第44話 ずっと一緒の決意
~ライギスside
「――ペコパン」
覚悟を決めた俺の脳裏に、カリアの声が響く。
おお、最後の最後でラッキーだな。
やっぱり愛は偉大らしい。
しかし、どうしたんだ、魔王ザフト?
何故、とっとと殺らない?
「ペコパン、目を開けるのよ」
また聞こえてくるカリアの声に両目を開ける。
すぐ目の前に彼女の姿をあった。
幻じゃなく、正真正銘のカリアだ。
「カリア……どうして? 魔王に命じられて、キミが俺にトドメを?」
「そんなわけないじゃない……キミは許されたのよ、陛下に」
「魔王に許されたぁ? 俺が?」
俺は魔王ザフトの姿を探す。
いつの間にか、奴は石段上の玉座に腰を下ろし、両足を組みながら指先をつんつんしている。
「あのぅ、お二人さん。僕の前でイチャコラするの、やめてもらえますかぁ?」
ふざけたことを抜かしている。
「おい、魔王ザフト! どうして俺を殺さない!?」
「あっ、言い忘れたけど、俺が慈悲を持たないのは『勇者』だけだから……それ以外の者なら、クズ以外は比較的に寛容だよ」
「けど、俺は危険分子なんだろ!? 最後にそれっぽいこと言ってたじゃねぇか!?」
「その通りだ。今も、その考えに変わりない」
「だったらどうして?」
「カリシュアだ――」
「え?」
「彼女の報告で、ペコパンっという者は魔王ザフトに対して危害はないとわかったからだ」
「確かに、俺はもうあんたとやり合うつもりは微塵もない……だけど」
「前世のライギスのままなら間違いなく殺している。スキル獲得を放棄して即決にな。だが実際に見て話して、お前がそうじゃないと確信した。その潔い覚悟、澄んだ眼差しが何よりの証拠……そう変えてくれたのは、カリシュアの存在だと理解している」
「ああ、そうだ」
「それに事前に報告を受けた時、カリシュアからも『ペコパンを見逃してほしい』と頭を下げられ頼まれた……言っておくが、カリシュアは四天王の中でも最も俺に従順な子だ。だからこそ、絶対的に信頼し『隠密活動』の任務についている……きっとこれまで、この魔王ザフトに意見してくるなんてあり得なかっただろう」
「カ、カリアが……俺を?」
俺はカリアを見据えた。
彼女は頬を赤らませ、そっぽを向いている。
最高に可愛い……それに超嬉しい!
ただ魔王の任務で仲良くしてくれただけじゃなく、彼女なりに俺の身を案じてくれたってことだろ!?
やっべぇ! 幸せなんだけど!! 幸せすぎて涙が溢れてくるんだけど!!!
カリアは優しい子だった。
たとえ
やっぱり、俺はカリアが好きだ! どんな目にあってもこの気持ちに変わりない!
生きていいと許されるっていうのなら――
俺は玉座にいる魔王ザフトに向けて、両膝をつき土下座する。
「ペコパン?」
「何の真似だ?」
「――魔王ザフト様! 俺を……この俺を貴方様の配下に加えさせてください! どうかお願いいたします!」
突然の要望に、カリアは「ええっ!?」と声を荒げる。
一方、ザフトは頬杖をつき、骸骨の仮面越しで俺を見据えていた。
「ほ~う。それは、ただ単にカリシュアの傍にいたいからじゃなく、この魔王ザフトに忠誠を誓いたいという意思表示なのか?」
いや、ぶっちゃけ、ただ単にカリアの傍にいたいんだけど……そんなの正直に言える筈はねぇ。
ここは嘘も方便で、ご機嫌を伺うしかないぞ。
「はい! 魔王様は俺を危険だと言われました! それは俺の能力を認めて頂いたこと! その力、今後は貴方様の野望のために尽力を注ぎましょう! カリア……いえ、カリシュア様にお仕えになることで!」
何気に仕える代わり、カリアの部下にさせてくれとお願いしてみた。
仲間になったものの、まるっきり関係のない部署に飛ばされるのも意味がないからな。
「ふむ。カリシュアの隠密能力とお前の暗殺術は相性がいいかもな……それにお前は魔法にも長け、勇者ライギスとしての記憶も保持している。そういう奴が一人くらいいても面白い……だが問題もあるぞ」
「はい?」
「お前が人間であることだ。ここは『魔王都』、普通の人間がいつまでも居ていい場所じゃない。いくら冒険者としてカンストしているとはいえ、いずれ身体が蝕み死にいたるだろう……まぁ、人間の内通者として地上で活動する分には一向に構わないが……」
要するに、ロトブルとスレーフみたいな協力者ポジか……それじゃ意味ねぇな。
やっぱり四六時中、カリアの傍にいたい。
「では、俺を魔族にしてもらえないですか!? 出来れば、カリシュア様と同じ
「ペコパン……」
「見え見えだな、おい。俺よりも、カリシュアに忠誠を誓っているようなもんじゃん……まぁ、いい。モエトゥル――」
魔王ザフトが呼ぶと、気づけば先程の黒魔道師風の美少女が玉座の隣で佇んでいた。
「はい、兄様……いえ陛下」
「この者を
「問題ございません。丁度、陛下から申しつけられた、ゴブリンやオーク達の遺伝子操作で『雌化』も成功しております」
モエトゥルと呼ばれた黒魔道師は表情を変えず淡々した口調で答える。
思い切って言ってみたものの、ガチで人間を魔族にできるのかこいつら!?
しかも、ゴブリンやオークの雌化に成功だと……?
あんな醜悪な連中の雌だなんて想像したくねぇが、とんでもない魔法知識だ!
「それじゃ、後で頼むよ……最後に確認するぞ。本当に人間を捨て、魔王軍に加入するんだな、ペコパン?」
「はい! 勿論です、魔王様! その代わり、必ずカリシュア様の部下に……」
「わかった、わかった。お前の忠誠の条件として要求を呑むようにするよ。それと――」
魔王ザフトの姿がフッと消える。
気づけば、土下座している俺のすぐ隣でしゃがみ込んでいた。
そのまま誰にも聞こえない声で、俺に耳打ちしてくる。
「……さっき、お前に話した会話……俺の魂が人間のシユンで、本当はセイリアとよりを戻したいから世界征服を目論んでいるってことは誰にも言わないでくれ。それも部下にする条件だからな」
「は、はい……」
「それと、お前とカリシュアのことは応援しているよ。時折、こっそり二人で恋バナしょーぜ」
何だ、これ? なんだか奇妙な展開になっちまったぞ?
どうやら俺は、魔王ザフトの部下としてだけじゃなく、恋バナ友達にもなっちまったようだ。
……ま、いいか。
それから、魔王ザフトとモエトゥルは姿を消した。
広々とした『玉座の間』に、俺とカリアだけになる。
「……本当にいいの、ペコパン?」
カリアは切なそうな表情を浮かべる。
「ああ、俺に一切の迷いわない。ずっと、キミと一緒にいられるなら、カリア……」
俺は晴々とした気分で応えると、カリアは優しく微笑む。
「……ありがとう。でも前にも言ったけど、私は魔王ザフト様のモノよ。これから部下や仲間としては思ってあげれるけど、恋人同士には……」
「――友達じゃ駄目かい?」
「え?」
「ギルドで過ごした時のようにさぁ、一緒にご飯食べたりお喋りしたり……」
「そうね……友達ならいいわ。だけど任務外よ」
「おっし! それで十分!! 喜んで魔王ザフト様に忠誠誓うわ~!!!」
そう、今はそれでもいい――。
けどいずれ、振り向かせてみせる。
何年、何十年、何百年経とうとも……この命がある限り。
そのために魔族になるのだから。
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