オレだった私、新たな世界で平和に生きたい

@hamunama1414

第1話

「ここは…近所じゃないんだろうなぁやっぱり...」

目の前には湖畔。自然あふれる風景を『愛車』から見ているため確証を得ることができなかった。

しかしその数秒後、自身のまわりにある異変に気づき否応にも受け入れるしかならなかった。


俺は「友田 航(ともだ わたる)」雪の多い地方に住んでいる会社員。ある日、天気は荒れていたがこの程度の雪は年に数回はあるので帰ったら雪かきかなんてゲンナリとした面持ちで朝日の登るか登らないかの仄暗い車道を愛車で走らせていた。

前を走っているトラックのタイヤから吹き上げる雪の多さからの視界不良を警戒しゆっくり目の速度で走行していたのだが、その瞬間風雪が吹雪となった自然の猛威を振るいホワイトアウトを引き起こした。慣れ親しんだ車道を全く知らない土地を運転しているかのような不安感を抱くが、路肩には除雪車が車道の雪を寄せた山が多く車を停めるには心もとない車道。なによりホワイトアウトは数分も経たないうちに治まるため、ハイビームを焚き目を凝らしつつ徐行運転で早く治まれと祈りながら運転していた。

しけし、運転を続けても前を走っていたトラックのブレーキランプも街灯の光すら確認できなくなってしまった恐怖より、後続車がいないのを確認し、気持ち路肩よりに車を寄せて停車した。


そして、文字通り世界が変わった。

今まであった吹雪へ止み真っ白だった世界は緑に溢れ、電柱民家も1つない風景が眼の前に広がっていた。そして握っていたハンドル自身の手は水仕事がメインでハンドクリーム必須のボロボロした指先ではなく、白魚のような指とはこう言うものかと感じざるを得ないしなやかな物と変化していた。自身の現状を確認すべくバックミラーを覗いた時、見てはいけないものを見てしまった。

人のような何かが落ちていた。車から降りそれを確認すると、やはり人だった。30歳ほどの男性で程よく鍛えられているような肉づき、衣類は土などにより汚れてしまっているが古さは感じない。そこまでは普通に受け入れられたが、短めな髪の毛が緑なのである。しかも根本まで。生まれてこの方、緑の髪の毛はアニメ・ゲームの中でしか見てこなかった私は、その髪色が同郷のものではないということを報せていた。

「あ、are you okey?」

混乱する頭を総動員し、日本語より通じる可能性があると踏み、高校英語で英語勉強を最後に勉強してなかった英語で話しかけ、状態を確認しつつ声をかけた。

「大丈夫‥少し疲れてんだ…」

日本語で返答が来たことに不慣れな英語で話しかけたことに赤面しつつ、とても大丈夫に見えない上に、なによりこの地域をよく知っているであろう男を放っておくのは得策ではないと判断し彼の腕を肩に回し一思いに立ち上がった。

「なら私の所で少し休んでください。そして回復したらお伺いしたいことがあります。」

体格差があるということは目視以上に体格が違うのだろうなと思いつつ有無を言わせない勢いで引きずりながら連行したが、抵抗する気力がないのか黙って従っていた。

助手席を倒し汚れるのは承知で男を寝かせる。本当に疲弊していたのかそのまま浅い寝息が聞こえたので、持ち物と現状把握を試みた。

確認できたのは、カーナビは自身の位置を海のど真ん中を指しており、使い物にならずただのオーディオプレイヤーと化していた。スマホは電源入ったままであったが、通信を伴わないアプリは使用可能であり、通信を利用するアプリは軒並み開こうとしても開かなくなっていた。

途方に暮れどうしたものかとハンドルに顎を載せようと前傾姿勢になった時身体の異変に気付いた。


胸になにかある。


驚いて背もたれシートに沈み込み自身の体を確認するため襟首から肌を確認したらお山が2つ。襟元をただすも実感が無いため服越しに自身の胸を触ってみる。

「胸筋じゃ...いや筋トレしてないから違うか…」

ぶつぶつ混乱しながら確認していると、横で眠っていた男が意識を戻していた。

 意識を戻した際、すぐそばに人の気配を感じた。それは助けてくれた恩人だとおぼろげな記憶が教えてくれた。まずは感謝と思い顔だけ横を見ると、動揺を隠せない顔をして胸を揉む女性が目に入ったのだった。なんだあの女。気でも触れたか?更には馬車と思っていたここには馬はおらず、さらに見たことのない設備が多くあり、他国の人間が拐かしたかとも想像したが、なにもしてこないし記憶の最後の風景と何ら変わらない。衣類を剥いて襲われた形跡もなく、ただ意識の回復を待っていたのである。

「あ、ありがとう。だいぶスッキリしたけど、貴女は聖人と痴女と犯罪者のどれなのかな?」

今ある情報をまとめて出た、男からやっと出た言葉だった。


「痴女って…女に見えるんですか?」

「違ったら申し訳ありませんが、少なくともそう見えますね。」

つまり、傍から見ると自身は女性のような身なりに見えるようだ。だが、今はそれは些細な問題であった。

「まぁ今はそんなことどうでもいいんでちょっと失礼しますねー」

「あ?やめろお前服を脱がすな!お前やっぱり痴女か!!」

ぎゃぁぎゃぁいう男の上着を下から引き上げ鍛え抜かれた筋肉を目の当たりに圧倒的敗北を感じながらも赤黒くなった痛々しい打ち身を見つけた。

「もういいですよ。怪我の状態をしりたかったので。私の名前は痴女ではなく、友田!貴方は?」

「何なんだあなたは…俺の名前はロフ・ストレイ。侯爵の地位にある。」

敬語を払う人間じゃないと判断したのか敬語をやめたロフは服を戻しつつ自己紹介をしてくれた。侯…爵?貴族?聞いたことのある地位ではあるけどどれくらい偉いのかもわからないのでとりあえず置いておく。

「じゃぁロフさん。とりあえずこれと水飲んでください。」

渡したのは市販の解熱鎮痛剤と水筒。しかし両方を手に持ったままロフは水筒をクルクル動かし様子を見ながら疑惑の目でこちらを見ている。

「トモデャ…銀を飲むのは毒だろう?この筒はなんだ?」

「言いにくいならトモでいいですよ。これは中の白いのを、筒は捻ると蓋が空いて中に水が入っていますよ。あと毒というのであれば先に飲んでみますね。」

ぱきっと錠剤を取り出し、慣れた手付きで蓋を開け飲んだ。頭の使いすぎで頭痛を感じていたので好都合だった。その流れを見ていた彼は意を決したように同じように薬を飲み込み、喉が乾いていたのか水筒の中をすべて飲み込んだ。

「はぁ。トモは変なやつだな。何を考えているのか掴めん。」

「それを言うならロフさんも変ですよ。見ず知らずの人からもらった薬と水を飲むなんて」

少し嫌味ぽく口をとがらせて言うと、仏頂面したロフが事務的なような抑揚のない言葉で返した。

「もし敵だとしたら毒を飲ませる前に殺す拘束して移動している。あそこで行き倒れたまま放置していたとしたら私自身それまでだった。それらをせず無防備に助けたトモは少なくとも敵ではないと判断したまでだ。」

この短時間で人となりを判断し行動していたのか。さすが偉い立場の人は頭が回る。全然考えていなかった。

「では、聞きたいことがあります。まずここはどこなのでしょう?あともし私の知らない場所であれば地理のわかる所に行きたいのですが。」

「ここは領地の端だ。我が領はウィンディ領、サエカル領が隣接している。聞いたことは…なさそうだな。詳しい地理を知りたいのなら私の別荘に行くのが早いはずだが、その地獄に来たような顔をやめろ。ここからなら馬車で1日のところにあるが、私の質問にも答えてもらいたい。…おい真っ青だぞ大丈夫か?」

冒頭からもはや聞き馴染みのない言葉が乱発している。領?別荘?馬車?過去に来たのか?だとしたら今持っている全てのものがこの文明の先にあるモノ、あってはならないものだ。いま二人がいる車もロフにとってもなじみのないものだし、何よりも説明を求められても答えられない。答えられたとしてロフに通じるように説明ができない。これらのものが悪魔のもののような畏怖な存在だと判断された場合、命の危険すらあるそれに気付いた瞬間カタカタと体が震えていた。

「落ち着け、大丈夫だ、悪いようにしないしさせない。そのためにまず、トモはどこから来たのか、この乗り物はなにか。魔力により動かすものなのか。それを教えてほしい。」

震えていた両肩に手を乗せしっかりと目を合わせ安心させるような優しくしっかりした口調で語りかけるロフ。バランスの良い顔のパーツ、少し吊り上がった目と紫の瞳なんだとここで初めて知った。なんて顔を観察していたら少し安心したものの、腰で身体を捻るように向いていたため体が辛い。体ごとロフの方に向け震える口調で答える。

「私は諸外国から極東と言われる地域の人間です。なので領名を言われてもわかりません…この乗り物は馬車のようなモノで、機動力を馬の代わりに機械を用いて動かしています。原理は専門家ではない為説明できません。魔力‥は私の暮らしていた地域では聞いたことはなく使っている人も持っている人も聞いたことはありません。」

ゆっくりと自分の頭の中を整理するように説明するも、答えにすらなっていないような回答しか返せなかった。そして帰ってきた言葉はなんとなくそうだろうなと思っていた回答だった。

「極東という言われる地域は今人が住めるような環境下ではない。そして魔力は強弱あれどすべての人間に備わっている。使えない人はいても、持っていない人は0だ。」

やはりここは今まで暮らしていた世界ではなかった。いつの間にか別の世界に来ていたようなのである。車ごと。

「ひとまず俺の別荘まで向かうか。お互い疲弊しているだろうから体を休めてから話しの続きをしよう。なによりこの馬車もどきが動くさまを見てみたいからな!」

不安と絶望、しかし魔力という幼い頃の憧れを今持っているという希望で百面相している私の横で、とりわけカラカラと笑いながら明るい声で提案してくるロフ。感情が追いつかなかったものの気を遣ったロフの気持ちを受け取りこちらも明るい声で返す。

「よーし!ロフさん道案内よろしくお願いします!馬車で1日なら半日足らずで着きますよ!!」

エンジンをかけた音にロフがビクッと反応し辺りを警戒するのを横目にアクセルペダルを踏み込んだ。

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