群盲

黒心

群盲

孤独な部屋に声が木霊する。


「ねぇ、私って何なの?!」


壁は喋った。笑い声を大きく上げながら言った。


「君は才能さ!」


硬い壁の部屋を殴り手を痛めた。それでも靴の履いた足で叩き続ける。頭の中で自問を繰り返し、ついに声に出した。


「ふざけないで!ちゃんと見て!」


「きゃは、君は誰も持たないモノを持っているのに」


一旦切り部屋は息を吸う様に膨らむ。風船の中にいる様に息苦しくなる。


「いいよね!誰も持たず君だけが持つ才能!」


頭は痛くなり遂にお腹まで痛くなり始める。苦し紛れに声を出した。


「やめて」


「ぎゃは!天才は違うなぁ、普通とは違うや!いいなぁ!」


息苦しくなる目を開けると部屋が回っているかの様で足元もふらついてきた。


「何が天才よ」


「人を熱狂させることが出来る!それで充分さ!」


続けて部屋は甲高く身体中を震わせる声で大きく言った。


「ずるいよ!天才だね!」


「「「ずるいよ!」」」


鼻から血を噴き出し耳からも血が流れる。薬を何錠と飲み口から血を吐く。吐血した。色褪せた床に血が付くがすぐに拭き取られる痕を残し消える。


「いやよ、普通がいい」


「私を見てよ!」


「見てるさ!君は才能だよ!」


壁は中に向かって吐いた。


「居るのは──」


「──私を見て!」


孤独だ。

頑丈すぎる扉のついた部屋はぎしぎしと部屋は形を変える、そして無・理・や・り・収縮と膨張を繰り返し息を吐き続ける。


「いやよ……」


小さく吐露したが、誰にも聞こえない。

四錠のクスリを飲んだ。


部屋が息をするたび赤く染まり行き、部屋は赤に満たされる。もう収縮することはない。


「ああ」


突然、部屋は圧迫され押しつぶされた。鮮血は飛び散ることなく部屋ごとくしゃくしゃになって燃え尽きた。






部屋にはビールの缶が散乱し一升瓶が数本、台所の流し場に投げ入れられている。分厚いカーテンに仕切られた部屋には光が入らず夜の様に暗い。部屋の中央にはビールやお酒を淹れたであろうコップが机の上に転がっており、唯一立っているコップには水が入りそのそばには錠剤が置いてある。血飛沫は部屋中に飛び散っている。一本のロープは人一本を釣り上げるのが限界だった。


部屋ただ一つの光源はテレビであり、液晶板の向こうには誰かが立っていた。


『やっぱり百年に一度の天才ですよ』


誰もいない部屋の空気が歪んだ。

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群盲 黒心 @seishei

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