魔法
冬野さくら
取材
ある男が取材をしたいというので、断ったのだが、どうにも好い人な印象を受けて私は受けた。
前から色々取材を受けてはいるのだが、流行ってしまうと困るのと、私が気難しい面を持っているので大半は断っている。
さて、今回はどうなるものか。
「ごめんください、本日取材をさせていただきたく参りました」
「お待ちしてました。さあ、どうぞこちらへお入りください」
私は彼を部屋へと案内した。
「失礼します。何だかこう……すごい臭いがしますね。これも魔法に関係あるのですか?」
「ええ、まあそうですね。この臭いは早急に何とかしようと考えています」
彼は鼻をハンカチで押さえながら、部屋の奥へと進んだ。
「臭いは魔法でけせないのですか?」
「物体のあるものしか効果がないんです」
そういうものですか、と彼は肩をすくめた。
「では、早速ですが今から始めさせていただきます」
「どうぞ」
「今のこの世界で魔法を使えるというのは本当なのでしょうか」
「ええ、そうなんです。ですが、なんでもではなく、消したいものを消し去る魔法です」
「それは物体だけですか?」
「そうですね」
「失礼を承知でのお願いなのですがですが… 私個人としては信じたいのですが、ジャーナリストとして、真偽を確かめさせてもらいたいのです」
「よくわかります。ここに来られる皆さんはまずそうおっしゃいますので」
「では、見させてもらえるのですか?」
「ええ、どうぞ。一瞬ですのでお気をつけて」
「そこは頑張ります!」
「ではこのぬいぐるみで試しましょう」
私は大きなぬいぐるみを持っていこうとした。
「出来れば体感したいのです」
「というと?」
「私の着けている腕時計を消してみてください」
「ですが……」
私は困ってしまった。
どう見ても高そうなその腕時計を消すなんてーー
ああ、そうか。
彼もまた私を馬鹿にしているのだ。
「わかりました。本当にいいのですね?」
「はい! お願いします!」
若干渋る気持ちもあったのだが、彼の挑戦的な眼差しを受けて決意した。
「では」
私はいつも身に付けているペンダントを手に取って、祈るように胸の前で手を合わせた。
そして、宝石を模したペンダントトップを押した。
彼の姿は瞬時に見えなくなった。
「ああ、また駄目だった。この世の中に純真な心を持つ人はもういないのか?」
私は彼が今の今まで立っていた場所へと移動して視線を落とした。そこはもう普通の床にしか見えない。
私の魔法のような技術がないと、ここまで精巧でかつ瞬発的なギミックは作れないと自負している。
「落とし穴なんて古典的ではあるが、これが魔法のようにうまくいく」
私は部屋を後にすると、次は臭いを消す魔法に取り汲むことに決めた。
魔法 冬野さくら @fuyu-hana
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