第49話 殲滅戦の開始




「とにかく、人間の小娘ばかりにうつつを抜かす魔王に支配する資格はない! この『魔王都』は俺達『深き迷宮』が支配する!」


 ミノタウロスの息巻く主張に、ダークロードは「フッ」と鼻で笑う。


「革命思想か? 仮にお前らが支配できたとして、一体『魔王都』の何を変えてくれるんだ?」


「俺達『深き迷宮』に逆らえない自由な社会を築き上げる! その上で好き放題、暴れ回って地上を支配してやるんだよ! それが魔族の本質、在り方ってやつだろ!? ろくに侵略もできない、あの糞エロ骸骨より上手くやってやるぜぇ、ギャァハハハハ――ッ!!!」


 ミノタウロスは嘲笑し、サイクロプスや他の魔族達も一斉に笑い出す。


 魔王ザフトの素行もあるとはいえ、あらゆる魔族達に君臨する魔王に対しての威厳は微塵もないようだ。


 奴ら『深き迷宮』が掲げる思想や動機に、革命や変革による大義名分や品格などは一切ない。

 ただ仲間を集めやすくため、『反魔王派』を掲げているだけの、ならず者の集団。


 それが実体であった。


「……なるほど、よくわかった」


 ダークロードは静かな口調で言いつつ、単独で前へと歩き進んで行く。


「お前らのような下衆な輩にそう思わせてしまっている、ザフト陛下も隙だらけであり事の発端と責任は否めない。そこは側近である俺達側の責任でもある……素直に反省し詫びも入れよう」


 近づいてくるダークロードに、武器を持った20名程の魔族達が不敵な笑みを浮かべながら周りを取り囲む。


 ダークロードの足取りがピタリと止る。


「但しだ――」



 ――斬ッ!



 刹那の瞬間。


 囲んでいた魔族達の首が吹き飛ぶ。


 首のない身体から鮮血を吹き出し、そのまま膝を崩して倒れた。

 そして唖然とした表情を浮かべる生首が、ぼとぼとっと地面に落ちて転がる。



 ダークロードはいつの間にか剣を抜いていた。


 漆黒色に染められた『バスタード・ソード』である。

 その剣身から妖しげな魔力が溢れ、ゆらゆらと湯気のように漲る『魔剣』だ。


「何だと!?」


 その光景に、ミノタウロスのミノミヤは驚愕する。


「――魔王ザフト様を糞エロ骸骨と言って良いのは、この世で俺だけだ」


「いえ兄上、普通に駄目ですよ!」


 遠くの方で、妹のハナが指摘しながら駆け出してくる。


「ふ、ふざけやがってぇ! テメェら、やっちまえぇぇぇ!」


 ミノミヤの合図で、魔族達は一気に雪崩込み、ダークロードに襲い掛かってきた。


 ほぼ同時に、ハナが合流する。


「兄上、久しぶりに参りますよ!」


「わかった、ハナ――来い!」


 ダークロードが指示すると、ハナは被っている兜の面甲を下げ、フルフェイス状態のまま高く飛び跳ねた。


 すると、幼い身体だけが兜の中に吸い込まれ『漆黒の兜』だけの状態となる。


 兜は宙を浮いたまま、くるくると回転し洞窟内を移動して行く。

 両目の窪み部分が赤く発光して、襲って来る魔族達に向けて照射された。


 ダークロードの双眸も赤く輝き出す。


「索敵完了――これより殲滅する!」


 ダークロードは疾走し、瞳から赤い残光が線を帯びる。

 目で追うのも困難な速さで、敵陣に向かい漆黒の魔剣を振るう。



「ぎゃあぁぁ!」


「こいつ強いぞ!?」


「なんて速さだ!? た、助けてぇぇぇッ!」


 先頭から向かってきた魔族達が悲鳴を上げる。


 ダークロードは、その圧倒的な速さで縦横無尽に無駄のない動きで、次々と魔族達の首を刎ねた。


 しかも後ろから襲ってくる敵を一切振り向かずに先手を打ち斬りつけ薙ぎ倒している。


 また弓矢など死角からの遠距離攻撃も、いとも簡単に躱して弾いては、他の魔族に食らわせるなど隙のない戦いぶりを見せていた。


 一見して勇猛果敢な戦いぶりだが、勘の鋭さを通りすぎて奇妙な違和感を覚える。


 まるで、敵の動きを事前に察知して予知しているかのようだ。



「流石、ダークロード殿。魔王軍No.3の実力……加勢する必要など一切ありませんな」


「お姉ちゃん、感心しちゃうな~」


「本当、ザフト様の次にカッコイイねぇ」


 離れた場所で眺めている、ケル、ベロ、スゥが感嘆の声を漏らしている。


「汝ら、ダークロードの正体を知っておるか?」


 エスメラルダは微笑を浮かべ、三人の半獣娘達に聞いている。


「勿論であります。『デュラハン』ですな?」


「でも、ダークロードさんって首はちゃんとあるのよね~?」


「そういや、妹のハナって『兜』だけになったまま、ずっと天井付近を彷徨っているよなぁ?」


「うむ、あやつらは汝らと同じ、二人で一つの存在じゃ。したがって、あのハナが本来のデュラハンとして『首』のポジションになるのだろう」


 本来のデュラハンとは、首と胴体が切り離された騎士である。

 その風貌から「死を予言する存在」とされるも、死霊ではなく元から頭と胴体が分離している魔族であり、さらに遡ると妖精族にあたるらしい。


 つまり『兜』として頭部と化した妹のハナが、所謂『目』としてダークロードの背後や周囲を鳥瞰ちょうかん的に索敵し、瞬時に情報を与えているのだ。

 元は一つの存在であるため、お互いに以心伝心が図れるのだろうか……そこまでは不明である。


 どちらにせよ、今のダークロードには一切の死角はない。

 瞬時に敵の攻撃や動きの全てが予知できるのだ。


 まさに魔王軍最強に位置する一騎当千の黒騎士と言える。


「――では、エスメラルダ殿。ダークロード殿の素顔は擬態なのですか?」


「いや本物じゃ。だから生まれた時から、デュラハンの一族から異端として距離を置かれて孤立していたのじゃ。そんな中、我が君であるザフト様に拾われたと聞いておる」


 ケルの質問に、エスメラルダは親愛を込めて主の名を出した。

 どのような経緯で、最上級クラスである彼女達が魔王ザフトに仕えるようになったのかは不明である。


「だから双子なんだね~。なるほど、確かにお姉ちゃん達に似てるよね、スゥちゃん」


「うん、まぁね。ウチらの場合、ベロが『長女』ポジを譲らないけどねぇ?」


「だって、お姉ちゃん方が一番おっぱいが大きいんだもん! おっぱい順からケルちゃんは次女で、スゥちゃんは三女だよ~ん!」


「その決め方がイラっとするんだよ! ケルも何とか言ってやってよぉ!?」


「二人共、揉めている場合か!? 自分らも加勢するぞ!」


「「はぁ~い」」


 ケルに嗜まれ、三人の半獣娘達は『魔獣融合合体デモン・フュージョン』し、三頭首の巨大獣こと、地獄の番犬『ケルベロス』の姿となった。



 ガアァァァオオォォォォォォン!!!



 ケルベロスは咆哮し、広大な洞窟内を震わせる。

 そのまま敵陣の中へと突進した。


 三頭の口から闇の炎が吐き出される。


 その火炎はまさに業火の如く。

 次々と『深き迷宮』の魔族達を次々と焼き払い塵と化し蹂躙していく。


「ひぃ……!」


「つ、強すぎる!?」



 黒騎士とケルベロスの圧倒的な強さを前に、『深き迷宮』の魔族達は戦慄する。

 命が惜しくなった者が増え初め、先程の勢いは消失し、次第に後退していくのが明白に見えた。

 

 後方側で待機し眺めている、ミノタウロスとサイクロプスは苛立ちを隠せないでいた。






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