納税調査犬タックス・ブンドル
白川津 中々
■
脱税や滞納の続く人間から発せられる物質『タクストラーゼ』の分泌を嗅ぎ取る麻薬捜査犬ならぬ納税調査犬の配備が大分県で初めて行われた。
「わんわん! わん!」
「わわんわんわんわわんわん!」
「タックスなんだって?」
「延べ20億の所得隠しをしている人間の臭いがすると言ってます」
「よし。逮捕だ」
「ちょっと待て! なんだこの捜査は! やるならちゃんと調べろ!」
「調べるとも……お前を豚箱にぶち込んでからゆっくりとなぁ!」
滅茶苦茶なやり取りであるが仕方がない。なにせ我が国は金がないのだ。取れるところからは可及的かつ迅速に金を搾り取らなければならない。納税調査犬『タックス・ブンドル』と、その翻訳主である堺商人はそのために導入されたのである。
「いや助かった。タックスも労ってやってくれ」
「かしこまりました。わんわん。わわんわんわんわわんわん」
「わんわんわわんわわわわわん」
「わんんわんんわん」
「わわわわん」
「何話してるんだ?」
「
「……考えておく」
堺は動物と話せる特殊能力を持っていた。その能力を生かしドリトル先生が如く獣医にでもなればよかったのだが、生憎と頭のできが悪いせいで有効活用叶わず、持ち腐れ燻っていたところを県警に民間捜査員として雇われたのであった。税務調査は主に国税庁の仕事なのだが、先に記した通り可及的な徴収が求められているため、より強制力の強い警察によって行われた。とんだ越権行為かつ恐怖政治であるが、どこぞの秘密警察よりはましであろう。
「じゃあ次だ。どんどん取り締まって金を搾り取るぞ。何せ国難だ。そんな時期に金を出し渋る奴は非国民だ。遠慮する事はない。じゃんじゃんいくぞ」
「了解です」
堺とタックスは次から次へと税金を回収していき脱税者が収監されていった。一人と一匹の活躍により国庫は潤うと思われたが、「金が入ってくるならどれだけ使っても問題ないな」と国は不要に無駄な事業を繰り返し、政治家達は献金をばら撒いた事から焼け細りとなり、結果マスコミから大きなバッシングを受け、納税調査犬は廃止となって堺共々お役御免となったのだった。
そうして仕方がなく堺はペットショップで働くようになったのだが、数年が建った頃、タックスがふらりとやってきた。
「わんわんわん。わわんわん(どうしたんだタックス。久しぶりだな)」
「わんわん。わんわんわんん(あぁ。実は伝えたいことがあって)」
「わんわん?(なんだ?)」
「わんわ、わんわんわわんわん(実は俺、番になったんだ)」
「わんわわ! わわんわん!(そうか! よかったじゃないか!)」
「わわん、わんわわわんわわわわん。わわわん(あぁ、こが本当の年貢の納め時。ってやつだ)」
「……(……)」
一匹笑うタックスを前に、堺は項垂れた表情を浮かべながらかつての相棒を一撫でして別れた。脱税はこうした不幸を生むのである。故に、納税の義務は怠ってはならない。
納税調査犬タックス・ブンドル 白川津 中々 @taka1212384
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