第四章 反乱分子の掃討

第46話 クリアするべき課題




「光栄でございます、ザフト様」


 俺の言葉に、ペコパンは笑みを浮かべ頭を下げて見せた。


「二人を呼んだのは他でもない。準備を整え次第、再び地上で諜報活動をしてもらいたい」


「わかりました。私だけじゃなく、このペコパンもでしょうか?」


「そうだ。共に活動しながら、彼に魔王軍のルールを教えてやってくれ。その方が、ペコパンにとってもいいだろう」


 カリシュアの問いに答えながら、俺は奴に向けて親指を立てて見せる。

 こっそりとペコパンも親指を立てて返してくれた。


 うむ、すっかり奴と恋バナ友達として友情が芽生えたようだ。


「本当、こう見るとお二人は、とてもお似合いですわ~。そう思いません、ザフト様ぁ?」


 マリーベルが頬に手を当て、大袈裟に声を上げる。


「――何が言いたいの、マリーベル?」


 カリシュアの顔つきが変わる。

 刃のような鋭い眼光で、マリーベルを凝視している。


「うふふ~、別にぃ~! ただこれでザフト様の正妻候補が一人脱落したと歓喜しているだけですわ~!! おーっ、ほほほほ!!!」


 本心をぶち撒けて高笑いする、小悪なサキュバスクィーン。

 ところでいつから、俺に正妻候補がいるわけ?


「貴方の思い通りになんてならないわ! 私だって、ザフト様に身も心も捧げる覚悟でお仕えしているんだからねぇ!!!」


 カリシュアがブチギレ反論してくる。


 おいおい、気持ちは嬉しいけど、そういうことはペコパンの前で言わないほうが良くね?


 しかしペコパンは微塵も動じない。

 寧ろ優しく温かな眼差しで、カリシュアを見守っている。


「あら~、でもぉ、カリシュアさん……貴方にはも~う、素敵な殿方がいらっしゃるではございませんかぁ?」


 マリーベルの嫌味たっぷりの皮肉に対して、カリシュアは可愛らしい舌をべーっと出した。


「ペコパンには全て打ち明けた上で、自分から部下になってくれているのよ! 残念でしたぁ! ねぇ、ペコパン!?」


「ああ、その通りだ。俺を許して頂くよう、陛下に進言してくれたカリシュア様に感謝して部下として御使いしている」


「ほら、見なさい! 私とペコパンは上司と部下であり、清き親友なのよ! 貴方みたいに万年発情しているサキュバスクィーンとは違いますぅ!」


「くぅ~、誰が万年発情しているですって~! わたくし悔しいですわ~! ザフト様ぁ~ん!」


 マリーベルは悔しがりつつ、俺に抱き着いて泣いている。

 この子はメンタルが強いので、きっと抱きつきたいための嘘泣きだと思う。


 案の定、モエトゥルとカリシュアから「そういう所が発情しているのよ!」と激怒されていた。


 にしても、ペコパンの奴……。


 まずは部下として友達として、時間を掛けながらカリシュアと親密になっていく算段か?


 やるな……あいつ。


 伊達に前世の記憶を持っていない、高度な大人の駆け引きだ。


 今度、教えてもらおうっと。


 モエトゥルとカリシュアの二人に、マリーベルが引き離されたところで、ふと机に置いてあった書類に目が入る。


「そうそう、二人共。まず、この国へ行き諜報活動を行ってくれないか?」


 俺はカリシュアとペコパンに書類を渡して見せる。


「これは地上の各国へ散らばっている、私の部下からの報告書ですね?」


「そうだ『隠密部隊』だ……マリーさん、副司令官として説明頼むよ」


「はい。先日、我が魔王軍が占領している『テルノア国』が、ある国の軍勢によって奪取されたと報告が挙げられておりますわ」


「知っていると思うが、我が魔王軍は勢力的に地上への侵略はしていないも、遠い過去においていくつか侵略に成功し植民地とて開拓している。『テルノア国』も辺境の小国ながら、貴重な領土であったのだが……最近、侵攻を受け落とされたようだ」


 俺からの補足に、カリシュアはピクリと整った眉を上げる。


「ザフト様、どの国でありましょうか?」


「――ゲリグフ帝国。カーリなら聞いたことあるだろ?」


 ちなみに普段、俺はカリシュアのこと「カーリ」と呼んでいる。


「はい。数百年前まで、それこそテルノアと変わらない辺境の小国でしたが、二代目だかの新王が活躍し大陸の一角を支配するまで拡大して、『帝国』を名乗るようになったとか?」


「そうだ。それからの数百年は広大な国力を維持するため目立った行動はなかったのだが、新しい国王……いや帝王か。そいつが即位してから再び動きを見せるようになったらしい。しかも、真っ先に魔王軍が支配する領土へな。これは、どういうことを意味するのか……」


「ザフト様に対する挑戦状……ですね」


「そうだ。それに新しく皇帝に即位した奴も、何か胡散臭いという情報が入っている」


「胡散臭い?」


「そいつは本来なら王家とは関係ない、ゲリグフ帝国の領土内に住む民間人らしい。先代の皇帝に女子しかいないという理由で婿養子として結婚し、皇帝として即位したそうだ」


「へ~え。庶民からすれば、まるでおとぎ話みたいな話だ」


 ペコパンの感想に、俺は苦笑いを浮かべる。

 自分のことを言われている気がしたからだ。


「それで問題は、ここからなんだが、その皇帝は元々『勇者育成委員会』から選抜された『勇者』らしいんだ」


「「勇者!?」」


「ああ。っということはだ……そいつは『勇者が率いる少数パーティ』ではなく、『勇者が率いる大軍隊』として、この魔王ザフトを討伐しようと目論んでいると確信している」


「勇者が軍隊を……」


「その為に、カーリとペコパンに『ゲリグフ帝国』に潜む自分の部下と合流し、共に諜報活動に当たってほしい。その勇者を中心とした情報や戦力など、逐一俺に報告してくれ」


「わかりました」


 カリシュアが頭を下げる一方で、ペコパンが前に出てくる。


「陛下、ご許可を頂ければ現地でその勇者の首、この私が取ってみせましょうか?」


 うむ、ペコパンの暗殺術は一級品だからな。

 死神族グリムリーパーになり、さらにレベルが向上したに違いない。


 しかしだ。


「気持ちは嬉しいけど、まずは相手を見極めてからかな……どうしょうもないクズだったら、その時は頼むよ。ただテルノア国の領主が人質に取られているからね……長年、魔王軍に協力してくれた数少ない人間の理解者だ。出来れば、そちらの救出を優先してほしい」


「わかりました。どうかお任せを――」


 ペコパンは一礼し、カリシュアと共に姿を消した。

 いいなぁ……二人、息が合っていて。


 しかも、他国への調査……絶対に恋人の振りして潜入するんだろうなぁ。


 俺はペコパンが見せる忠誠心よりも、好きな子と一緒に居られることに羨望してしまう。

 だって、カリシュアと一緒にいるだけで嫉妬するくらい幸せそうな顔してんだもん、あいつ。


 いいなぁ……俺もセイリアに会いたい。


 っと、現実逃避している暇はないな。


 我が魔王軍の再発足には、色々と課題が残されている。

 それをクリアしなきゃ、とても世界征服は目指せない。


 まずは、ダークロード達が向かっている、反魔王派『深き迷宮』の討伐任務からだ。






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

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