【番外編】地獄での暮らし

 私は地獄で暮らすことになりました。


 セイル様は大きなお屋敷に住んでいて、その一室を私がもらっている状態です。

 セイル様は昼間はお仕事をしたりしていて、夜は私の部屋に来て一緒に眠ります。

 私と一緒に暮らすにあたり、色々なものを整えた新しいお屋敷を建設中なのだそうで、私も時折、自室の意匠いしょうについて質問されます。

 お引っ越しが楽しみです。


 私のお世話は、目が覚めた時に来てくれた女の子がしてくれています。

 彼女はフォルンという下級悪魔なのだそうです。

 セイル様は自分の身体を好きに作り替えられるそうですが、フォルンはそういったことはできず、セイル様に人型にしてもらったと言っていました。


 私は人間なので、地獄では自由に動き回ることができません。

 私の部屋は全体がセイル様の魔力によって囲われていて、安全です。

 外に出る時はセイル様か、上級悪魔の方と一緒に出なくてはなりません。

 死にはしない程度には瘴気しょうきに慣らしたそうなのですが、やはり何もなしに出歩くと健康に害があるとのことでした。


 他の悪魔の方々から、どうして私の身体を作り替えてしまわないのかと言われていらっしゃいましたが、セイル様は言葉をにごしていました。

 後で理由を聞いてみると、可能なら私に子供を産んで欲しいのだと真顔で言われてしまって、どうしようかと思いました。

 私が人間のままなら、可能性があるそうです。

 人間を悪魔にするというのは前例がないそうで、子供ができなくなったら嫌だからやらないと。


 セイル様は、なんというか、私を恥ずかしがらせる天才だと思います。

 ま、まだ思いが通じ合ったばかりだというのに子供だなんて……。


 セイル様以外の悪魔の皆様は、ほとんどが人間の姿をしていませんでした。

 さまざまな姿形をしていらして、中には直視するのがはばかられる見た目をしてらっしゃる方もいました。

 セイル様も本来の姿があるのですよね、と聞いてみたのですが、教えてくださいませんでした。

 なのでこっそりフォルンに聞いてみることにしたのですが。



「セイル様の本当のお姿はすっごいですよ! おっきくて、おめめがいっぱいあって、物がたっくさん持てて、とっても早く走れるんです!」


「おめめがいっぱい」


「うねうねもいっぱいです!」


「うねうね」



 あまりよく分かりませんでした。



「リネット様は人間なのですよね?」


「そうですよ」


「そうしたら、セイル様をみたら発狂してしまうかもしれません! 気を付けてください!」


「え、発狂……?」


「はい! 前に何回か見たことがあります! あんまり本当の姿のまま人間界に行くことないんですけどね」


「そ、そうなの」


「えと、どうしても見たいのだったら、他の悪魔様方で練習してからの方がいいです!」



 セイル様の本当の姿が、とんでもないらしいということだけは分かりました。

 発狂してしまうのは嫌なので、無理に聞くのはやめることにします。

 それにしても、セイル様が地獄ではそれなりに高い身分にあるというのは本当だったのですね。


 セイル様の配下の者達に私を紹介するということで、一度だけお屋敷の外に連れて行ってもらったことがあるのですが、広い敷地内にたくさんの悪魔がひしめいていて、その悪魔達が一斉にこうべを垂れてひざまずいていたのです。

 疑っていて申し訳ありません。


 その紹介があってからは、私はセイル様のお屋敷から出ていません。

 セイル様のように、たくさんの配下を抱える特別な悪魔の方々が何人もいて、その方達にも紹介してくださるそうなのですが、なかなか予定が合わないようでした。


 私の部屋には、セイル様が運んできてくださった本がたくさんありましたから、私は日がな一日本を読んで過ごしました。

 あまりに動かないと太りそうだと思っていたのですが、セイル様の魔力があるとはいえ、人間が地獄で生活するにはそれなりの生命力が必要らしく、むしろたくさん食べないと痩せ細っていくばかりだと言われて恐ろしくなりました。


 というわけで、私は時折フォルンと一緒に筋肉を鍛えつつ、たくさん食べて日々を過ごしています。

 やはり、私は幸運ですね。



【END】




(あらすじ部分にR18番外編のリンクを貼りました。)

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