寝違えサバ折り、悶絶の四十九日
桑原賢五郎丸
寝違えサバ折り、悶絶の四十九日
二つの要因がぶつかりあい、おれの首で鈍く炸裂した。
2月6日、土曜日。母の四十九日法要である。もろもろの準備は前日までに済ませてある。
なんとなく区切りをつけたい日というか、一つくらいは決め事を作り、それを日々のルールとしてもいいかなという日でもある。
前日の金曜日の朝、晴れた空を見ながら考えたのだ。早速当日の夜からそれを実行することにした。
おれは寝相が悪い。そんなことに誰も興味はないだろうが聞いてほしい。大変に寝相が悪い。ベッドから落ちたことも一度や二度ではない。特にうつぶせになって眠るのがその要因ではないかと疑っている。うつぶせになり、また戻り、自由落下しているのだろう、たぶん。
フライパンの上の鶏むね肉だってひっくり返したら手元に引き寄せてやらねばならない。そうしないとフライパンから飛び出てしまう。そうなると鶏むね肉が焼けないということを知っている。おれは賢いのである。
一計を案じた。ベッドには角度を調整できる機能がある。安物ソファーベッドであるがそこはえらい。バキバキバキと木材を叩き折るような音をさせながら、10、20、30度位まで頭を持ち上げた。これで眠れば恐らく仰向けのまま眠れるだろう。
なぜかというと、この角度でうつ伏せになったら首が危険な角度で曲がるからだ。例え眠っていたとしても、自ら危険な状況へは、普通に考えれば飛び込まない。
サバは採れるやいなや首を背中側にバキッと折って鮮度を保つと聞く。相撲技の「さば折り」の語源だそうだ。なおおれはサバのアニサキスに半殺しにされたことがあるのでしめ鯖は怖くて食べられない。そんなことはどうでもいい。
で、土曜日の朝。今日。
おれはサバ折りされたサバよろしく首を思い切り背中へ向けてぐねらせ、その痛みで起きた。首が回らないほど痛い。この寝相の悪いデブはもしかしてサバよりバカなのか。サバだって漁師の手の中で自らサバ折ったりはしない。
首どころか腰にすらダメージが及んでいる。普通眠ったら体力回復するんじゃないのか。なぜ首がぐねられ体力が削られているのか。
問題は、本日が四十九日法要ということ。父を車椅子ごと車に載せ、丁寧に運転しなければならないのだ。スピードを十分に落としてカーブを曲がらないと車の中で車椅子は横転する恐れがある。
寺で車から下ろし、靴を脱がして上がらせ、それを押して本堂へ行きまた靴を履かせという作業の全てがおれの首にダメージを及ぼすことはわかっていた。
だがそれよりも一時停止の左右確認がこんなに苦しいとは。バックミラーを確認するのに痛いという感覚が伴うとは思わなんだ。
お経が終わり、住職が言った。
「お母様とお祖母様は同じ命日、12月22日なんですね」
「マジすか」
余裕がないので雑な返答になってしまったが、実はそうだった。祖母も年末の同じくらいの日に亡くなったよなとおぼろげに記憶をたどっていたとこだったのである。
これ、墓石に当然彫られるわけであるが、1と2の並びだからまだ良かった。
もし二人の命日が10月10日だとかで0と1だけの組み合わせが掘られてしまったら、墓場に眠るエターナル
なんにせよ、今後どう眠るかを考えなくてはならない。またサバ折られるのか、寝相の問題はとりあえずそのまま先送りにするか。
当然先送りに決まっている。
だいたい日付を決めて「今日からがんばる」というのはがんばれないことを知っている。日付に頼るから良くない。本当にがんばっていたらいつの間にか寝相は良くなっているのだ恐らくきっと。
夕食はサバの塩焼きにする。焼いてれば食べられる。アニサキスも死んでいるからだ。サバを食べてサバ折り回避祈願。
かえってサバの恨みでまたサバ折りそうな気もする。怖いなあ。
そうだ、骨壷の中には愛用の磁気ネックレスを入れておいた。首が悪いので毎日着けているものだが、愛着があるものを母の側に置いておこうと思ったのだ。この身勝手な善行により首の痛みが消えるといいなあ。
寝違えサバ折り、悶絶の四十九日 桑原賢五郎丸 @coffee_oic
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