが地獄で争っていると、ひとりが足を滑らせて崖から落ちてしまった。

崖下にある釜茹で火力発電所に突っ込んでしまうと、地獄は真っ暗になった。


「んん!? 停電か。まあいい、続けるぞ」


鬼は真っ暗になった地獄に驚き、罪人は声を出さずに喜んだ。

列が見えなくなればもう順番を争う必要はない。


5の倍数のときにだけ声を上げれば現世に戻れる。


「次。おい次」


鬼は暗闇に向かって声をかけたが罪人は答えない。

なにせ次の番号が129なので、番号を名乗っても地獄収容所送りが決まってる。


「隠れてるのか。こいつ」


鬼は暗闇の中で大きな両腕を地面に這わせた。

そこに触れた罪人は鬼に捕らえられてしまった。


「おい、番号を言え」


「ひいいい! ひゃ、130です!」


罪人は現世に転送された。

あの野郎ズルしやがってと罪人たちは歯噛みしたが鬼はいちいち数字なんか把握していない。


暗闇の奥からわずかに感じる罪人の気配を感じながらじりじりと迫ってくる。

鬼に感知された人間はそのまま捕まって番号を言わされた。


「ひゃっ……135です」


「お前嘘ついたな、130の次が135のわけないだろう」


罪人たちは鬼に追い詰められていく。

地獄の崖の上はどこまでも逃げられるわけがない。


必ず最後には鬼に捕まって数字を言わされるだろう。


罪人たちは5の倍数になるタイミングにだけ、鬼に突撃しようと準備していた。


ただ、ひとりの罪人だけは5の倍数が呼ばれるタイミングなんてどこ吹く風。

地獄のはてのはてまで離れて、自分が最後に呼ばれるように逃げていった。


鬼は雑な仕分け方でどんどん罪人の数を減らしてゆく。

暗闇に目がなれた頃、鬼は地獄のすみっこにいた最後の罪人の元へと向かった。


「最後まで逃げて逃れようとしたって無駄だ」


鬼は最後の罪人を手で捕まえると、逃げられないように上に持ち上げた。


「さあ言え。貴様の番号は?」


「ああ、鬼さん。どうか最後にひとつだけ聞かせてください」


「ん? なんだ? つまらないことならここで消すぞ」


「ここはどこですか?」


罪人の問いかけに鬼は不意をつかれて笑ってしまった。


「ぶわっはっは!! なにを当たり前なことを!」


「教えて下さい。それだけでいいのです」


「地獄だ!」


鬼はそう言うと、地獄収容所へと送られた。


地獄459にひとり残った罪人は最後の番号を口にした。


「460」


現世に最後のひとりが送られた。

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