第45話 ようこそ深淵の闇へ




「いいなぁ、ペコパン……セイリアもいっそ魔族に……いや何言ってんの、俺? そんなの駄目に決まってるでしょ!」


 あれから執務室にて。

 俺は椅子に座り、一人でノリツッコミしている。


 何故、あの男に俺がシユンであることを打ち明けたのか、自分でもよくわかっていない。


 なんて言うか……一目見て、それに値する奴だと感じたからかな?

 

 それにライギス、いやペコパンが羨ましかった。


 あんな一途に好きな子のために突っ走れる彼が――。


 いくら節操のなかった勇者だったとはいえ、そう簡単に人間を捨てることなんてできやしない。

 躊躇なく、すぱーんっと言い切っちゃうんだもんな~。



 ――俺とセイリアはどうなるんだろう?



 言っとくけど、セイリアのためなら魔王なんていつでも捨てれるよ。

 一途さだけなら、ペコパンには負けないからね!


 けど魔王を捨てる=死ぬ、じゃ意味なくね?


 ペコパンから手に入れた《輪廻転生リインカーネーション》の能力なら、俺の魂を別の母体に移して、人間として復活できるだろう。

 しかも能力効果で、魔王ザフトとしての能力も継承された上でな……。


 だけど、それじゃセイリアと歳が離れすぎちゃうし、そもそも彼女以外の女性と関係を持つなんてできやしない。


 それに俺にはもう、見捨てられない仲間達が……。



「――兄様。ペコパンの改造手術、無事に終わりました」


 モエトゥルがフッと姿を見せる。


「そう、落ち着いたらカリシュアとここへ来るように伝えてくれ」


「わかりました」


「ダーさん達の件はどうなった?」


「はい、回収した『脳』から情報を抜き出し確証を得るまで、些か時間が掛かってしまいました。これから討伐に向かうところです……申し訳ございません」


「いや、モエちゃんは頑張ってくれてるよ。俺が色々注文しちゃって同時進行でやってくれているから……ごめんね」


「いえ、兄様……陛下のためですから」


「ありがとう、モエちゃん」


「兄様……」


「モエちゃん、こっちにおいで」


 俺が手招きして彼女を呼ぶ。


「はい、どうされましたか?」


 モエトゥルは近づき華奢な首を傾げる。

 くりっとした大きな紅い瞳でじっと見つめきた。


 俺は椅子から立ちあがり、モエトゥルの頭を優しく撫でる。


「あ、兄様……?」


「いつも感謝してるよ、モエちゃん」


 この子を見ていると、実の妹エミィを思い出す。

 性格やタイプ、雰囲気とかは全然違うけど、二人とも『兄思い』の妹だ。

 だから、つい同じことをしてしまう。


「兄様……(そんなに優しくされると、骨までトロけちゃいますぅ~)」


 モエトゥルの瞳が潤ませ、頬がピンク色に染まっていく。

 蒼白な肌な分、より一層目立っている。

 その普段見られない初心な仕草に思わず胸がきゅんと疼く。


 俺はモエトゥルに微笑みかけている中、マリーベルが姿を現した。


「あら――ここは空気がお悪いようですわねぇ」


 半ギレで微笑を膨らませてくる、サキュバスクイーンの副司令官。

 普段、隙あれば俺の貞操を狙ってくる分、俺が他の子と仲良くしているのが不快らしい。


 つーか、モエちゃんは俺ことザフトの妹だよね?


 俺はモエトゥルから離れ椅子に座る。モエトゥルも気まずそうに距離を置く。


「マリーさん、どうしたの?」


「プンプンプ~ン、ですわ!」


「怒らないでよ……今度、マリーさんにもしてあげるから」


「本当ですの、陛下ぁ? ではご報告いたしますわ~♪」


 速攻でマリーベルの機嫌が直った。


「モエトゥル様のおかげで、ゴブリンやオークに雌種が誕生したことで種族が順調に増えつつあります。三カ月後には地上で一戦を備えるだけの兵力が揃いましょう」


「そっか……いよいよ近づいてきたな」


「問題はそれを維持する軍資金ですが、出陣したダークロード達が反魔王派である『深き迷宮』の者達を駆逐し、『無窮の鉱山』を解放すれば今年度は維持できますわ」


「前から聞きたかったけど、無窮って名がつくから、無限に掘り当てられる鉱山じゃないのかい?」


「一年間で獲得できる鉱石量が決まっています。次に再生されるのに約一年間を要してしまいますわ」


「なるほど……『無窮の鉱山』の奪取は、魔王軍いや『魔王都』全体にとっても必須なんだね。でも、よくテロリスト達が潜伏しているかもしれないのに、ずっと放置してたよな?」


「ザフト様がいけないのですわ!」


「そうだったね……ごめん」


 前のザフトがエロ優先に好き放題していたから、側近達が動けないでいた。


 それだけの話だ。


 いくら一騎当千の有能な側近達でも、トップがあのざまじゃって感じだな。


 だがこれからは、俺の一存で魔王軍は繁栄も衰退もできるし、地上を制圧できるほどの最強軍団にも仕上げることができるのだ。


 つーより、なんでいちいち俺が謝るの?


「後は地上を征服しその地を開拓しながら、運営資金をなんとかしなければならないな……」


 国造りなんてやったことは当然ないがやるしかない。


 この世界を魔王軍で支配して、俺が秩序を変えてやるんだ。

 魔族と人間の境界線を失くしてやるぞ!


 そして、俺はセイリアと――。


「それと陛下、例の『天帝の黙示デウス・アポカリプス教団』の件ですが……」


 マリーベルの言葉で、俺の顔つきが変わる。

 ある意味、もう一つのザフトの側面である『魔王モード』だ。


「何かわかったかい?」


「その者達が与える影響力は各国によって様々ですが、その資金源など不明な部分が多いですわ」


「全能神デウスを信仰し、各国の神殿で『勇者育成委員会』を設置する見返りとして、国や神殿に莫大な援助金を寄付している……おかげで事実上、自分達が選んだ勇者を魔王討伐として送り出している組織だ。おまけに勇者に強力なスキルを覚醒させる技術といい……世界規模の教団とはいえ度が過ぎている」


「今後、勇者を誕生させないためにも座視できない存在ではありますわ」


「その通りだ。本当なら各国へ間者を送り、即刻『勇者育成委員会』から潰すべきだが……如何いかんせん、規模が広すぎる。きっとトカゲの尻尾切り程度しかならないだろう」


「したがって、教団の本拠地を叩き潰すのがセオリ―ですが何分実体不明なところが多く、場所の特定には至りませんわ」


「元勇者のペコパンから、ある程度の情報を入手できると思うが……20年前の情報だろうし、案外『奈落』のように特定されないため、その都度場所を変えているのかもしれない……敵もさることながらってやつさ」


 どちらにせよ、圧倒的に情報が不足している。

 そのために領土を拡大しながら、地上の調査も必要となるだろう。


「――ザフト様、カリシュア参りました」


 カリシュアが入ってくる。


 その後ろには死神族グリムリーパーとして改造された元勇者ライギスこと、ペコパンが立っている。

 赤い瞳に青白の肌。先が尖った両耳、燕尾服の上に彼女と御揃いの黒いフードマントを身にまとっている。

 顔立ちもすっかり引き締まり、なんかイケメンに見える。


 こうして見ると互いに、ペアルックっぽくて羨ましい……。


「ご苦労。気分はどうだい、ペコパン?」


「はい、お陰様で絶好調です。これも全て魔王ザフト様のおかげでございます」


 随分と口調も丁寧になっている。

 きっとこれから、カリシュアに魔族としてのルールを教えられるだろう。


 好きな子に手取り足取りか……いいなぁ。


「では、ペコパン。この魔王ザフトから祝いの言葉を送ろう。ようこそ深淵の闇へ――」






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『二度目から本気出すトラウマ劣等生の成り上がり~過去に戻され変えていくうちに未来で勇者に媚ってた筈の美少女達が何故か俺に懐いてきました~』

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