序‐4

 突如教会の中庭に現れた目が眩むほどの強い光は、一瞬にしてその輝きを失いまるで何事もなかったかのように、消え去った。

「……お、おさまった……のか? ルビア、無事か。見えづらいとか……ないか」

「レウカ兄様……そんなに心配しなくても……問題ないよ、大丈夫」

「そうか、ルビアが無事ならなによりだ」

 心配そうにルビアを見つめるレウカとは対照的に、ルビアは中庭に視線を集中させていた。先程、光のなかに少年がいたように見えた。

「に、兄様……中庭の様子、見に行っても……良いかな」

「なっ……駄目だ! なにがあるかわからないんだ。もしかしたら、王国側からの攻撃かもしれない」

「そんな……さすがに王国だって、こんな帝国の中心部に、いきなりそんな事するはずないよ……それに王国は今、混乱しているって聞いたし」

「ああ……例の【毒花の姫君】の件か。しかし、そういった噂で我々帝国民を混乱させる罠かもしれないだろう? だから、ルビアは大人しくしていろ。きっと兵がすぐに様子を……ああ、ほら」

 レウカの目線の先には、中庭へ向かう兵達の姿。その姿を確認したレウカは、安心したように息をつく。そんなレウカとは正反対にルビアは落ち着かない様子でいた。

「兄様……我が儘なのは理解してる。でも、その……遠くから。遠くからでいいから、見に行っちゃ駄目……?」

「ルビア……全く、お前という奴は……仕方ない、許可しよう。ただし、私から離れないように」

「……っ! ありがとう、兄様っ!」


「レウカ様! 聖女様も!」

「なにがあった」

 ルビアとレウカが中庭へと足を運ぶとすぐ、兵が寄ってくる。綺麗な所作で敬礼をするとすぐに口を開いた。

「はっ! それが、その……少年が一人、倒れていました」

「少年?」

「はい……」

 少年と聞いたルビアは、先程の光に包まれていた人物だと確信した。そしてその少年は、もしかしたら待ち望んでいた【光の勇者】なのではないかと心が踊り始めた。

「あのっ……わ、私の治癒の力が役立ちますっ! なので、そ、その男の子のもとまで案内してくださいっ!」

「聖女様直々に治癒の術をかけてもらえるのなら、きっと少年も目を覚ますはずです! ご案内します。こちらです、聖女様」

「ちょ……ルビア!」

 レウカの制止を振りきるように、ルビアは兵に案内されるがまま例の少年のもとへと向かった。

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L.plan 沢村悠 @nori24

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