第3話

どうしてこうなったかなぁ・・・


寝台に転がりながら先ほど説明を受けた文字盤を指でなぞりながら過ごしていたら、食事である旨を伝えるためカインが来たので、後ろについていった。

大きな部屋に入ると大勢の人が一同に介しており、その最奥にロフがいた。カインがそのままロフの所まで向かっていき、トモの到着を告げるとロフがグラスを片手に立ち上がった。

「皆、私が不在の中屋敷を守ってくれて感謝する。そして、今回紹介したいものがいる。トモだ。彼女は私を屋敷まで送り届けてくれた恩人であり友人となった。そこでセナ、お前をトモ付の侍女とする。よろしく頼む。」

そして静かに近くに来た初老の女性がセナという紹介を受け自己紹介をしている最中に

「ロフ様どうせまた賊を深追いして迷子になったんでしょう?」やら「どこに行くか教えてから出てくださいよー佐賀うの大変なんですからー」などヤジが飛んできた。そのヤジを受け、

「うるせえ!今回は迷子じゃねえ!魔法に充てられたんだ!ってんなこたいいから食うぞ!!」

さっきの凛々しい感じはどこに行ったのか。より大きい声で反論しドカッと座って食べていた。よくある偉い人は一人で食べ使用人などは別に食べるということはせず、全員で同じものを食べる。いいことも悪いことも分かち合うというのがロフのモットーであると隣に座ったカインが教えてくれた。しかし、それを強要するわけではなく自宅を持つ人間は自宅で食べても良いことにしている。そんな個々の自由を保障しているロフの使用人たちは離職も少なく伸び伸びと仕事にあたっている。

メニューはパンにスープ。メインは豚肉のようなソテー。ソテーはとても美味しく感じたが、スープはなにか物足りないような味を感じたが、作ってもらった人に感謝をしつつ歓談しながら完食した。


その後、セナが寝間着と普段着、下着を持って部屋まで訪れた。

「トモ様、こちら昼に注文を受けた衣類一式でございます。ご確認くださいませ。ご確認後、入浴の手伝いを行います。」

恭しく説明したセナに敬語で話しかけるほど身分は高くないためやめてほしいと懇願した。が頑なにやめようとしなかったためこちらが折れてしまったが、妥協点として入浴手伝わないことをもぎ取った。なにより今日だけは一人で確認しなくてはならない。現実と向き合うためにも。

脱衣場に入り自分の胸部が外部に晒される。やはり女性のような膨らみが確かにあった。震える手で全ての衣類を脱ぎ去り、改めて自身の全身を確認した。


全てが違っていた。


今まであったものがなくなり、新たに別の器官がついていた。


異世界にいることも受け入れた。今まで通りではやっていけないことも分かった。身体の変化も頭では予想はついていた。しかし心はついていかなかった、立ち尽くし呆然とし、声もなく涙を流した。一人称が俺だったのが私になっていくのが女性としてなじみつつあるのかわからない。でも自分の目に入る自身の裸が目をそらすなと現実を突き付けてくる。なんとか体を奮い立たせ浴槽につかる。想像以上に疲労が蓄積されていたのか、強張るからだがほぐしていった。

湯につかりながらほかに変化しているところがないか確認していった。薄目だった体毛はさらに薄くなり脚や腕の毛は薄く、しなやかに細い四肢となっていた。そろそろ切らないとと思ってた髪の毛はショートヘア女性と変わらないような髪型になっていた。これ以上湯につかると逆上せてしまいかねないため、切り上げて濡れた身体を布でふき取り下着を着ようとした…のだが、ない…?この世界の寝間着は下着をつけないのかと思いつつそのまま寝間着を身に着け、浴室の前に待機していたセナと合流した。

共に部屋に戻ったセナからトイレ等に行く際に羽織るカーディガンを受け取り、セナは自室に戻り部屋に一人に戻った。


広い部屋に一人でいると孤独を感じるもので、先ほど風呂場で見た自身の胸を改めて手で触り「どうしてこうなったかなぁ」とひとりごちた。触るのも見るのも好きだった。でも自分の身につくとは夢にも思わなかったなぁとふにふにしながら遠い目をしていると、

「トモ、なんかあると自分の胸を揉むとかいう変な性癖でもあんのか?」

ロフが瓶を片手に見下ろしていた。

「入るならせめてノックくらいしてください。あとそんな性癖ありませんから。」

「うるせえノックしたのに返事なかったから何かあったかと思っただろ。」

ノックを聞き逃すほど意識を飛ばしていたのかと反省していたところ目の前に芳醇な香りのする飲み物をグラスに注がれた。

「お前のめんだろ?ちょっと飲もうぜ」

と有無を言わせぬ姿勢で乾杯をし一口口に含んだ。

「美味しい。果実酒苦手だったけどこれはすっきり飲める」

「だろ?うちの名産品なんだぜ。」

得意げな顔をしたロフを前に、私は大きな賭けにでた。

「ロフ、私の持っている知識をこの領主である貴方に捧げる。特に食に関する知識。それも庶民食。その代わりに私を守ってほしい。」

ロフはグラスを机に置き、睨むような目つきになる。

「言っては何だが、食については困ってねえ。おそらく今回の食事で分かったと思うが、なぜそれを知ってなお提案をした。そしてトモを守るだけの価値があると自負しているか。全てこたえなければ受けん。」

「今回の食は十分なほど作りこまれているとは思う。けど、スープは入れた野菜の味と塩のみの調味だった。今回のソテーの骨、もしくは今回使用していた野菜くずをしっかり煮たスープを用いれば味がぐんとあがるはず。また食を通じての病への対策方法も知っている。これが私が持っているカード。あと、私ん守ってほしい大きな理由は1つ女であること。」

提案時からずっと対等の関係であるような態度を貫いていた私にロフがさらに問いかけてくる。

「素の俺にそんな大きな態度を会って間もない女が、外の世界におびえるようには見えねえけどな?」

「確かに負けないとはおもうけど、それには大きな原因がある。私は男だった。トモダワタルっていう。別の世界の極東にある雪国で働いていた。吹雪で真っ白になって止むまで車で待っていたら湖畔にいて、後ろにロフがいた。それでそのあとは一緒にいたからわかると思う。」

一息で自身の持つ現状をぶちまけた私をロフは静かに考ええていた。静かな時間が続いたが、沈黙を破ったのはロフだった。

「わーった。支離滅裂ではあるが乗り掛かった舟だし守ってやるよ。ただ、確認したいことがあるから一度ここではなく本領に一緒に来てくれ。あと訳アリであることはカインとセナには伝えておくからそれは了承してくれ。」

一番欲しかった拠り所が手に入った。理解してくれた人がいるということにこみあげてくるものを止めることはできなかった。涙を流すトモに「ったくやっぱトモは変わってるわ」と微笑みながら落ち着くまで待ってくれた。


落ち着いてから、酒を含みながら抱いていた疑問をぶつけた。

「ロフって何歳なの?」

「俺?同じ25だけど」

同い年だった。

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オレだった私、新たな世界で平和に生きたい @hamunama1414

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