第47話 黒騎士の受難




 数時間前。


 魔王ザフトの指示にて、反魔王派の組織である『深き迷宮』の討伐に向かった側近達。


 親衛隊隊長の黒騎士ダークロード。


 魔王軍四天王の吸血鬼女王ヴァンパイアクィーンエスメラルダ。


 魔王軍四天王であり衛兵隊長のケル、ベロ、スゥ。


 その他はエスメラルダの配下であり、選抜された吸血鬼部隊の精鋭隊が200名。


 これらの者達は『魔王都』より、さらに地下にある『無窮の鉱山資源』へと向かっている。

 現在は連中の根城と潜んでいる場所だ。


 『無窮の鉱山』は、地下都市である『魔王都』を彷彿するような広大な空洞があり、中心に一面を覆うように巨大な山である。


 だが、山と言っても高々な峰ではなく、平べったい円台ドーム型だった。

 その不自然な形は溶岩の積み重ねや地表同士の接触で出来上がった山ではない。

 何かしらの意図的に何者かが手を加えたような人工的な鉱山だ。


 ちなみに鉱山は、様々な箇所に開けられた穴のような出入口がいくつも存在している。


 穴の通路は所々連結されている部分もあり、複雑ではないがちょっとした迷路場にもなっているらしいのだ。




「モエトゥルが入手した情報で、鉱山内のどの穴蔵に連中のアジトがあるのじゃ?」


 一行はダークロードを先頭に鉱山に向かうルートである地下階段を降りている。


 黒騎士の背中越しで歩く、エスメラルダが尋ねた。


「出入口が複数で通路は迷路状だが発掘場は一つだ。そこに連中はたむろして集会しているらしい。見つけるのは容易い、だが……」


「取り逃がした場合のことじゃな?」


「そうだ、糞エロ骸骨……いや陛下からのめいもある。一匹残らず殲滅するのが俺達の任務だ」


「相手は1000人規模、何名か取り逃がしてしまう可能性もありますね……」


 エスメラルダの後方を歩く、ケルが怪訝の表情を浮かべる。

 ダークロードは足を休めず、一瞬チラッと後方に視線を向けた。


「そうだ。そうならない為にも、エスメラルダの部隊に協力を頂きたい」


「わかっておる。各出入り口前に、わらわの配下達を数名ずつ配置させようぞ」


「助かる。中心部は俺達だけで十分だ」


 その時、後方がざわついた。

 何かハプニングがあったようだ。


 甲高い声で「すみませーん! 通してくださーい!」と叫ぶ者がいる。


 ダークロード達は立ち止まり、その者の姿を確認した。


 小さな幼女の姿をしている。年齢は人間で言えば7~8歳くらいだろう。

 漆黒の兜を被り、顔面部分の面甲を跳ね上げ、くりっとした大きな黒瞳の可愛らしい顔を覗かせている。

 それ以外の装備らしい物は身に着けておらず、ミニスカートタイプの軍服を着用している。



「兄上!」


 幼女は、先頭にいる黒騎士に向けて手を振った。


「なんだ……ハナか。何しにきた、帰れ」


「水くさいです! 敵は大勢と聞いておりますよ! であれば、ワタシの力が必要なのではありませんか!?」


 ハナと呼ばれた幼女は拳を握りしめ声を張って拒否する。

 見た目によらず、滑舌よく丁寧で力強い口調だ。


 ダークロードは幼女を睨みつける。


「これは戦じゃない。ただのゴミ掃除だ。したがって、お前の力など不要だ。城に戻って、おやつでも食べてろ」


「そんな……ここ数十年以上も戦などないではありませんか!? このままではワタシの『目』も鈍ってしまいますぅ!」


 ハナは黒騎士の長い足にしがみつき、うるうると瞳を潤ませ首を横に振るう。

 ダークロードは「やれやれ……」と溜息を漏らした。


 その後ろで、エスメラルダは「フフフ」と微笑を浮かべている。


「連れて行けばよいではないか? その者の能力は、わらわも知っておる。多勢相手の掃討戦には役に立つのではないかえ?」


「エスメラルダ様、ありがとうございます!」


「……仕方ない。皆の足を引っ張るなよ」


「はい!」


 ハナは元気よく返事をして、ダークロードから離れる。

 敬礼して見せると、兜がズレて視界を塞いでいた。


 ケルとベロとスゥの半獣娘達は、その様子を微笑ましく見つめている。


「ほぅ、その子がダークロード殿の妹であり親衛隊の紅一点ですな?」


「可愛いね~、歳いくつぅ~?」


「あんま兄貴に似てないねぇ」


「そいつは見た目で『妹』扱いになっているだけだ。何せ、双子だからな。ひょっとしたら『姉』になるかもしれん」


「「「双子!?」」」


 ダークロードの言葉に、三人は声を揃えて驚く。


「お主らが驚くな……お互い似たようなもんだろ?」


「事実上、同一の存在とはいえ、ワタシは『兄上』として尊敬していますぅ!」


「あ、ああ……なるほど、そういう存在ですな。しかし男女別とは珍しい……」


 双子と自称するダークロードとハナの言葉に、ケルが苦笑いを浮かべて納得する。


 自分達も元は『ケルベロス』という単体の魔神獣。

 それが三つの存在に別れ、現在に至っている。

 きっとダークロードとハナもその類なのだろうと思った。


「俺にもわからん……物心がついた時、既にザフト様に拾われていたからな。だが本来の一族では、俺達は腫物の異端扱いだった」


「うむ、わらわも知っておるぞ。だからこそ、貴殿らは魔王軍でも群を抜いているのじゃろう……二人揃えば、マリーベルより強さは上ではないかえ?」


「あくまで数値上の話だ……マリーベルとて奥の手は何重も隠し持っている。何せ、最も長く陛下に仕えているサキュバスクィーンだからな……これまで魔王軍を維持できているのも、副司令官としての彼女の功績が大きい」


 エスメラルダの言葉に、ダークロードは謙遜して答える。


 共に魔王ザフトに仕える側近とはいえ、互いの能力や実力はステータスの数値上でしか、わかっていない部分が多い。


 各自どのような経緯で魔王ザフトに仕えるようになったか不明であり、これまで大きな戦闘もなかったこともあり、互いの能力について断片的でしか知らないのだろうか。

 またはダークロードが言うように、各々が奥の手を隠し持っているのかもしれない。


「あやつの手腕と実力は認めよう……だが女としては認めんぞ! ましてや、ザフト様の正妻など片腹痛いわ!」


「エスメラルダ殿の仰る通り、あの不埒な副司令官殿は盛りのついた猫以下であります!」


「隙あればザフト様に抱き着いちゃって~、お姉ちゃん達もプンプンだよ~!」


「特に今回の復活後から酷いねぇ……前はあそこまで酷くなかったような気がするけど?」


 本人がいないことをいい事に、側近の女子達が不満を漏らしている。


「お主らの言いたい事も理解できる。だがマリーベルは仮にも上官だ。気持ちはそこでとどめておけよ。それに陛下も最近、変わったのも事実だからな……案外、骸骨姿から肉体に戻って、サキュバスとしての本能に目覚めたかもしれない」


 ダークロードに窘められ、女子達は不満そうに「は~い」と返答している。

 

「流石、兄上! No.3の威厳は伊達ではありませんね!」


 ハナはそんな兄と称する黒騎士の手を繋ぎ、誇らしく見つめている。


 魔王軍唯一の『黒一点』の側近であり、ダークロードは頭を抱えながら「やれやれ」と呟くのであった。


 どうやら、彼の受難は魔王ザフトだけでなく、取り巻く側近達にもあるようだ。






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