第48話 潜入、無窮の鉱山




 しばらく移動した後、『無窮の鉱山』に辿り着いた。


 複数ある洞窟の出入り口に見張りの魔族がいる。


 吸血鬼部隊の精鋭達が蝙蝠コウモリに変身し、気づかれないよう見張りの魔族達に接近して全て瞬殺した。



 その報告が部隊長であるエスメラルダに届く。


「では、他の『吸血鬼ヴァンパイア部隊』は配置に着くのじゃ――」


 エスメラルダが指示すると、後方で待機していた200名近い吸血鬼達は一斉に動いた。


「――俺達は堂々と正面から攻めて行こう」


 ダークロードの言葉に各側近達が頷き、共に洞窟に入った。




 通路は差ほど広くなく、天井も高くない。

 三人ほど並んで歩けば丁度いいくらいである。


「こんな場所では、自分らの魔獣融合合体デモン・フュージョンはできませんな……」


「中央部の採掘場は広い空洞となっている。そこなら好きなだけ暴れられるだろう」


 懸念するケルの言葉に、先頭を歩くダークロードは冷静に応える。



 束の間。


「侵入者だぁぁぁっ!」


「堂々とやって来やがってぇ!」


「見張りはどうした!?」


 奥側から複数の声が響く。


 すると、10人くらいの武装した魔族達が襲ってきた。

 間違いなく、『深き迷宮』の組織に所属する者達である。



「誰が行く? わらわでよいかえ?」


「任せよう」


 エスメラルダが前に出でる。

 返事をしたダークロードを初め、仲間達は後方へと下がった。

 

 迫りくる魔族達に対して、エスメラルダは片手を翳し、そこから一輪の『黒い薔薇』を出現させる。


 細い指先で薔薇を摘み、宙を浮くような軽い足取りと無音で、すぅっと魔族達の間を通り過ぎた。


 すると、10名の魔族達はバタバタっ倒れていく。


 しかも、それだけではなかった。


「ぎゃぁぁぁぁ! く、苦しいぃぃぃっ! 熱い! 熱いよぉぉぉ」


「と、溶けてるゥ! 俺の身体が溶けてるゥゥゥ!?」


「死ぬ……助けて……誰か助けてェェェェ!!!」



 無数の悲鳴と絶叫が響き渡り、魔族達の全身から煙が立ち昇っていた。

 肉体がどろりっと崩れ、泡のようにぶくぶくと蒸発しながら溶解している。

 その影響は内臓や骨にまで及び、最後は泡と煙となって全て消えた。


 唯一、魔族達が身に着けていた衣服と装備品だけが、無惨にエスメラルダの足元で転がっている。


「――《薔薇の瘴気ローズ・ミアズマ》。わらわの魔力で生成された薔薇じゃぞ。この薔薇から放たれる花粉を浴びた者は、皆あのような蝕む形で徐々に肉体が溶解し崩れ去っていく。やがて蒸発して無になるじゃ。命が尽きるまで絶望し、散々もがき苦しんだ挙句にな……フフフ」


 エスメラルダは不敵の笑みを浮かべた。

 魔王軍きっての拷問のスペシャリストと認められているだけに、一気に始末することのない手法が残忍である。


「お主、相変わらず悪趣味だな」


「兄上、あれが鬼畜という類ですね!?」


「うむ、危険吸血鬼ヴァンパイアとして、後で身柄拘束ですな」


「お姉ちゃん、あれはやりすぎだと思う……」


「流石に引くわ~」


 側近達ですらドン引きした。



 その後も『深き迷宮』の魔族達が束になって襲ってくる。


 エスメラルダは率先して先陣を務め応戦する――そこまでは良かった。


 が、


「もっとじゃ! もっといい声で喘ぐのじゃ! キャハハハァァァッ!」


 っと、喜悦しながら本性剥き出しで魔族達を葬っていったのだ。


 エスメラルダの残虐行為を楽しむ表情から、明らかに大義を忘れ、己の趣味に没頭している様子である。


(誰よ、こいつ同行させたの……あっ、ザフト陛下だったわ)


 各自、見て見ぬ振りをしがなら、そう思った。




 ようやく洞窟中央の採掘広場へと到着する。


 所々に松明がい設置かれており、内部は明るく見通しが良い。


 したがって、すぐ『深き迷宮』の魔族達が武装した状態で待ち構えていることに気づいた。

 既に敵が迫っていると知っていれば当然の準備だ。


 ぱっと見た感じからも、900人以上はいるだろう。

 ほぼ全勢力が集結しているに違いない。


 それだけの魔族達が固まっているにも関わらず、洞窟内は密集せず半分以上の余裕があり、天井も暗く見えないほどに高い空間だ。



 『深き迷宮』の構成員は、ゴブリン、オーク、コボルトの低級魔族から、リザードマン、トロール、オーガなどバラエティに豊富である。


 そして、それら大軍の後方に一際目立つ巨漢を持つ魔族達が二人いた。


 一人は単眼で隆々の体躯を持つ巨人、サイクロプス。


 もう一人は牛の頭部を持つ屈強の戦士、ミノタウロス。


 双方とも、お揃いと言わんばかりに、巨大な鋼鉄製の『戦斧』を握りしめている。

 しかし、あの巨体でどうやって洞窟内に入り込んだのか不明だ。



「どうやら、あのサイクロプスとミノタウロスが『主犯格』のようだな?」


 ダークロードは平然と呟き臆することなく、広場に入って行く。

 他の側近達も顔色一つ変えることなく、平然と後へと続いた。



 ミノタウロスは大きな角笛のような物体を口に当てる。


「貴様ら、魔王軍だな!? そろそろ嗅ぎつけてくると思ったぞ!」


 洞窟内に声が響き渡った。


 ダークロードは頷き、大きな声を発するため自身の喉元に指を添え魔力を施す。


「俺は魔王軍、親衛騎士団長のダークロードだ。我が主の勅命で、貴様らを討伐しにきた。大人しく降伏の意志を見せれば命だけは助けてやれとも言われている。但し罰として、数十年は鉱山でただ働きを命じられるだろうがな」


「ハン! 笑えねぇ冗談だな。親衛隊隊長……もろ魔王軍の側近だな。後ろの女共も四天王か貴族階級の魔族か……どうりで見張りや他の連中が戻って来ない筈だ……まぁいい。ざっと見たところ、男1人と女5人程度……いくら、側近でもこれだけの数に勝てる筈はない!」


 ミノタウロスは楽観的に言い放つ。

 勇者パーティ達ですら恐れ慄く大幹部達を前に、随分と軽視している様子だ。


 しかし、これまで魔王ザフトの醜態ぶりを知っている輩にとって、その者に仕える側近達も大した存在じゃないと思えてしまうのも無理はないかもしれないが。



「ミノタウロスよ。見た所、お前が『深き迷宮』のリーダーか?」


「そうだ。俺は『ミノミヤ』っていう名だ。隣はサブリーダーのサイクロプス……」


「『サイトロ』様だ。冥土の土産に覚えておけ!」


「どうやら俺達と戦う気満々のようだな? 余程腕に自信があると見える」


「自信じゃねぇ! 魔王ザフトとテメェらを舐めてんだよ! あんなイカレ骸骨野郎に使われている連中に、自由を愛する俺達が負けるはずねぇってな! ギャハハハハ!」


 サイトロが挑発し嘲笑う。


 その言葉にダークロードの後方に立っていた、ケルが過敏に反応する。


「貴様ァ! ザフト様の悪口は言わせんぞ!」


 ダークロードは振り向き、小声で「落ち着け、ケル」と軽く制した。


「なるほど、だから反乱を起こしたってのか?」


「ああそうだ! あんな好色の糞骸骨野郎が『魔王都』を牛耳るくらいなら、俺達が治めた方がましだと思うのは当然だろうが!?」


「うむ、確かに」


「ダ、ダークロード殿!?」


 真っ先にケルがツッコミを入れた。


「兄上! いくらなんでも、そこ、同調してはいけませんよ!」


「うむ、どうやら妹の方が親衛騎士団長に相応しいようじゃのぅ」


「……すまん、ついな」


 ハナとエスメラルダにも窘められ、ダークロードは苦笑いを浮かべる。


 長年、糞エロ骸骨から色々と苦渋をなめられていた親衛隊長の黒騎士だからこそ思う所もあるようだ。






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