第23話 朝の時間 駅へ
中央線の沿線に住んでいる。
快速が止まらない 阿佐ヶ谷駅寄りの高円寺駅との間辺り。線路からは少し離れている。
家にいると、高架橋上に電車が走る音がかすかに聞こえてくる。
日中は、生活音に紛れ 存在感があまり無い その音は、街が静まり返った明け方には 目覚めるのには充分なアラームがわりである。
物心ついた頃から、始発電車の音とともに目覚めている。そんな理由から いつしか早起きの習慣がついた。
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低層建築が並ぶ昔ながらの二駅それぞれの街並みや個性的な商店街や夏祭りは、通勤時の道すがら楽しむことができる。
二つの風景をその日の気分で使い分けできるのだ。
日替わりで、利用する駅を選ぶことができるのは、単純になりがちな通勤時間を楽しみに変えてくれる。
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雨の降る日に高円寺駅方面へ向かうのは、ハッキリとした理由がある。
高円寺方面へは高架下を軒づたいで 傘を畳んで駅前までたどり着けるのだ。
高架下は、途中までは駐車場が続いていて殺風景。
しかし、駅に近づくにつれて 飲食店や古本屋などが開業している一角があり 独特な雰囲気がある。
前夜の賑わいの面影もあり、普段は好んでは歩かない道である。
飲食店特有のにおいが気になるが、天気が悪い通勤時は 利便性から ついついこの道を利用する。
古本屋で探し物をする帰宅時も、やはり高円寺駅で降車する。
高円寺駅前の高架橋下辺りには、古本屋が何軒かある。ジャンルを問わず置いてある店もあり、思わぬ掘り出し物に出会うことがある。私の密かな楽しみである。
休日に散歩をしていたら、そのうちの一件の前にトラックが止まった。荷台からは沢山の本が積み出されている。
店主によれば、とある文豪が亡くなったので買い入れた品だと言う。
こういう場面に出会えるのも、作家が多数居を構える 杉並区ならでは。
また、高円寺の商店街はディープで個性的だ。
古着屋さんや古道具屋さんがポツリポツリとあって、暇つぶしに覗いてみる。面白いものに出会えるのだが、何故か購入したことはない。
(阿佐ヶ谷に行きつけのお店があるからだ。常連なので、季節ごとにお知らせが来て、好みのものを揃えて待っていてくれる。)
高円寺駅前付近にある昔ながらの路地裏には、食料品店が軒を連ねており、とても庶民的な雰囲気で賑わっている。
揚げ物を提供している精肉店もあり、時々行列に並ぶ。お目当てはロースカツとヒレカツ。
駅前広場に面した輸入食料店で、遠い異国を思い浮かべるのを愉しむ。
また、路地の突き当たり付近に、ご当地スーパーがあり、阿佐ヶ谷のスーパーでは見かけない調味料はここで調達する。
疲れた日には、昔 役者をしていたという店主がいる定食屋や、とても盛りがいいという評判の老舗洋食屋などに寄ることもある。
どちらも、席数が少なくてアットホームな雰囲気。
常連には、時々オマケをしてくれるのも、ついつい足が向く理由の一つなのだと思う。
そんな風情を味わいたい日は高円寺を歩いている。
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目覚めた途端、今日は快晴であることが空気でわかった。こんな日は、もちろん阿佐ヶ谷駅一択である。
阿佐ヶ谷は、地元である。病院、神社、洋装店、美容院、ペット関連、もてなし用のレストラン、お待たせ用菓子店や民芸品店に至るまで。
駅へ向かう道にある、けやき屋敷の木々。中杉通りのけやき並木(なぜか杉ではない)神明宮から吹く爽やかな風。老舗の甘味屋のにおい。
昔から 変わらぬ幸せが私を包んでくれる。
馴染みの街並みを颯爽と歩く。動かすことのできぬ我が町なのである。
近年、開発の波に押されこの風景も変わろうとしている。このところ、その話題で揺れ動いている。
阿佐ヶ谷駅から乗った中央線の車窓から街を眺めながら呟く。
「本日も元気に行ってきます。」
朝の時間 yuzuneko @Yu2u
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