【番外編】二人の悪魔

 今日は何人かの悪魔の方に会いに行くそうです。

 どうやら、私が地獄に来る際に色々とご面倒をお掛けしていたようなのです。

 しっかりとお礼を言わねばなりません。


 今日はふんわりとしたシフォンのブラウスに、ハイウエストのロングスカートを着ています。

 なるべく露出ろしゅつの少ない服を!とセイル様が選んでくださいました。

 手袋を付けて、差し出されたセイル様の手を握ります。


 セイル様のお屋敷の奥に、大きな鏡がありました。

 豪華な装飾の、金縁きんぶちの鏡です。

 セイル様がそれに触れて何事か呟くと、鏡面が揺らいで男性の姿が映りました。

 ひたいに星のような印のある男性です。


 セイル様に手を引かれて、私達は鏡の中への進みました。

 薄いまくを破ったような感覚があって、気付くと周囲の様子がガラリと変わっています。

 まるで夜空の中にいるみたいに、色々なところがキラキラと輝く空間でした。



「やぁ、元気そうでなによりだよ」


「リネット、彼はブエルと言って、お主の心身の不調を全て治してくれたのだ」


「まぁ! 大変お世話になりました」


「いやいや、いいんだよ。キミは心はそれなりだったけど、身体は健康だったからね。ちょちょいのちょいさ」



 にこにこと微笑ほほえむブエル様は、全く悪魔とは思えません。

 悪魔にも本当に色々な方がいらっしゃるのですね。



「使用人は足りてるかい? もしコイツの屋敷の者で不満があるならすぐに言うといい。うちの精鋭せいえいを貸してあげるから」


「ありがとうございます。大丈夫ですわ」



 それからお茶と焼き菓子をご馳走ちそうになりました。

 ブエル様は甘い物もお好きなようで、私と一緒に食べていました。

 私とブエル様が味について話していると、セイル様も混ざりたくなったのか焼き菓子を頬張り、やはり甘いなと顔をしかめていらっしゃいました。


 ブエル様は何でも治すことができるそうで、またお世話になるかもしれません。

 地獄にいる分には、怪我や心がすり減るようなことはなさそうですが。


 ゆっくりとしたティータイムを堪能たんのうした後、次の予定があるからとセイル様は言いました。

 来た時と同じ鏡の前に立ち、セイル様のお屋敷に戻るのかと思いましたが、鏡の向こうにはまた別の方が映りました。


 精悍せいかんな顔付きをなさった褐色かっしょくの男性で、お父様を彷彿ほうふつとさせる豪奢ごうしゃな服を身に付けています。



「わぁ、マルティム様。ご無沙汰してます」


「ブエルか。相変わらずのようだな」


「はい。何かあればお呼びください」


「うむ。ではそこの二人を借りるぞ」



 私達はまた鏡の中へ入り、マルティム様の待つ場所へと移動しました。

 着いた場所はまるでお城です。

 天井も高く、それを支える柱には様々な彫刻がほどこされていました。

 巨大なシャンデリアの下には、純白のテーブルクロスが敷かれたテーブルがあります。

 果物の乗った皿が並ぶそのテーブルに、私達はうながされました。



「リネット、こちらはマルティム様。お主を地獄まで移動させてくれたのだ」


「リネットと申します。大変お世話になりました」


かしこまらずともよい。セイルが一目惚れしたというのでな、こちらも楽しませてもらった」


「ま、マルティム様! それは言わない約束ではないですか!」


「そうだったか? すまんな」



 セイル様が遊ばれています。

 先ほどのブエル様もそうでしたが、マルティム様は位の高い方なのでしょう。

 失礼のないようにしなくては。


 お茶とケーキが運ばれてきて、二度目のティータイムです。

 ブエル様のところで出されたお茶とはまた違った風味のお茶で、スッキリとしていて美味しいです。

 それを聞いたマルティム様が、お土産に茶葉をくださいました。


 マルティム様は何でも瞬時に移動させられる力をお持ちなのだそうです。

 塔の内部を守護していた術式をものともせず、私を地獄まで移動できるなんて。

 本当にすごいです。


 地獄を管理なさっているルシファー様の側近を務めているというマルティム様は、とても忙しい方のようでした。

 私達と話をしながらも、度々部屋を訪れる悪魔に指示を出しておられます。



「何か問題があれば私の名を呼ぶといい。絶対に安全な場所へ連れて行こう」


「お心遣いありがとうございます」



 お茶会が終わると、マルティム様が私達を移動してくださいました。

 一瞬で見慣れた私の部屋の中へ移動しています。

 何が起きたのか分からないくらいでした。



「す、すごいですね」


「うむ。お二方には助けられた」


「私のために色々な方へ協力をあおいでくださっていたのですね。セイル様、本当にありがとうございます」


「気にするな」


「あの、マルティム様のお話にあった一目惚れというのは……」


「それは忘れろ」


「嫌です」



 眉根を寄せるセイル様がおかしくてくすくすと笑っていると、繋いでいた手を引かれて強引に口付けられます。

 唇から私を丸ごと食べられてしまうのではないかと思うくらい激しい口付けは、私が何も考えられなくなるまで続くのでした。



【END】

 



(お付き合い下さりありがとうございました。これにて番外編の方も終了とさせていただきますm(*_ _)m)

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幽閉令嬢は悪魔と口付ける 南雲 皋 @nagumo-satsuki

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