第50話 主犯格共の品格




「テメェら何をやっている!? あんな少数相手に!?」


「怯むな! 俺達で魔王がから『魔王都』を奪ってやるんだろうが! 目的を忘れるな!」


 サイクロプスのサイトロと、ミノタウロスのミノミヤが大声で叫び指示する。


 『深き迷宮』のリーダー格である二人がいくら鼓舞しようと、構成員であり仲間である魔族達は奮い立つことはなない。

 まだ数では圧倒しているにも関わらず、戦意を失いつつあるのは明白だった。


 元々、忠義や大義を持ない、言わば「ならず者」の集まりだ。

 欲望に赴くまま、自分達も甘い汁を吸えればいいという楽観的な思考で従っている者が大半だろう。


 したがって国に仕える騎士や訓練された兵士達のような統率力や誇り、戦う精神など持ち合わせているわけではない。


 はっきり言えば、こんな所で命を落としたくないと言うのが本音である。


 それにだ。


「――大将となる者が安全圏で、きゃんきゃん吠えているだけでは示しもつかぬであろう?」


 バタバタと魔族達が倒れる中、深紅のドレスをまとった美少女が威風堂々と近づいてくる。

 その手には愛でるように一凛の黒い薔薇が細い指先に摘ままれている。



「あがぁぁあぁぁっ……――!」


 倒れた魔族達は各々絶叫と呻き声を上げる。

 苦しみ肉体が溶解しながら、煙を上げて消えて行く。


「な、何だ……お前は!?」


「わらわはエスメラルダ。偉大なる主、魔王ザフト様に永久とわの忠誠を誓う高貴なる使徒じゃぞ」


「ヴァ、吸血鬼ヴァンパイアか!? しかも四天王クラス!?」


「左様。さぁ、どちらが、わらわに喘ぎ声を聴かせてくれるのじゃ?」


「よし! 行けぃ、サイトロ!」


「え?」


 突然、ミノミヤに振られ、サイトロは声を裏返り聞き返す。


「え? じゃない、行けよ! サブリーダーだろ!?」


「いや、ここは普通、リーダーのミノミヤさんが『小娘がぁ、身の程を知れ!』って息巻く所じゃないっすか?」


「俺は……あれだよ、あれ……いざって時の切り札だよ。いーから頑張れよ!」


「いや、なんか納得いかねーっす。ここはリーダーが示し見せるべきっす!」


「おま……ふざけんなよ! リーダーの言う事を聞かない癖に、なんで俺が真っ先に戦わなきゃ行けねぇんだよ! 困った時だけ、リーダー、リーダー言ってんじゃねぇよ!」


 グダグダと何か揉めだす主犯格の二人。


 エスメラルダは軽く首を振り溜息を吐いた。


「もう良い。二人同時に向かってくれば良かろう……力を合わせれば、わらわを斃せるかもしれぬぞ? 試してみる価値はあるのではないかえ?」


「そ、そうだな……そりゃいいアイディアだぜ。ミノミヤさん!?」


「ああ……ブワーッハハハハッ! 小娘がぁ! 俺達最強コンビが相手になってやろう!」


 尻込みしていた癖に急に態度が大きくなるミノタウロス。


「最初からそうせい――シャドウ・スライム」


 エスメラルダの影が不自然に伸びて広がる。

 影の中から黒く巨大な物体が浮き出てきた。

 まるで粘液の塊のような存在だ。


「な、何だそりゃ!?」


「わらわの影に潜む、可愛いペットの『シャドウ・スライム』じゃ。一般のスライムなど比較にならぬ特異性がある――」


 エスメラルダが指を鳴らすと、黒いスライムは素早く動き出し、周囲の魔族達を一斉に覆い被さりながら包み込んだ。

 そのまま内部に引き込み、じわじわと身体が溶かされていく。


 シャドウ・スライムの体内で消化されながら喰われているのだ。

 それは武器や装備、衣服の全てに至るまで影響を及ぼしていた。

 

 取り込まれた魔族達は、恐怖と絶望で顔を歪めながら藻掻もがき続け、助けを請いている。

 簡単には死ねず、頭部から全身が溶かされ、骨になるまで延々と最後まで苦悶していた。


「ひぃ、ひぃぃぃ!」


「なんて酷でぇ!」


 あまりにもおぞましげな惨劇ぶりに、サイトロとミノミヤは驚愕し絶句する。


「なぁに、あえて消化吸収を遅くするよう躾けしておるのじゃ。偉大な主、ザフト様に反旗を翻す愚か者達への見せしめとしてのぅ……ククク」


 エスメラルダは笑いを堪えている。

 サディストでもある吸血鬼女王ヴァンパイアクィーンにとって、この状況は最も楽しくて仕方ないシチュエーションだ。


「うわぁぁあぁぁぁ、もう嫌だぁぁぁ! 助けてくれぇぇぇぇ!!!」


 あちらこちらで発狂し泣き叫ぶ悲鳴が聞こえる。


 その悲惨すぎる光景に恐怖して逃げ出す者達が出てきた。


「お、おい! お前ら何逃げてんだ!? 最後まで戦え!!!」


 リーダーのミノタウロスがいくら呼び止めようが、仲間達は聞く耳を持たず暴動を起こしたかのように出口の穴へと逃げ出している。


 エスメラルダは呆れた様子で双眸を細めた。


「フン、安心せい。こんなこともあろうかと、全ての出入り口に、わらわの『吸血鬼ヴァンパイア部隊』が待ち構えておる。逃げた者全員捕らえた後、わらわの玩具として拷問具の被験者になってもらう……死ぬまでなぁ」


 冷酷な微笑みを浮かべながら「それはそれで好都合……」と呟く。


 ミノミヤとサイトロは、この洞窟内は既に地獄と化していることをようやく気付く。

 仮に逃げても、更なる苦しみが待ち受けていることを悟った。


 シャドウ・スライムが粘液上の体を広げ、サイトロの足元にまで及ぼうとする。


「うぐぅ!」


 足を引き逃げようとした時、左腕が巨大スライムにからめ捕られてしまった。


「は、離せぇ! 嫌だぁ、ミノミヤさん、助けてぇぇぇぇ!!!」


「サイトロ!?」


 助けを求められる、ミノミヤ。

 しかし巨漢を震わせたまま足が竦み動けないでいる。


「嫌だぁ! 嫌だぁ! 嫌だぁぁぁぁ! 離してぇぇぇ! あんな死に方したくねぇぇぇだよおぉぉぉぉっ!!!」


 サイトロの左腕が徐々に引きずり込まれ、喉が裂けてしまうほど泣き叫ぶ。



 ズバァァァ!



 サイトロは何を思ったのか?

 腰元に隠し持っていた戦斧を取り出し、捕らわれた自身の左腕を付け根部分から切断したのだ。


「ぐぅ、痛でぇ! だが、あんなのに殺されるくらいなら――」


 肩口から鮮血が吹き出すも、動じた様子は見られない。

 寧ろ何か吹っ切れたように無我夢中で駆け出し逃げて行く。


 サイトロの逃走する姿は、ある意味何か清々しさを感じてしまう。


 奴が向かった先に、黒い魔剣を振るうダークロードの姿があった。


「この黒騎士に殺された方が、余程まだマシなんだよォォォォォッ!!!」


 サイトロは戦斧を捨てる。

 殺してくれと言わんばかりに右腕を掲げ、ダークロードの攻撃射程内へ迫った。


「何だ、こいつ――まぁいい」



 ――斬ッ!



 ダークロードはついでにと言わんばかりに、他の魔族達と一緒にサイトロの首を刎ねた。


 サイクロプスのサイトロは何故か勝ち誇った表情を浮かべ絶命し、その頭部は宙へと舞う。


 偶然なのか、それとも狙ったのか、ミノミヤの足元へと落ちて転がった。


「ああ、あああ……」


 サブリーダーのサイトロの死様を目の当たりにした、ミノタウロスのミノミヤ。

 その様子から悲しむどころか、畏怖して身体が動けないでいるようだ。


「ほう……自ら死に方を選ぶとはなぁ。本来なら、もっと藻掻き苦しませ懺悔させながら己の愚かさを詫びさせる予定であったが……まぁ、どうでも良いわ」


 エスメラルダはあっさりと割り切ると、ミノミヤをじっと見据える。


「――何せ、ここに最良の玩具があるからな。ミノミヤだっけ? 貴様だけは絶対に逃がさぬからな。覚悟するのじゃぞ」


「ひぃぃぃ! すみません! ごめんなさい! どうかお許してくださぁぁぁぁい!」


 ミノミヤは戦斧を地面に置き、エスメラルダに向けて土下座した。






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

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いきなりエロ魔王に転生した俺、実は最強の死霊王だった件~頼もしい部下達を従え勇者達に復讐してみた 沙坐麻騎 @sazamaki

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