第2話

なんなんだこいつ!なんなんだこの箱!!なんでこいつ真顔なんだ!!!

「ロフさん次どっち行けばいいんですかー!!」

あまり人目の付かずかつ傾斜の緩やかな、さらに別荘地へ近いルートをロフに依頼していた。しかし慣れない上にオフロード。お財布事情で軽自動車を選んだがその中でも山や海が似合うデザインの車を選んでいたため、まだ走りやすい部類にあるのではないかと思う。それでも走りなれないため緊張しており真顔で走らせていたのである。

「ま、まだだ!次のでかい広葉樹を右に曲がって直進すれば別荘だ!というかなんだこの乗り物!こんな速く動く上に自在に動き回るとは聞いてないぞ!」

念のためつけてもらったシートベルトを掴み、気持ち震えた声で返答があった。

「なんだと言われても自動車という乗り物だということしか言えないですね・・・そういうものだとしておいてくれるとうれしいです。ところで身体は大丈夫ですか?打ち身のところとか、苦しくなったりしていませんか?」

絶対納得してくれないであろう言葉を返し、気になっていたことを聞いた。解熱鎮痛剤を飲んでから2時間は経とうとしていた。おそらく飲んだことのない薬を飲んだため身体になんらかの異常が起きていたら対処をしなくてはいけない。

「いやむしろ調子がいい。鈍痛が続いていたのだが今は治まっている助かった。」

思い出したかのように体の調子を確認しているように見ているロフ。車での移動に夢中で忘れていたということはないだろうか。

ガソリンの心配を運転中気にしていたのだがメーターの減りが1メモリも減っていないことに気づいた。結構な距離を走ったが減っていないのならいいことだと思い考えないようにした。

そして別荘らしき建物に到着したとき唖然とした。でかい。そして豪華。ここが本拠地と言われても肯定してしまうほどだ。

車を庭の邪魔にならない停めてロフを降ろしていると建物から

血相変えた執事のような男性が走ってきた。

「なんだこれ!お前ここがどこかわか・・・坊ちゃん?!ご無事で何よりではありますが、数日も一体どこに行ってたんだよ!」

おうおうおう口の悪い執事だ・・・坊ちゃん?

「今戻ったカイン。あと坊ちゃんはやめろ。口調がもうぐちゃぐちゃだぞ。」

カインさんというのか。砕けた口調で話しているあたり信頼のおける人物なのだろうと感じた。

「カイン様、いきなりの来訪大変申し訳ございません。私はトモダと申します。道に迷っていたところロフ様に助けていただき、ここまでご同行願った次第であります。」

あくまで下手に不快感を与えず、そして雇い主であろうロフが助けたという体にして頭を下げる。その頭にロフの手が乗り、

「カイン、こいつには大変世話になった。恩を返すためにここで世話をすることにした。頼んだぞ。」

と告げる。手置きじゃないんですが。その様子を見ていたカインがぎょっとした顔を見せたがすぐ微笑み快諾した。


 部屋に案内されたトモダは部屋の広さに驚き、執事がいるならと踏んでいた侍女もいたことに落ち着けなく過ごしていた。しかし侍女が出してくれた紅茶がとても美味しく、ティーバッグくらいでしか飲まなかった紅茶はなんだったのかと思うほどに感動していた。しかしお茶請けのお菓子が固くパッサパサだった。失われた水分を紅茶で補いつつ過ごしているとロフが部屋に来た。持っていたお菓子を落とすほど驚いた。というか落とした。

 ぼさぼさだった頭は整えられ、衣類は汚れなど知らないシャツにベージュのチノパンのようなものを身に着けており、いい男は何着ても様になるというのを目の当たりにしていた。きっと男だった自分が着ても同じにはならないだろう。ずるい。

「菓子まで落としてなに呆けてるんだ。あと着替えなかったのか?」

まるで弟妹にするようにお菓子を拾い、向かいの椅子に座り用意された紅茶を飲む男。様になっている。ずるい。

「いや、自分の知っているロフはもうちょっとみずぼらしかったような・・・あと替えの着替え持ってなかったからとりあえず今はいいかなって。」

嘘である。替えは持っている。しかしゆったり目の服だったため、今の自分が着るにはぶかぶかなものを着るはめになるので我慢したのである。

「みずぼらしいとか言うな。これが普通だ。書き換えろ。持っていると思い込んで準備しなかったこちらに落ち度があったな。話が終わり次第採寸して用意させる。」

衣類の手配を侍女に伝え人払いを行い、部屋に二人きりになった時点でロフの口を開いた。

「まず、解決しなくてはならない問題がある。1つ目、トモがどこの人間かをはっきりさせる。2つ目、トモの魔力の属性と有無だ。そのためにこれに手をかざしてほしい。」

と渡されたのはB5サイズくらいの下敷きのような板だった。

言われるがままに手をかざすと下敷きにガリガリと言う音ともに文字が刻まれていく。


名:トモダ 性:女 年:25

出生地:◆◆◆ 魔属性:地・闇 魔量:▽▲▽

犯罪歴:なし


刻まれた文字を二人で読んでいるが、その後二人同時に声を上げた。

「トモ!お前何者なんだ文字化けしてんじゃねえか!…は?」

「ロフさん!25ってこと以外何かいてるかわかりません!…え?」

落ち着くために二人で冷めた紅茶を一口含み、手元にある板の説明をロフが始めた。

「見たことあると思うが、これは自身の情報を魔力を使って現すものだ。微量の魔力で済むから魔法を具現できない人間でも使えるものだ。で、この中で出生地と魔量の欄が読み取ることができなくなっている。これはその出生地が存在していない

可能性がある。そして魔量がわからないのは・・・俺にはわからない」

板をトモ側に置きなおし指で説明しながら話してくれるが、

「ロフさんが説明してくれてわかったことがあります。数字は読めますが字が読めません。」

話せるのに書けない読めないという言語の壁を目の当たりにした。

「だがお前のクルマというところにあったものは、これと同じ言語で書かれていたぞ?」

ロフの言葉にはうそを言っているようには見えない。試しに鞄からノートを取り出し、自身の言語で書き綴った言葉を読めるか試してみた。

「『私はトモ。25歳。ロフさんこの言語が読めますか』おい、お前馬鹿にしてんのか?」

少し苛立ちを覚えたロフが棘のある言葉で返してくるが、確信を持てた。

「ロフさん、この文字列は私が暮らしてきた地域の文字でこの文字盤とは別です。おそらくカインさんとかに見せたら読めないと思います。」

「なるほど、試してみる価値はあるな。特殊な言語を扱うやつと見られると困っから、あまり口に出さないほうがいい。」

顎に手を乗せて考えるロフに気になっていたことを告げる。

「ロフさん、口調が時々カインさん並に崩れる時がありますが、それが素ですか?」

思惑にふけったロフは視線を向けると少しの沈黙の後大きなため息をついた。

「やっちまった・・・ああこっちが素。領主として侮られないよう堅い感じでやってるけど。だが、トモもなんか隠してることあるよな?」

「自分でもわかってないことが多いので隠しているように見えてしまうのは申し訳なく思います。わかったらすぐ伝えますし、素のほうが話しやすいのでそっちのほうが私は嬉しいです。」

自身の変化が一番だが、全く別の環境下にいる自分がどこまで話をすればいいのか困っていた。

「ああ、わかったら教えてくれ。長居して済まなかった。もうすぐ晩飯ができっから、一緒に食おう。」

そう言ってロフが去った後に残った板を眺めながら自身がおかれた現状を目の当たりする羽目になった。

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