エピローグ・百一日目
百一日目
やあ、どういうわけか百一日目を向かえた私だよ。
私はあの村で殺された。それは確かだ。
なのに目が覚めたら、どういうわけか自分の部屋のベッドだった。
異世界じゃない。現実世界の、私の部屋だ。
これまでの百日間は夢だったんだろうか?
鏡を見て、どうにもそうではないらしいとわかった。
私の髪は、相変わらず真っ白なままだった。
制服も破られたままだ。メガネも壊れてる。スマホは……どうなんだろう。一応充電器に繋いでみるか。
ただ、不思議なことに最後の日に負った怪我はなくなっていた。
前に冒険者から襲われてついた足の傷跡とかはしっかり残ってるのに。
死因になった怪我はリセットされたってこと……なのかな?
最初の日にメガネが割れてたのに怪我はなかったのと同じだ。
でも、なんで戻ってこれたんだろう?
死ねば帰ってこれたってこと? だから先人も自殺しようとしていた?
そんな簡単な話じゃないような気がする。
私は最後に、銃で撃たれたはずだ。
じゃあ、銃……というか異世界の遺物で殺されることが条件だった?
今となっては確かめる術もないけれど、とにかくあの体験は夢なんかじゃなかった。
そう考えて頭から血の気が引くのを感じた。
姫ニャンは、どうなったの?
私だけこんなふうに生き残るなんて嫌だ。
帰るときはいっしょにって……。
ああ、それも私が勝手に思ってただけで約束もできなかったんだ。
どうしようもない気持ちになって、ふと目を向けたのは部屋のPCだった。
電源を付けてみると、YouTubeの更新通知がいっぱい来ていた。
開いてみると、姫ニャン(Vチューバー)のマ○クラ動画が百日分更新されていた。
はは、こっちでも百日過ぎていたんだね。私、行方不明になってたことになるのかな。
百日間離れていても習慣っていうものは染みついているものらしい。
何も考えないまま、今日の配信を開いてみる。
そこに広がっていたゲーム画面に、私は唖然としたんだと思う。
このマ○クラというゲームは、ブロックを使っていろんな建物や仕掛けを作ることができるというものだ。
その自由度の高さから、ついにはテトリスを抜いて世界で一番売れたゲームの名を冠したという。
姫ニャン(Vチューバー)が百日かけて作っていたのは、私が彷徨ってきた異世界とよく似た景色だった。
オークさんの集落らしき村があって、そこに『太郎丸』と名前を付けられた馬が繋がれている。
今日から地下に戦闘機を作ると楽しげに話していた。
スマホを手に取る。充電器に繋いでしばらく経ってるけど、電源つくだろうか?
百日間、落としたり水に浸かったり手荒く扱ったそれは、奇跡的にまだ機能していた。
写真アプリを開いてみたら、最新の一枚には私と困惑気味の姫ニャンのツーショットが残っていた。
PC画面の向こうの姫ニャン(Vチューバー)と、本当にそっくりな姫ニャン。
呆然とする私の前で、姫ニャン(Vチューバー)は語る。
毎日異世界を冒険する夢を見るのだと。
そこで言葉の通じない女の子と仲良くなったのだと。
でも昨日殺されてしまって、最悪の気分だと。
驚かされたのはそれだけじゃなかった。
私が知っているこの実況チャンネルはソロだったんだけど、百日の間にマルチという協力プレイになっていたらしい。
もう一人Vチューバーさんが参加していた。
そのVチューバーさんは私の知らない人だったけれど、知っている人だった。
アバターに見覚えはないんだけど、その人の名前は『オークニキ』と表示されていたんだ。
もう、わけがわからなかったけれど『オークニキ』は語る。
彼も同じような夢を見るらしい。
そこで彼も一時期言葉の通じない女の子と仲良くしたのだけど、ある事件で別れることになってしまったのだと。
言われてみれば、確かにオークニキは妙に人間くさいところがあったね。
それで姫ニャン(Vチューバー)の実況を見て、同じ夢を見ていると気付いていっしょに配信をするようになったらしい。
もしもその女の子が自分たちと同じような夢を見ているなら、いつかこの配信が目に留まるかもしれないと。
『想像力たくましい』だとか『な○うで小説書け』とか好き勝手なコメントが書き込まれるけれど、私はそれが夢じゃないことを知っている。
二人は私と違ってこっちの世界にいたというか、夢の中でだけ繋がっていたという感じなのかな。
とにかく、ここにいる二人はあっちで私が知り合った二人だと思って、いいんだよね?
配信中の二人は、どっちの方がその女の子に好かれていたかで揉めている。
待って? いやホント待って。恥ずかしいでしょ! この配信、私に見せるつもりでやってるんじゃなかったの?
でも、そんな言い合いの中で嬉しいことを知れた。
子供オークくん、無事に新しい集落で暮らしているらしい。
私がいなくなってさみしがってるみたいだけど、元気にしているって。
他のオークさんたちも、あの襲撃を生き延びた人(?)たちはみんな元気にしていて、その後は冒険者からの襲撃もなかったって。
私の百日間は、無意味じゃなかったんだよね。
ここでコメントを送ったら、二人は気付いてくれるかな。
……いや、やめておこう。
今の私はただのニートで、何者でもないんだから
ベッドを振り返ると、ボロボロの日記が転がっていた。
私が百日間書き続けた日記だ。
こっちに持ち帰っちゃったということは、私と同じ目に遭った人がいても目に留まることはないんだろうね。
だから、私はこの日記を本にしようかと思う。
でもその前に、まずは部屋を出て、もう一度勉強をするところからかな。
いつか、胸を張って二人に名乗り出られるように。
百一日目。百日後に殺されたけれど、今日も私は元気だよ。
100日後に○される異世界生活 @ironimuf
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