1-6. パーティは可愛い娘に限る
カミツレ亭に戻ってくると、食堂にロックがいた。
「よう! ガーゴイル・スレイヤー! 折角なんで一杯飲もうぜ!」
そう言いながらジョッキを持ち上げる。
俺も慣れない事続きで一杯欲しくなっていたので、誘いに乗る事にした。アメリにも聞いてみる。案内のお礼をしなくちゃいけないしね。
「じゃぁ、一緒に飲もうか? おごるよ」
アメリは、
「えへへ、いいんですか?」
と、嬉しそうである。
俺はエール、アメリは
「それじゃ、ガーゴイル・スレイヤーに乾杯!」
「乾杯!」「よろしくぅ!」
三人で木製のジョッキをぶつけ合う。
シアンにはミルクを皿に入れてもらった。
一瞬、『これじゃないだろ』ってにらまれたが、猫に酒を出すわけにもいかない。後で部屋で何かおごってやろう。
「ガーゴイルを倒してくれてありがとう。街が滅ぶ所だったよ」
ロックは俺をまっすぐ見ながらお礼を言う。40歳前後だろうか、面長でひげをたくわえ、日焼けした肌には力強さを感じる。
「いえいえ、お役に立ててよかったです」
ガーゴイルを呼びだしたのはシアンだったことは、バレないようにしないと……。
「明日はどこ行くんだ?」
チーズをつまみながらロックが聞いてくる。
「うーん、レベル上げしたいんですよね」
「なら、ダンジョンがいいんじゃないか? ギルドの連中の大半はダンジョン潜ってるぞ」
「あ、そうなんですね。ならダンジョンにしようかなぁ……」
「なら私とパーティ組まない?」
アメリが身を乗り出して笑顔で言う。
「おいおい、お前、今のパーティどうすんだよ?」
ロックがたしなめる。
「うちのリーダーちょっとセクハラ気味で……」
そう言ってアメリはうつむいた。
「セクハラ? うーん、あいつは困った奴だな……」
ロックは渋い顔をしてジョッキをあおった。
「『お前はうちのパーティーだからやってられてるんだ、俺の女になれ』とか、しつこいんですぅ」
「んー、あいつもそういう所がなきゃいい奴なんだがなぁ……」
沈黙が流れる。
俺はシアンの方を見ると、シアンはこっちをチラッと見てテレパシーを飛ばしてきた。
『好きにするにゃ、あたしは明日は宿で寝てるにゃ』
なんと、来てくれないのか……。
今日はシアンが索敵と警戒をやってくれていたから上手くいっていた。来てくれないのであればパーティは組まざるを得ない。
まぁ、パーティは異世界の醍醐味である。メンバーがこんな可愛い女の子なら理想的と言えるだろう。
「だったら、一緒に行こうか?」
俺は意を決してアメリに声をかける。
「えっ!? 本当に本当ですか!?」
ブラウンの瞳をキラキラ輝かせながらアメリは言う。
「アメリは索敵とかできる?」
「索敵は得意です~!」
嬉しそうに答えるアメリ。
「なら、明日からよろしく!」
俺はそう言って右手を出した。
アメリは俺の手を両手で包んで、嬉しそうに、
「ハイッ!」
と答えた。
そして、今のパーティを抜ける交渉をしにアメリは走って出て行った。
無事抜けられるといいんだが……。
その後、この世界の常識についてロックからいろいろと教わった。
この世界にはここ、ソークの街の様な町が数十個あり、北側は魔王が支配する魔物の世界だそうだ。西側に一月ほど歩いたところには王都があり、そこが人間側の中心拠点となっているらしい。しかし、魔王軍の侵攻は近年悪化してきて、先日も北の方の街がやられたという事だ。それで、このままだと人間は滅びるしかないのかと、みんなピリピリしている。
だから、俺が魔王を口にした時、あんなに過剰に反応したのだろう。確かに聖剣があれば人間側の戦力はぐんと上がるだろう。しかし……何百万匹もいるだろう魔物を聖剣で殺し続けるわけにもいかない。俺はレベル上げたらそっと魔王の城に入る方法を見つけて魔王だけ倒して東京に戻るのだ。きっと、魔王倒したら人間側もずいぶん楽になるんじゃないか?
そう言う意味ではさっき殺し損ねたことが悔やまれる。魔王が姿を現した
それから、ダンジョンについても教わった。街の北外れの洞窟がダンジョンになっていて、内部では魔物が次々と生まれているらしい。冒険者はそこの魔物が外に出てこないように掃除する役割を担っているそうだ。ダンジョンの内部は階層構造になっており、下へ行けば行くほど魔物は強くなる。この辺りはゲームと同じだ。地下40階まで確認されているが、まだまだ下がありそうなんだとか。
俺としてはエクスカリバーと相性の良い強い敵が出てくる階層でレベル上げをしたいが、10階のボスが結構強く、当面は9階までに留めておいた方がいいらしい。
いよいよ明日から俺の本当の異世界ライフが始まる。
可愛い女の子アメリとパーティ……そうだよ、俺が求めていた異世界ライフってこういうのだよ。
銀髪のアメリのうれしそうな顔を思い出し、思わずニヤけてしまったのをごまかすように俺はエールをあおった。
◇
会食が終わり、俺は部屋に移動した。セミダブルベッドに小さなテーブルと椅子、コンパクトだが清潔で過ごしやすそうだ。窓を開けるとすっかり暗くなった通りが見える。街灯には火の玉の様な魔法の明かりがともり、通りのいくつかのレストランからは笑い声が響いてくる。
俺は包んでもらった干し肉とフルーツ、それから
「あー、やっぱり酒に限るにゃ」
シアンは皿に出した
「ミルクで悪かったね」
俺がそう謝ると、
「それはもういいにゃ。で、あたしはどこで寝るのかにゃ?」
そう言って俺をにらむ。
「え?」
俺は言葉に詰まった。
猫とは一緒に寝るものだと無意識にこの部屋にしてしまったが……。シアンは少女だったことを思い出した。
「まさか一緒に寝ようとか思ってるにゃ?」
「ね、猫姿の時は一緒でもいいんじゃないかな?」
俺は冷や汗流しながら言う。
「冗談じゃないにゃ! 乙女を何だと思ってるにゃ!」
「なんだよ、俺の首の所でいつも寝てるじゃないか!」
「あ、あれは居心地がいいから……」
そう言ってうつむくシアン
「じゃ、こうしよう、間に毛布の壁を作ろう。それでいいだろ?」
俺はそう言って棚から予備の毛布を出し、くるくると巻いた。そして、ベッドの真ん中に置く。
「壁側は俺な」
そう言ってシアンを見ると……寝てる。
「え? あれ? 本当に寝ちゃったの……?」
しばらく様子を見ていたが、スースーと寝息を立て始めた。
「あらら、お疲れなのね……」
猫の身体では酒は効きすぎるのかもしれない。
俺はそっとシアンを抱き上げると、ベッドに寝かしつけた。
いい夢見て欲しいな。
俺も部屋着に着替えてランプを消した。
今日は一日いろんなことがあり過ぎた……。俺はすぐに寝落ちて行った。
◇
夜中にバシッと何かに思い切り叩かれて目が覚めた。
「う、なんだよ!」
目を開けると、隣で女の子が淡くぼうっと光っていた。
「え!?」
ビックリして起き上がる俺。
シアンが女の子に戻っている。美しいうなじからお尻への背中のラインがさらけ出されており、一気に目が覚めてしまった。なんて美しい身体だろうか……。
暗い部屋の中にぼうっと浮かび上がる美しい裸体……。それはこれまでに見たどんな芸術作品よりも心をつかむ、まさに天然のアートだった。
俺はしばらくシアンを見つめる。全身がぼんやりと青く光っているが、顔は普通の肌色に見える。特にくちびるはイチゴのように美味しそうにぷっくりと赤くふくらみ、俺をドキドキさせる。
「う、うーん……ひ、ひろし……」
何だかうなされて寝言を言っている……。
ツンツンしてばかりのシアンも、寝ていれば可愛いものである。
「どうしたの……?」
俺は優しくそう言って、そっと頬をなでた。
するとシアンは
「ウーン……危ない!」
と寝言を叫び、大きく腕を振って寝返りを打つ。同時に指先がまぶしく光ったかと思うと、カマイタチの様な切り裂く魔法が放たれた。俺はよける間もなく、右耳の上をかすられ髪の毛がパラパラと散り、向こうでリンゴ酒の瓶がパンッといって、真っ二つになって転がった。
いきなり放たれた命の危機に心臓が凍りつく。数センチずれていたら俺は殺されていたのではないだろうか? まさかシアンに殺されかけるとは……。俺は目をつぶって胸に手を当て、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。この世界、どこに落とし穴があるかわからない。
シアンを見ると無防備にすやすやと寝ているが、毛布がはだけて胸から陰部まで丸見えになってしまっている。これはマズい。マズいが……あまりに美しい裸体に俺は目が釘付けとなってしまった。何なのだろうこの娘は……。俺はしばし、その美しく盛り上がった胸を見ながらため息をつき、頭をかきむしり……、そしてそっと毛布をかけてあげた。
このまま寝るとまた殺されかねない。俺はテーブルを倒してシールド代わりにし、予備の毛布を体に巻き付けて床で寝る事にした。シアンの死角に居ないといつ殺されてもおかしくないのだ。
明日は部屋を替え、結界を張ってもらおう。俺はそう心に決めてまた眠りについた。
猫につれられて異世界転移の俺が射程距離∞のチートアイテムで無双するまで 月城 友麻 (deep child) @DeepChild
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