序‐3

 帝国随一の教会に女児が産まれて早十五年。人々は彼女を【聖女】と崇め立て続けていた──


「ルビア、今日は誕生日だな。ルビアもとうとう十六歳……早いな」

「レウカ兄様……ありがとう」

「父様も母様も、ルビアの成長を見守ってくれている。勿論、私もな」

「うん。父様も母様も早くに亡くなって……寂しかったけれど、兄様がいたから私はこうして無事に育ったの。本当にありがとう、レウカ兄様」

 教会内に響き渡るのは、若くして教会を取り仕切るレウカと、彼の妹であり【聖女】といわれているルビアの声。朝日が差し込み、清浄な空気に包まれる中、兄妹は二人きりの家族として聖女の。ルビアの誕生日を慎ましく祝った。

「……伝承では聖女が誕生して、一定の年齢に達すると光の勇者が現れると云われているが……ルビアは、現れてほしいか? その光の勇者に」

 レウカの問いに、ルビアは静かに頷きながら口を開く。

「うん。だって、その光の勇者様と聖女で……この帝国の闇といわれている女帝と術師を祓うんでしょう? 私の役目だもん……だから、現れて欲しい」

「そうか……しかし、もし本当に現れるとしても何処に現れるのか。帝国内ならまだしも王国や中立国、東国だと厄介だな……いや、一番厄介な場所は離れ島か」

「確かにそうだね……帝国の中に現れてくれたらいいのに。ねぇ兄様。もし本当に勇者様が現れて、私が旅立つってなった……兄様は私に着いてきてくれる?」

 ルビアの言葉に、レウカは困ったような泣きそうなような、うまく言葉に出来ない表情を浮かべた。

「ルビアは聖女だが、それ以前に私の大切な妹だ。着いていきたいに決まっているが……そうすると、この教会を管理する者がいなくなる」

「そっか……兄様が一緒だったら心強いなって思ってたんだけど……そうだよね、ここを取り仕切れるのは、兄様だけだもんね」

「すまないな、ルビア。だが、精一杯の支援はする」

「ありがとう、兄様──」

 そんな他愛もない兄妹の会話の最中だった。教会の中庭に目が眩むほどの強い光が現れたのは。

「な、なに……人……?」

「ルビア、目がやられるっ! 直で見るな!」

 レウカの大きな手で顔を覆わるルビアが瞬間に目にしたのは、光の中で眠るように佇む、一人の少年の姿──

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