見えない世界

西東友一

第1話

『地球は丸い。〇か×か?』

 

 正解は×だ。

 なんで、嘘を言っているんだ、だって?

『あっ、わかった!楕円でしょ!!』とか言うのも違うからな。


 これだから、現代っ子は。夢も希望もないし、現実も知らない。

 理由を聞いてみようか?


 なになに、みんな言っているし、ネットにも書いてあるだって?

 これだから、これだからっ!!


 今の子どもは自分で確かめようとせず、人に言われたことを信じ切って鵜呑みにする。

 

 おっさんの俺が言ってやる。

 お前たちはな、何も得てない。

 そういうのを『知ったかぶり』って言うんだ。


 自分の目で確かめたものが真実だ。

 そして、それを自分の目で確かめてみたい、と宇宙に出てくる気概がある奴はいないのか。


『お前はどうなんだ?』だって?

 ふふっ、残念だったな。

 俺は今、地球の大気圏外の宇宙にいる。

 そして、地球を見ているが・・・


『正直わからん』

 太陽の光の当たり具合っていうのもあるが、丸にも見えるし、楕円にも見える。

 もしかしたら海とか柔らかい部分と地表の固い部分が遠心力を受けて、ジャガイモみたいなに見えなくも・・・ない。


『結局わかんねーのかよ!?』


 もっともだ、悪いな。

 でもな・・・こんな素晴らしい景色を見ることができて、俺は物凄い感動している。



 地球は本当にきれいだった。



 本当にきれいだ。



『なんだそのしょーもない感想は?』文才がないなって言ったか。

 ついでに口も悪いだって?それは余計なお世話だ。


 じゃあ聞こう。


 この素晴らしさを語ってみてくれ。


 俺はどんな言葉を使い尽くしても、この感動を君に伝えることはできない。

 自分で見ることに意味があると思うんだ。

 もう一度言う、どんな言葉でもこの感動は語りつくせない。




 あぁ、そうそう。今は『知ったかぶり』について言及したが、信じて考えることを放棄した『妄信者』を馬鹿にしている。




 じゃあ、次のクエッション。


 ダーダンッ


『流れ星が消えるまでに3回お願いしたら、願い事が叶う。〇か×か?』

 

『ひねくれ者の質問だから時間をくれだって?』

 ひねくれ者・・・ちょっと、凹むな。今の俺は当たり屋みたいな感じになっているが、普段はとってもいい奴でみんなの幸せを祈るような奴だって言われているんだぜ?ちょっとだけ、今はブルーになっているだけ・・・って聞けよ!

 

 ・・・まぁ、いい。よく考えてみろ。

 シンキーングターイム・・・スタート。


 3・・・2・・・1・・・・・・タイムアップッ


『正解は・・・よく考えろ。そんな燃えカスが叶えてくれると思っているのか?』


 宇宙に俺からすればよく分かる。


 そもそも、流れ星が願い事を叶えるなんてなった由来を知っているのか?


 ちなみに、俺は知らない。


 けれど国や時代によっては、人の死の予兆だったりするのは知っている。

 よく考えろ、光る星が現れて、スーッと夜空に線を描いて無くなるんだぜ?


 俺はどちらかというと、死ぬ間際の一瞬の輝きに感じて、そのまま俺の魂も引っ張られて消えてしまいそうで怖いし、悲しい感情を持つ。成功者、願いを叶えた星みたいにキラキラ輝いている奴は特にそう思うと思うぜ?


 消えちまうってのは、寂しい。


 だから、まぁ、妄信的に願い事が叶うものって思っていた方が、心は安らかになりそうだと思う。まぁ、そんな理由じゃないか、きっと流れ星が願いを叶えるなんて理由は。


『ロマンがない男』だって?


 おいおい男とか関係ないだろ。

 じゃあ宇宙に来てみろよ。男性とか女性とか抜きしてよ。

 俺は女性も大歓迎だ。

 

 星好きの男だけで話をするのも好きだが、女性が入れば違う視点も生まれるだろうし、違う盛り上がり方もありうるだろうからな。


 あぁ、でも宇宙には性別は抜きにできないかもしれないな。

 差別でもなんでもないぞ、事実だ。宇宙に来ているのがほぼ男性なのもな。


 確かに肉体的・生理的なハンデや、宇宙ステーション内のトイレ問題みたいな徐々に改善はされているが環境的なハンデ、日本人に特に多い忖度みたいな人の感情が作り出す社会的ハンデ・・・典型的な男性脳の俺みたいなおっさんにはわからない他にもハンデがたくさんあるかもしれない。


 そう、さっきの『妄信』だって、『盲信』は差別用語で放送禁止用語らしい。ハンデっていうのはデリケートな問題だ。アンタッチャブルにした方が無難なことだ。

 

 でも、みんな違ってみんないいでいいじゃねえか。

 俺には長所がある。短所もある。

 

 いや、わかっている。今は長所だけを見ていきましょうという時代だということを。

 でも、短所も俺なんだ、君なんだ。

 短所こそ直せない部分、個性な気がするんだ、俺はな。


 短所も認めて大事にしてやろうじゃないか。アンタッチャブルにして臭いものに蓋なんて悲しすぎるじゃないか。

 宇宙のように可能性は無限なんだ、もったいない。

 俺もみんなもお互いの短所を温かく包み込もうじゃねーか。


 でも、『ハゲ』って言うのは嫌いだ。

 なぜって?俺がハゲているからだ、それもある。

 けれど、『ハゲ』って言うのって、だいたいディスする時限定じゃん。


『盲目』ですよは、言っている方はディスりじゃなくて、準備のお知らせだと思うんだけどな。『盲目』な本人は慣れていても、こっちは接し方が不慣れなんだから、心の準備はさせてほしい。優しい言葉だと思うんだが、『盲』は使っちゃいかんかね?

 んで、『ハゲ』は放送禁止用語にせんかね?

 そうすると・・・育毛剤が売れんのかな?


 あとは、『ハゲ』とか『障がい』を自虐ネタにする奴。お前さんはいいかもしれんが、コンプレックスをネタにするのを強要されている気分になる奴もいると思うぞ。

 

 でも、それも難しいよな、コンプレックスを笑いにすることで、ネガティブな感情をポジティブに変えていることでそいつ自身が自分の心を穏やかにしているとすれば、俺はそいつの行動を否定できない。


 やっぱり、生物として一番自分を大事にすべきだ。

 

 まぁ、私は愛する人とか、愛する子どもとか言う奴もいるだろうが、それはお前のポリシーだったり、遺伝子を守るためっていうのは、やっぱり自分のためだ。だから、『妄信的に』人のためにしなければならないんだ、とかで苦しくなってほしくないって意味な、俺の言ってるのは。


 おっと、話が逸れたな。

 悪い、悪い。


 ちょっとばかし、感情が高ぶりやすい状況にいてな。

 なーに、宇宙は酸素が薄いからそうなりやすいってわけじゃないし、逆にふわっふわしてるし、狭い環境だからな。逆に暴れてやろうなんて気にはあんまりならない。個人の感想だが。


 さて・・・女性の話に戻そう。

 星がきれいだねって言葉を女性の方が言うことが多い気がする。男女差別とか言うなよ?占星術は女性の方が多い。多いだけ当てはまらないやつもいるが、傾向は事実だ。批判をして事実から目を逸らすのはナンセンス。


 カテゴリーはあっても、お前はオンリーワン、お前はお前でしかない。

 だが、カテゴリーとしての話だから落ち着いて聞けよ。じゃあ、話を続けるぞ?

 純粋に感じる奴もいるが、パフォーマンスでいう奴もいる。

 

 そういう奴は・・・まぁ、それはそれでいい。人に好かれたいというのも人の心理だ。どこも悪くはない。地上で輝くためにそう言った言葉を使うことだっていいと思うぜ。


 だけど、一番やめてほしい言葉が『ロマンティストだと思っていたら全然違う。裏切られた』と彼氏彼女から言われたセリフの反論で、彼氏に『女はそんなロマンティストなんていないわ、ばーか』とか彼女に『男でそう言っている奴は、女に合わせているだけだ、ばーか』とかカテゴリーにして、お前だけのことをカテゴリー全体の足を引っ張ろうとして、純粋に星が好きな奴を貶めるようにいうのは止めてほしい。


 貶め合うのは本当に嫌だな。

『お前さ、〇〇って短所・・・、もーーーっ(苦笑い)でも、お前の長所っていいよな』みたいな、短所は人に迷惑をかけたりすることもあるけど、笑って、まっいっか、ぐらいで終わるような関係でいたいぜ、俺は。


 まぁ、でも、別れ際ってのは、短所が許せなくなっての可能性が高いからな。おそらく、長所に魅力を感じなくなったよりもその方が多いか。一番のパートナーを選ぶ際にはまぁ、仕方ないと思うよ。


 あと、嫌いと思うことだっていいんだって。

 嫌だと思っちゃいけないわけじゃない。

 それはお前の中に沸いた自分を守る大切な機能だと思う。


 でもさ、でもさ、他人に頼らずとも制度や機械の発展で面倒くさい奴とは付き合わなくてもよくなりつつある社会だが、それでもよぉ、パートナーとまでいかないまでも人間関係大事にしようぜ。昔よりは生きやすい世の中なんだからさ、面倒くさい奴とも遊ぶ余裕を持とうぜ、みんな。『敢えて』でいいからさ。


 社会の発展で余裕が生まれたからマイノリティーの権利も保障されやすくなった。

 本当にいいことだ。

 そりゃ、生きているうちに、なんなら今から自分らにとって望ましい世界になってほしいんだろうから、必死に主張するのは構わない。

 

 でも、受け入れ体制というか、心の準備もあるから過激だと、な?

 まぁ、お互い憎しみ合わない方法で良くなっていけばいいと、切に願う。秩序のためには何やってもいいわけじゃないし、叩けばいいってわけじゃないんだから。


 それと他の分野もそうだが、男性も女性もLGBT、それ以外の奴だって、お前が求めるものに肉体的、精神的にハンデがあったとしても目指そうぜ?

 一番星。


 まぁ、俺は星が好きだから。

 ぜひ、同じように星好きには目指してほしい。


 女性に宇宙飛行士が少ないという事実。

 だからって、星が好きなら、宇宙に出ることを諦めないでほしい。


『星が好きならなんで、宇宙飛行士にならないんだ!!』と強要されてますっ!!とか言わないでな。適度な地上で適度に天体観察を楽しみたいってのもいいんだから。


 まぁ、本当か嘘かはわからんが、ホルモンの関係で女性はリスクを求めない傾向にあるらしい。宇宙なんてリスクばっかりのところに興味がない奴も多いかもな。


 ただ、ホルモン関係は俺の専門外だ。これだけ、真実を見ないで語るなと言いまくっている俺も少しはネットだけの情報だけで終わらせる時もある。全部を頑張れるほどの活力はないし、時間もない。みんなも多分・・・そうじゃないかな?それも人間だ。


 そう矛盾を孕むのも人間。


 俺は神様じゃない。むかつく時もある。ただ、『あっ、今はこいつの悪いとこ出てるだけ』って思って、一生は嫌いにならないかな。そいつのいいところが活躍する場面もあるわけだし。

 短所が多い奴らもたくさんいるが、それなりに仲良くやっているつもりだ。

 

 とはいえ、全人類と会ってないし、俺はもしかしたら超極悪人に出会っていないだけかもしれないがな。であれば、神に感謝しよう。


 また、話が逸れたが・・・宇宙はいいぞ。

 地球を自分の目で見て、流星が願い事を叶えられそうなものかを宇宙からを見る。


 真実はネットにあるわけじゃない。

 現場にあるんだ。

 生にあるんだ。


 だから、俺はもう一度押しちゃうぞ?宇宙飛行士になりたいってぜひ思ってくれ。

 そこまでするのはめんどくさい、しんどいって言うんだろうけど、ぜひこの素晴らしさを女性にも他の性の人にも味わってほしい。そして、俺と宇宙船でラブラブしようぜ。


『あんたみたいなめんどくさい男は無理』とか言わないでさ。

 おっと、他の性の奴らから男というか人として無理とか言われそうだ、怖い怖い。

 

『キレイごとを言うな。じゃあ、盲の話が出たが、地球は散々きれいとか言って、全盲の俺が行く意味も、行ける可能性もないだろう』とかそれ以外のハンデを持っている奴からも無理だろっていうことを言ってくる奴がいるかもしれない。


 死ぬ覚悟があるくらい来てみたいと思うなら、やれよと思う。

 厳しいこと言ったか?

 厳しいんだよ、それくらい宇宙って環境は。


 今の技術じゃ、地上を離れた宇宙空間でハンデがある奴に対して支援は難しいし、宇宙飛行士として行ける可能性は限りなく低い。でもよ、民間のロケットに乗って行こうとしている奴がいる。金さえあれば、今、ようやく行けるかもしれない世の中になってきたんだ。ハンデがあっても、稼げる可能性も上がってきた世の中だ。


 本当に目指してくれるなら、数百億円稼いで、寿命を延ばして技術の進歩を待って安全に宇宙に行くか、リスクを冒して宇宙に来てみてほしい。


 見えなくても、地球を飛び立って、無重力を本物の宇宙で感じたいと思うことだって、俺は素晴らしいことだと思うぞ。そして、『私は見えないけれど、ほとんどの人が経験したことない無重力を体験した』っていう達成感は、俺には経験できないが、すげー感動がありそうだと思わないか?


 私は『〇〇』のハンデで、ほとんどの人が体験したことをできないし、そこまでしないと優越感に浸れないんですね?みたいな揚げ足取りするなよ?

 というか、そういう風にうじうじしているってことは何か嫌なことでもあったんか?俺も忙しい男で、時間はそんなにないが、3回は聞いてやるぞ、3回は。

 

 そんでもって、こんな喋り方で能力が無さそうに感じるかもしれないが、宇宙に来れた男だ。なんなら、人の祈りに近い願いを叶えられる男と呼ばれるようになる男だ。

 まっ、相談するだけ相談して祈りに近い願いを俺に話してくれ。

 可能な限り、叶える努力はするからさ。


 お前さんが宇宙に行ける可能性は、現段階では限りなく低い。


 でも、お前が諦めて、パンドラにしちまったお前に眠る、本当は持っている才能とチャンスを俺は信じたい。

『パンドラから出るのは害ばかりじゃないか、私が害だと言いたいのか』とか言おうとするやつ、だから、本当に疲れているのか?そんなわけないだろうが、お前が害とは言ってないぞ。

 お前さんじゃない誰かがやるかもしれないネガティブキャンペーンだ。持っている人を妬むな。

 もう一度言う、俺はお前を信じる。


 想像しかできない。

 お前が宇宙から見た地球はどうなのか知らないのと同じように、俺だってお前の悩みは情けないことに想像でしか語れない。


 励ましたいだけなんだ。

『ハゲ』だけに。


 ・・・


 このジョークは誰も幸せにならんな、すまん。

 ちょっと照れてきたからつい。

 過ちを犯すのも人間だ。

 そして、許し合えるのも人間だと思って許してくれ。

 

 また逸れた話を戻す。

 宇宙に出ることにだが、俺は適性と運があった。

 大気圏外の宇宙にいるんだが、それだって努力したさ。

 でも、認めよう。


 俺には才能と運があった。

 

 羨ましいか?


 でもさっきの話だが、俺には文才はないし、口も悪い。他にも不得意で、努力で克服できる部分とできない部分がたくさんある。


 人を羨ましく思うところなんて、たくさんあるが、俺はその人を褒める、すごいねって。悔しいと思えば、適性0でもそのジャンルで頑張る。


 例えば、魔法適正0だ。魔法、めっちゃ使いたい。でも魔法を使う力は全然ない。

『そんなの無くても全然平気だろ』って思ったのなら、お前は所詮比べて自分を卑下しているだけだぜで、自分のことしか考えてないじゃないか。ハンデがあったって、人の悩みや願いに足を引っ張ったりしないで、応援してやれよ。

 あと、そんなないものねだりはキリがない話なんだから。比べて、比べて嫉妬しているよりも、みんな自分を愛して、他人を愛そうぜ。


 あとよ・・・俺が物凄いハンデを持っているって言ったら、反論の余地ねーよな?

 実は・・・




 特にないと思っている。

 まぁ、俺はあったとしても、気にしねえからな。

 それで、お前らには悪いが願い事を叶えたぜ俺は。


 ハンデを抱えていたけどここまで来たどやっ!!って嘘をつくことだってできるさ。

 所詮、今までにあったことがある奴なら別だが、俺はお前と出会わないから、平気で嘘を付ける。


 でも、嘘をつきたくない。


 素晴らしい部分と過酷な部分を持ち合わせているからな、宇宙は。

 

 閉所恐怖症でない俺だって時々発狂しそうになるのに、閉所恐怖症の人が地球を遠くから見たいがためにここまで来たいのであれば、相当な覚悟が必要だ。


 それと―――




「おい、準備は・・・いいか」

「はいっ、大丈夫です!!」

 偉そうに文章をしたためていた俺は上官に呼ばれて元気よく返事をする。

 自分の心の世界でしばらくの間引きこもっていた俺が現実世界に呼び戻された。

 こんなおっさんとはいえ、上官からしたら俺よりも世間を知らない若造が何を語ってんだって思われそうで恥ずかしくなる。

 宇宙に来ても俺はこんなもんだ。真面目なもんだろ?

 

「本当に大丈夫か・・・?無理なら・・・」

「いいえ、やります」

 俺の愚痴というか祈りもキリがないからここまでにしよう。

 俺は天さんの後についていく。

 

 この手紙は置きっぱなしにしよう。

 捨ててくれても構わない。

 だって、今の俺は珍しく気が高ぶっている稚拙な文章だ。

 気分を高めないと行けない場所だったからついつい行き過ぎたことを書いていたかもしれない。詫びよう。


 あっ、この上官の天さんは決して理不尽で厳しい人ってわけじゃないし、俺の考えも尊重してくれる。間違っても『老害』って奴じゃない。

 あぁ、ちなみに俺はいつもハンデとか、害とか考えている人間じゃないからな?どんな人を助けたいかと思ったら、急にそう言ったことを考えただけだ。


 悪い悪い、また話がずれてしまった。

 この天さんだが、優しい人ではあるが、もちろん、俺が危ないことをしそうになったときは怒鳴り声で注意をしてくれる。

 当然のことだ。


 人間の身体は宇宙で暮らすようには今はまだできていない。ちょっとしたことが自分だけでなくクルー全員を殺し、人類にも大きな損害を与える。

 

 これから、俺がやること。

 それは―――




 流れ星になることだ。


『おい、二問目!!』って言うかもしれないが、俺は×とは言っていない。

 馬鹿げているが、これが人生最後の仕事。


『流れ星になって、人の願いを神様へ届けること』

 地上ではありえない理論が、宇宙にはある。

 さっきも言ったが、嘘だというなら確かめに来い。


「これが、加速装置。操縦ハンドルはこれだ」

 弄れるところもその二つしかないシンプルなデザイン。

 行ったら最後、もう二度とこの世には戻れない乗り物。


 その名は『回天』。


 魚雷のような、小型ロケットのようなそいつは、神へと願いを送り届ける神器。


 一発勝負の大事な仕事。

 無駄死にならないように天さんはしっかりと教えてくれる。

 

「最後にもう一度聞く」

「はい」

 噂に聞いていた天さんの最後の言葉。


「お前の望みはなんだ?」

「みんなの幸せっす」

「それは自分の命よりも大事なものか」

「もちろん」

 見つめ合う、俺と天さん。

 おっさん同士のラブではないからな、これは。


「ならば、私はお前の幸せのために、私はお前の背中を押そう」

 天さんはボタンを押すと、入り口がゆっくり締まる。

 ちらっと見える天さんの顔は感情のない顔をしていたが、切なさが少しにじみ出ていた。


 そりゃそうだ、何千、何万との人が命を散らすスイッチを押してきたんだ、そのことについて感情を殺していかなければ、天さんの心が持たない。

 だから、無感情でいいんだ。


 さて、ここから、一人旅。


 徐々に本体から切り離される準備が始まる。

『俺が流れ星になる』準備だ。


 お化けの証明ではないぞ、これは。

『嘘つけ、お前の妄想だ』と言うなら、宇宙に来てみればいい。

 俺のこの発言を否定できるのは宇宙飛行士・・・まぁ、宇宙飛行士だって気づかない奴もいるかもしれないがな。


 この『回天』は操縦士の願いを叶えてくれない。

 回天に乗るに相応しい願いを持った人が操縦士になる。


 ふわっと、外に吸い込まれるように前へと進む回天。

 そして、自動で着火され前へと進む。


 俺はさんざん悪態をついたが、みんなに幸せになってほしいし、願いを叶えたい。あっ、さっきも言ったが、人の不幸を願う系は持っていかないぞ?神様も知っちゃったら、お前に天罰与えるからさ。知らぬが仏?ってやつかもな。

 

 自殺志願者じゃないぞ、ちなみに。

 死ぬのは、めっちゃ怖い。

 

 ちなみに大昔は生贄って言って、若くてやる気のある女性がよくやっていたらしい。散々宇宙に行っているのは男性ばかりだと言っておきながらだが、これは聞いた話。

 実際に見たわけじゃない確証のないことだし、研修期間で飛んでいったのは俺と同じようなおっさんが多かった。

 今、お前らの願いを叶えているのは、ほとんどおっさんです(笑)


 あと、傷つけちまった奴、怒っている奴がいるなら本当に申し訳ない。

 傷つけてしまった奴はなるべく叶えてやるから願ってくれ。


 でも、俺が叶えたい奴らって、悪態ついても許してくれるやつとか、なにくそって頑張ってる奴とか、強く願うやつとか、やる気がある奴とかの願いを叶えたいんだよ。


 もし、ハンデが君を苦しめているなら、それが取り除ける世界、まぁ、機械とかの技術の発展なのか、来世でハンデなしを用意してくれるかは神のみぞ知るからわからないけど、ちゃんと運ぶから俺に祈ってくれ。


 もし、ハンデを自分で乗り越えようと思っているなら、成就するよう君の願いを神様に届けよう。とはいえ、叶えたとすればあくまでも君自身の力だ。達成した時は思う存分、自分を褒めてやってくれ。


 あと、さっきは『妄信者』を馬鹿って言って悪かったな。

 馬鹿な奴も『ロマンティスト』も大好きだ。


 とりあえず、辛いらしいけど、長い線の流れ星を長く作るからさ。なるべく多くの願いを神様に届けるから、ちゃんと3回祈ってくれ。


「そろそろ、加速装置を押しますか・・・ふぅ」

 もしかしたら、俺が天さんに騙されているだけかもしれない。

 流れ星予約サイトみたいなのを大金持ちたちが作っていて、花火を見る感覚で注文を受けた天さんたちが、真実が見えていなかった俺たちみたいなのが飛ばしているだけかもしれない。


 ふ・・・っ、それでもいい。


 だって、あんなきれいな自分の住んでいた星地球が見れたことに感謝をしているんだ。


「I’m shooting star for us」

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見えない世界 西東友一 @sanadayoshitune

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