第7話 きっと僕は悪者なのだろう。

 政治家、議員、総理、言葉だけ聞くが、正直あまり知らない。大人にもなって恥ずかしいだろう。しかし機会が無いのだからしょうがないと、面倒くさがりな僕もまた、どこかにいるのかもしれない。


 コンビニは今日、上機嫌だ。上機嫌と言っても感情があるわけではない。しかし、商店街に燦々と降る陽光が昨夜できた店前の水たまりに反射して、店内の照明に負けんと天井に映る。

 それが僕には陽気に、今日というなんでもない日にコンビニが喜んでいるように感じた。ただそれだけの話しだ。


「今日は有名人が来たりして……」

 都会のコンビニになれば有名人も来るかもしれないがこんなどこにでもある地方の商店街に来るだろうか。


 まだこれから昼という時、朝のピークを乗り切った直後のほんの一区切りの時間だ。

 僕は、店長と乾麺の品出しをしていた。


「店長って、カップ麺とか食べるんですか?」

 台車の向こう側にいる店長になんとなく話しかけてみた。


「うーん、たまに食べるけど、基本的にはシンちゃんの作ったお弁当を買ってくよ」 

 店長は台車の乾麺を数個手に取りながら答える。


「美味しいですよね」


「あと、健康にいいからね」


 最近、店長は健康に気を使っているようだ。


「なにか健……」


 店の扉が開く。お客さんが一人だ。僕は少し違和感を覚える。


 コンビニはなぜか知らないが、一人来ると二人三人と来店する。誰もいないと誰も来ない。と両極端なのだ。


 そのためこんな昼とも朝とも言えない時間に一人だけというのは実はあまり無いのだ。


「いらっしゃ……」

 店長が発言の途中で止まった。僕は、それに目を取られお客さんに挨拶する機会を逃してしまった。


 店長、どうかしたのかな? お客さんが知りあいとか?


「やぁ橋田くん、久しいね」


「おぁ!せ……店長!お元気でしたか?」


 店に入ってきたのはふくよかな体型をしてニコニコしている男性だ。

 服装はやけにきっちりしていて、仕事のスーツというよりは、魅せるスーツといった感じだろうか。胸には市長バッチがついている。


 その他に何もつけていないからか、きれいにシワの伸ばされたスーツも相まって、バッチが一段と輝く。


 別にこの市が特別広いわけでも栄えているでもない。しかし、なんだか有名人に会えたような気がして嬉しくなった。実際、有名人なのだが。


 市長は店長に近づき両手で手を握る。


「無事で何よりです、それより、そこにいるのは?」

 市長は、店長に話しかけると突然こちらに目を向ける。


「あぁ紹介するよ、諸星くんのお孫さんで佐藤くんだ」

 店長は片方の手を市長の方に向けて指す。

「彼は、市長の橋田くんだ、名前くらいは知ってるかな?」

 僕は、市長の出した手に両手で応えた。

 し、市長!本物か。

 実感が次第に湧いてくる、たくさんの人から認められ選ばれた人、なんだか特別だ。


 それにしても店長はどうしてこの人に敬語を使われるようなひとになったのだろう?

 普通に考えて、少し悪い気はするが、いちコンビニ店長が市長に慕われるような事になるだろうか?さらに祖父とも知り合いとは、世界は狭いと感じる。

「諸星さんのそうか、諸星さん成功したんだね」


「せいこう……?」


「まぁ立ち話も何だから、事務所に入りなよ」

 店長は橋田さんを連れてカウンターに入っていく。

「ちょっとお店見てて」

 店長は僕の返事を聞くと、店の中に入っていった。


 なんだか話を濁された感じがする。しかし、あの店長のことだ、なにか悪いことでは無いのは確かだと、心の底から確信していた。


 店を見てて、なんて言われたが品出しも終わったし、僕のやることといえば、笑顔でレジに立っていることだろうか? まだ、次のピークまでは時間がある。今日は店長と二人だったし、作業も早く終わったな。


 僕は、なにかやることは無いかと、周りを探した。少し、スタッフルームに近づいた時、中から話し声が聞こえる。


 普通だったら、聞き耳なんて建てない。しかし中では多分、店長と市長というなかなかお目にかかれない状況が広がっている。


 僕は、周りをキョロキョロとしながら少しスタッフルームのドアに近づき耳を立てる。


「いや、ほんとに久しいね、それで、そっちはどうなの?」


「えぇ、あいつもなかなかうまくやっているようで、表じゃ関われないんですけど……」


 ん? 表では関われないような人? これは聞いていい会話なのか? 僕はいけないことをしているとわかっていながら耳をドアから話せないでいた。


「で、例の計画はどう? 進んでる?」


「僕の方は申し分無いです、彼らもうまく丸め込めました、危うくバレるところでしたが」


「上手く行っているようで何よりさ」


 これは、確信犯だ。今まさにこのスタッフルームの中で行われている会話は、きっとなにか悪い、そうそれこそ国家転覆ぐらいの悪行の会話に違いない。


 あんなに人のいい店長がそんな事に手を染めるなんて、今まで見ていた。店長のあの笑顔は嘘だったというのか。


 僕は不安で見が震える。今すぐにこのドアから耳を話さなければ、きっと今ならまだ全てではないからきっと間に合う。僕の勘違いで終わる事ができるかもしれない。


 僕は、耳を話さなかった。


「じゃあ、こんなところかな?」


「そうですね、電話じゃ今の時代誰に聞かれているかわからないですし」


 その言葉を聞いて僕はとうとうドアから耳を離した。


 やばい! なにかしないと。


 そう思った僕は、近くにあった鑑賞用の植物の葉を触る。


「そんなとこで何してるの?」


 店長は、ドアを開け目の前で鑑賞用の植物をいじる僕を見ると頭をかしげる。


「い、いや、水を上げたほうがいいかなって」


 苦し紛れにしては上出来ないいわけだ。


「それ、水あげなくていいやつだよ」


 確かによく見ると、やけにしっかりした葉だ。きっと水分の少ない土地の原産だろう。


「いや、そうですよね、僕もそう思って、だけど葉のトリミングって大事じゃないですか、見た目大事ですし」


「それ、葉は切らないタイプだけど」

 そうかこれも外れか、じゃぁこうなればやけくそだ。


「土替え時じゃ無いですか?」

 僕は土を指差した。顔は店長たちに笑顔を向けているが冷や汗を掻いている。


「土? 変える必要無いと思うけどな」

 うん、もうこのまま押すしか無い。今までは確定しているような言い方だったが今回は曖昧な返答だ。押し切れば行ける。


「変えたほうがいいですって、そのほうがコイツらも喜びますよ」


「いやぁ、感情ないでしょ」

 なんでそこ否定した!?もしかして、店長、サイコパスなのか? さっきの話も本当に本当で、めちゃくちゃ悪いことをしようとしているってことなのか?


 店長の話は終わっては居なかった。


「だって、それ、造花だし」


「造花!」

 僕は花によく目を向ける。

 よく見ると葉は、水々しく反射しているのではなくプラスチックだから反射しているのだった。


 そりゃあ、水もあげなくていいし、トリミングも土だって変える必要なわけがない。


「なんだ、佐藤くんへんなの」


 そう言うと店長は、橋田さんを連れて店外に出ていく。ガラス戸の向こうから、見送っているのがわかる。


 しかし、何だ、なにか隠している様子はなかった。

 僕の予想では“見たな!”みたいな事になると思っていたがそうはならなかったらしい。

 しかし僕が店長に変人扱いされたことは変わらない事実で、“なんだ、佐藤くんへんなの”と言葉を発しているときの店長の顔は本当に引いているときの引きつった顔をしていた。


「はぁ、もうすぐピークか」


 外の水たまりはさっきより小さくなっている、たぶん今日は一日中仕事に身が入らないだろう。

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コンビニに人がいると誰が言った 次流 鈴奴 @ziryusuzuya225

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